プロローグ(修)
少し修正しました。話の大筋はなんら変わりありません
鳳家の本家の一室にて、僕は父さんの前で正座させられていた。
「10歳にもなってまだ1系統も魔法が使えないだと…?」
父さんの冷たい声が僕の胸に突き刺さる。僕はただ目線を自分の膝に落とし震える。
「情けない…弟の雅也と宗主の娘姉妹は既に2系統の魔法を扱えると言うのにお前は……」
父さんは失望を隠そうともせずに溜め息を吐く。
「何故俺と百合の子であるお前がこんなに無能なんだ?」
世界最高峰の術者である父と、魔法協議会の重鎮である母。
当初僕はとても期待されていた。当然だ。世界クラスで有名な父と母の間に生まれたのだから。
しかし、現実は厳しかった。いつまで経っても魔法一つ扱えない僕に、期待を掛けていた人達は掌を返したように、僕を蔑み始めた。宗主の娘である仲の良い咲姉さんや舞、そして弟である雅也はとても早い段階から魔法を使えるようになり、僕の立場は更に悪くなった。貼られた「無能」のレッテル。
僕だって、無能に生まれたくて生まれた訳じゃない。僕だって、才気溢れる弟や咲姉さんや舞みたいに生まれたかった。
体術や勉学などは誰よりも優れていても、魔法の実力絶対主義のこの家では何の意味も為さない。それが現実。
「仕方がない…お前のためだ……」
その言葉に僕は顔を上げ、父さんに期待した。今まで父さんが僕のためなんて言葉を使ってくれたことがなかったからだ。
胸に湧く希望。しかし、それは一瞬にして絶望へと叩き落とされた。
「煉夜…お前を外武錬に送り出す。」
「…え?」
外武錬。それは鳳の名に相応しく無い者が、鳳の名に相応しい実力を付けるため、外国へ武者修行をしにいくというモノ。
これだけ聞けば聞こえはいいが、その実態は力の無い恥曝しを海外へと捨てる、追放という意味のことだった。
「そ、そんな、父さん!僕もっと頑張るから、それだけは、それだけは!!」
僕は父さんの足にすがりつき必死に懇願する。しかし、父さんは僕を冷たい目で見ると、思い切り僕を蹴り飛ばす。どれだけの力を込めたのか、僕は壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられる。
「見苦しいぞ…明日、お前を送り出す。わかったらさっさと準備しろ。逃げようとしても無駄だだからな。」
そこまで言うと、父さんは壁際で痛みによりうずくまっている僕に一瞥もせずに部屋から出て行った。
「父、さん…!父さんっ!!とうさぁぁぁぁぁん!!」
僕の声は父さんはおろか、誰にも届くことなく、虚しく部屋にこだました……
そして次の日。僕は誰からも見送られることもなく、外国へと放り出された。
それから6年後
俺は鳳に捨てられ姓を失い、現在「白神 煉夜」と名乗っている。
俺は今日、この地に帰ってきた。と言っても、鳳に戻りにきたのではなく、ある依頼の為にわざわざ飛行機に乗ってやってきたわけだ。
「懐かしいが…感慨深いモノでもねぇな……」
まぁ、こちらでのいい思い出なんざ咲夜と舞、雅也と遊んだ時ぐらいしかねぇからな…
俺はとりあえず持ってきた荷物を担ぐと、依頼主のいる場所へと向かうことにした。
*
久々に帰ってきていろいろと変わった故郷を眺めながら移動し、約束の場所である高級レストランに着く。
「…俺スーツ持ってないが…大丈夫か?」
そんなことを悩みながら、レストランの前で立ち尽くしていると、俺の前に一台のリムジンが停まる。
「君が、白神 煉夜かね?」
運転席から出てきた黒服の男がリムジンの扉を開き、中から出てきたのは威厳溢れる老人だった。
その人物の名は高宮龍之介。世界的に有名な大企業の会長だ。まさかこんなビッグネームが俺に依頼してくるとはな…
「あぁ、そうだが?」
「…君の二つ名と噂は聞いているが、まだ若いではないか。本当に信用なるのか…?」
「決めんのはあんただ。信用できないなら止めるんだな。」
高宮の爺さんは黙り込み、何やら品定めをするかのように俺の目を覗き込む。
男と見つめ合う趣味はないんだが…
「少年とは思えぬほどの深く強い目をしている…うむ、わかった。信用しよう。」
「随分簡単に信用するんだな。まぁ、別にいいが…じゃあ早速仕事の話に入ろう…」
「まぁ、待ちなさい。君はまだ若いからいいが、私は見ての通りの老いぼれだ。立ち話はちとキツい。そこの店の中で話をしよう。」
そう言うと、俺の背後にある高級レストランを指す。
「俺、私服なんだが…?」
「構わんよ。ここは私が経営している店だからの。」
「ヒュウ♪いいねぇ、お金持ち様は。なら折角だし奢ってくれよ。」
「あぁ、構わんよ。」
おっし、寛大な依頼主様万歳!久々にがっつりと飯が食える。
俺は表情は変えないまま心の中でガッツポーズをする。
そのまま俺はレストランへと入り、高宮の爺さんは黒服の男と何やら話してから後に続いた。
*
「で、依頼ってのは?」
俺は運ばれてくる料理を一応マナーを守りながら口に運び、咀嚼しながら依頼内容を尋ねる。
高宮の爺さんはそれを咎めることなく話し始める。
器でかいねぇ…小さいことは気にしないか…
「うむ、私には可愛い孫娘がいてな。その孫娘が最近ストーカー被害にあっているらしいのだ。」
「…おい、まさか俺の依頼ってのは……」
正直嫌な予感しかしねぇ…
「うむ、私の孫娘をその輩から守って欲しいのだ!」
予感的中〜。料理で上がっていたテンションがた落ち〜。
おいおい、俺はそんな依頼の為にわざわざ嫌な思い出しかないこの地に戻ってきたのか…
「はぁ、正直気が乗らねぇな…」
「……断ると言うのかな?」
つい、溜め息と共に本音が出てしまい、高宮の爺さんが俺をジロリと睨んでくる。
おぉ、流石の威圧感だな、怖ぇ怖ぇ。
「ここまで来て断るかよ。謹んで御受けさせてもらいましょう」
断ったら何されるかわかんねぇしな…という言葉は呑み込んでおくことにする。言ったらマジで何かされる可能性もあるからな。危ない橋は全力で突っ走るか無視をしろ。コレ俺のポリシーね。
「そうか、それは良かった。もしも君が断っていたら…さて詳しい内容だが……」
うん、素直に断らなくてよかったと思う。
脅しは自分の専売特許だと思っていた俺の恐怖と不安をよそに、高宮の爺さんは話を進めていく。
「孫娘は現在私が理事長をしているルミナス魔法学院に通っている。」
「へぇ、それはまた…あの数々のエリートを輩出している魔法の超名門校か。」
「うむ、しかし先程も言ったように最近ストーカーが頻繁に現れてな、孫娘は精神的に参ってしまっているのだ。」
「正直、俺みたいな得体の知れない奴に頼むより、アンタの権限で護衛とかを付けたりした方がいいと思うんだが…」
「無論それは既に試した。しかし、相手は相当な腕の魔導士らしくてな。全員返り討ちにされてしまったよ…」
「ほぅ…」
あの学院は確か魔力値が10000超えしていないと入学できない超エリート学校の筈だ。魔力値は一般人の平均が約100だからどれだけ入学が難しいのかわかるだろう。才能のある者にのみ入学を許される学校。それを教える教師陣の実力も相当なモノだ。それを返り討ちにする実力…面白そうじゃないか。
「ちょっとはやる気出てきたな。で、俺はどうすればいい?その孫娘さんを付きっきりで護衛すればいいのか?それともストーカーよろしくずっと孫娘を影から見張っておこうか?昔資料で見たことあるが、あそこ程度のセキュリティーなら楽に突破できるぞ。」
「その様なことをしたら社会的に殺すが、安心しなさい。私に考えがある。」
さり気なく俺を脅しながら高宮の爺さんは黒服の男に声を掛ける。
黒服の男はアタッシュケースを持ってきて俺に手渡す。
俺は首を傾げながら依頼主に尋ねる。
「…これは?」
「開けてみなさい。」
依頼主は微笑みながら俺に開けるよう促す。
俺はいろいろと勘ぐりながらも言われた通りアタッシュケースを開ける。
「これは…」
中から出てきたのは藍色をベースとした、高級感漂うブレザーと生徒手帳。
「それはルミナス魔法学院の制服だ。孫娘は特別扱いを嫌うのでな、護衛を付けたがらないのだ。だからと言って監視のような真似はしたくはない。よって君があの学校に潜入して孫娘に気付かれぬよう護ってやってほしい。」
「護衛を付けたがらない?さっき護衛は返り討ちにあったとか言ってなかったか?」
「その護衛は教職員に変装させていたのだ。何故かストーカーにはバレたがの…」
教職員に変装させたにも関わらずバレた…相手は本来の教職員の顔と名前を全員覚えているのか?
ま、考えるのは後だ。「ルミナス魔法学院か…楽しくなりそうだ。」
今はこれから起きるであろう状況を楽しませてもらおう。