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# 第九話:仕組まれた夜
夜は、静かすぎた。
町を追い出された三人は、街道から外れた森の縁で野営していた。
焚き火は使えない。
闇に溶けるように、身を低くする。
◇
「交代で見張りだ」
レオンが言う。
「俺が最初に立つ」
ミラが頷く。
カイは反対しなかった。
だが、胸の奥で警鐘が鳴っている。
(……今夜だ)
◇
二刻ほどが過ぎた頃。
遠くで、獣の鳴き声が止んだ。
森が、息を殺す。
カイは目を開けた。
左眼が、はっきりと疼く。
◇
――ヒュッ。
空気を裂く音。
今度は、一本ではない。
「伏せろ!」
同時に、複数の矢が降り注いだ。
地面に突き立つ音。
包囲。
完全に、読まれている。
◇
黒装束の影が、森の奥から現れた。
数は五。
動きに無駄がない。
「またお前らか……!」
ミラが魔法陣を展開する。
だが――
地面が、光った。
◇
「罠だ!」
カイが叫ぶ。
遅かった。
足元の魔法陣が起動し、衝撃が走る。
視界が揺れ、体が重くなる。
拘束系。
◇
レオンが斬りかかる。
だが、相手は退かない。
むしろ――時間を稼いでいる。
「……目的は、俺だな」
カイは悟った。
◇
左眼が、灼けるように疼く。
(ここで開けば、終わる)
敵も、味方も。
だが――
◇
「ミラ、後ろ!」
カイの叫び。
同時に、別方向から刃が伸びる。
ミラは避けきれず、地面に倒れた。
血が、滲む。
◇
一瞬。
時間が、引き延ばされたように感じられた。
このままでは、死ぬ。
仲間が。
◇
カイは、左眼を――
半分だけ、開いた。
◇
世界が、変わる。
距離が、線になる。
動きが、数式のように見える。
最短。
最小。
◇
カイは、踏み込んだ。
拘束を引き裂き、刃を走らせる。
一人。
二人。
三人。
致命点だけを、正確に。
◇
残った二人は、即座に退いた。
森が、再び沈黙する。
◇
カイは、膝をついた。
視界が、揺れる。
左眼から、温かいものが流れた。
代償。
◇
「……カイ!」
ミラが、震える声で呼ぶ。
無事だ。
それだけで、十分だった。
◇
レオンは、立ち尽くしていた。
カイを見る目に、
恐怖と――
確信が混じっている。
◇
夜が、終わる。
だが――
戻れない一線を、
確かに、越えてしまった。
この力を、
もう、
誰も見なかったふりはできない。




