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# 第九話:仕組まれた夜


夜は、静かすぎた。


町を追い出された三人は、街道から外れた森の縁で野営していた。


焚き火は使えない。


闇に溶けるように、身を低くする。



「交代で見張りだ」


レオンが言う。


「俺が最初に立つ」


ミラが頷く。


カイは反対しなかった。


だが、胸の奥で警鐘が鳴っている。


(……今夜だ)



二刻ほどが過ぎた頃。


遠くで、獣の鳴き声が止んだ。


森が、息を殺す。


カイは目を開けた。


左眼が、はっきりと疼く。



――ヒュッ。


空気を裂く音。


今度は、一本ではない。


「伏せろ!」


同時に、複数の矢が降り注いだ。


地面に突き立つ音。


包囲。


完全に、読まれている。



黒装束の影が、森の奥から現れた。


数は五。


動きに無駄がない。


「またお前らか……!」


ミラが魔法陣を展開する。


だが――


地面が、光った。



「罠だ!」


カイが叫ぶ。


遅かった。


足元の魔法陣が起動し、衝撃が走る。


視界が揺れ、体が重くなる。


拘束系。



レオンが斬りかかる。


だが、相手は退かない。


むしろ――時間を稼いでいる。


「……目的は、俺だな」


カイは悟った。



左眼が、灼けるように疼く。


(ここで開けば、終わる)


敵も、味方も。


だが――



「ミラ、後ろ!」


カイの叫び。


同時に、別方向から刃が伸びる。


ミラは避けきれず、地面に倒れた。


血が、滲む。



一瞬。


時間が、引き延ばされたように感じられた。


このままでは、死ぬ。


仲間が。



カイは、左眼を――


半分だけ、開いた。



世界が、変わる。


距離が、線になる。


動きが、数式のように見える。


最短。


最小。



カイは、踏み込んだ。


拘束を引き裂き、刃を走らせる。


一人。


二人。


三人。


致命点だけを、正確に。



残った二人は、即座に退いた。


森が、再び沈黙する。



カイは、膝をついた。


視界が、揺れる。


左眼から、温かいものが流れた。


代償。



「……カイ!」


ミラが、震える声で呼ぶ。


無事だ。


それだけで、十分だった。



レオンは、立ち尽くしていた。


カイを見る目に、


恐怖と――


確信が混じっている。



夜が、終わる。


だが――


戻れない一線を、


確かに、越えてしまった。


この力を、


もう、


誰も見なかったふりはできない。


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