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# 第七話:尾行者


街道は、朝靄に包まれていた。


三人は無言のまま歩いている。


足音だけが、規則正しく続く。


言葉を交わさなくなってから、まだ一日も経っていない。


それでも――距離は、確かに広がっていた。



カイは、背後に意識を向けていた。


視線。


ごく薄い、しかし確実な違和感。


(……つけられている)


左眼が、わずかに疼く。


だが、彼は開かなかった。


まだ、証拠が足りない。



「少し休もう」


レオンが、不自然なほど明るい声で言った。


街道脇の林へと、三人は入る。


水筒を取り出し、腰を下ろす。


その時だった。


枝が、踏まれた音。


ほんの一瞬。


だが、ミラも気づいた。


「……今、聞こえなかった?」


「風だろ」


レオンは即座に否定した。


早すぎる。


カイの胸に、冷たいものが落ちた。



休憩を終え、再び歩き出す。


今度は、林を抜ける細道。


視界が悪い。


(来るなら、ここだ)



――ヒュッ。


空を裂く音。


矢が、地面に突き刺さった。


「伏せろ!」


カイが叫ぶ。


次の瞬間、三方向から人影が飛び出した。


黒装束。


顔は布で覆われている。


仮面ではない。


だが――


「狙いは、俺だ」


カイは前に出た。



レオンが剣を振るい、敵の一人を押し返す。


ミラの魔法が、地面を凍らせる。


連携は、まだ生きていた。


だが――


一瞬の隙。


レオンの動きが、遅れた。


「……っ!」


刃が、カイの肩をかすめる。


血が、飛んだ。



カイは歯を食いしばり、反撃する。


最小限の動き。


致命点だけを狙う。


数呼吸の後、襲撃者たちは退いた。


林に、静けさが戻る。



「大丈夫!?」


ミラが駆け寄る。


「問題ない」


傷は浅い。


だが、心の方は違った。



「……さっきの遅れ、何だ?」


カイは、静かに問う。


レオンは、一瞬だけ目を伏せた。


「足を取られただけだ」


嘘だ。


確信があった。



その夜。


野営地の外れで、


レオンが誰かと、小声で話している。


カイは、見なかったことにした。


見れば――


もう、戻れなくなる気がしたからだ。



焚き火の音だけが、夜に響く。


ミラは眠っている。


カイは、剣を抱えたまま目を閉じた。


(……次は、確実に来る)


尾行者は、一人ではない。


そして――


敵は、


外だけとは限らないのだから。


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