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# 第七話:尾行者
街道は、朝靄に包まれていた。
三人は無言のまま歩いている。
足音だけが、規則正しく続く。
言葉を交わさなくなってから、まだ一日も経っていない。
それでも――距離は、確かに広がっていた。
◇
カイは、背後に意識を向けていた。
視線。
ごく薄い、しかし確実な違和感。
(……つけられている)
左眼が、わずかに疼く。
だが、彼は開かなかった。
まだ、証拠が足りない。
◇
「少し休もう」
レオンが、不自然なほど明るい声で言った。
街道脇の林へと、三人は入る。
水筒を取り出し、腰を下ろす。
その時だった。
枝が、踏まれた音。
ほんの一瞬。
だが、ミラも気づいた。
「……今、聞こえなかった?」
「風だろ」
レオンは即座に否定した。
早すぎる。
カイの胸に、冷たいものが落ちた。
◇
休憩を終え、再び歩き出す。
今度は、林を抜ける細道。
視界が悪い。
(来るなら、ここだ)
◇
――ヒュッ。
空を裂く音。
矢が、地面に突き刺さった。
「伏せろ!」
カイが叫ぶ。
次の瞬間、三方向から人影が飛び出した。
黒装束。
顔は布で覆われている。
仮面ではない。
だが――
「狙いは、俺だ」
カイは前に出た。
◇
レオンが剣を振るい、敵の一人を押し返す。
ミラの魔法が、地面を凍らせる。
連携は、まだ生きていた。
だが――
一瞬の隙。
レオンの動きが、遅れた。
「……っ!」
刃が、カイの肩をかすめる。
血が、飛んだ。
◇
カイは歯を食いしばり、反撃する。
最小限の動き。
致命点だけを狙う。
数呼吸の後、襲撃者たちは退いた。
林に、静けさが戻る。
◇
「大丈夫!?」
ミラが駆け寄る。
「問題ない」
傷は浅い。
だが、心の方は違った。
◇
「……さっきの遅れ、何だ?」
カイは、静かに問う。
レオンは、一瞬だけ目を伏せた。
「足を取られただけだ」
嘘だ。
確信があった。
◇
その夜。
野営地の外れで、
レオンが誰かと、小声で話している。
カイは、見なかったことにした。
見れば――
もう、戻れなくなる気がしたからだ。
◇
焚き火の音だけが、夜に響く。
ミラは眠っている。
カイは、剣を抱えたまま目を閉じた。
(……次は、確実に来る)
尾行者は、一人ではない。
そして――
敵は、
外だけとは限らないのだから。




