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# 第六話:亀裂


夜明け前。


倉庫街の騒ぎから一夜が明けても、三人の間に漂う重さは消えなかった。


宿の二階。


簡素な部屋で、カイ、レオン、ミラは向かい合って座っている。


沈黙が、長すぎた。



「……説明してくれ」


先に口を開いたのは、レオンだった。


声は低く、冗談の色はない。


「仮面の連中は、お前を知っていた」


「“魔眼”って言葉もな」


カイは、視線を床に落としたまま答えなかった。


否定も、肯定もできない。



「ねえ、カイ」


ミラの声は震えていた。


「あなたが危険な人だって言うなら……私たちにも、知る権利がある」


その言葉は正しかった。


仲間でいるなら。


だが――



「俺は、追われている」


カイは、ようやく口を開いた。


「それ以上は言えない」


部屋の空気が、凍りつく。


「それだけか?」


レオンの目が細くなる。


「俺たちが巻き込まれる理由は?」


「……すまない」


それが、今のカイに言える限界だった。



沈黙。


ミラは唇を噛みしめ、視線を逸らす。


レオンは、しばらくカイを見つめていたが、やがて立ち上がった。


「分かった」


意外にも、声は冷静だった。


「今は、それでいい」



だが、その夜。


カイは、階下から微かな話し声を聞いた。


壁越しに、途切れ途切れの会話が届く。


「……危険すぎる」


「でも、あの力は……」


レオンの声。


そして――ミラではない、第三者の気配。



カイは、そっと剣に手を伸ばした。


扉の向こうで、何かが動く。


左眼が、強く疼いた。


(……来るか?)


だが、足音は遠ざかっていく。



翌朝。


三人は、何事もなかったかのように街を出た。


目的地は、次の町。


だが――


道中、レオンがふと振り返る。


その視線は、仲間を見るものではなかった。



カイは悟る。


この旅は、もう元には戻らない。


信頼は、音もなく崩れ始めている。


それでも、前に進むしかなかった。


仮面の組織。


魔眼。


そして――


裏切りの影。


それらすべてが、


静かに、しかし確実に、


彼らの背後に迫っていた。


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