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# 第六話:亀裂
夜明け前。
倉庫街の騒ぎから一夜が明けても、三人の間に漂う重さは消えなかった。
宿の二階。
簡素な部屋で、カイ、レオン、ミラは向かい合って座っている。
沈黙が、長すぎた。
◇
「……説明してくれ」
先に口を開いたのは、レオンだった。
声は低く、冗談の色はない。
「仮面の連中は、お前を知っていた」
「“魔眼”って言葉もな」
カイは、視線を床に落としたまま答えなかった。
否定も、肯定もできない。
◇
「ねえ、カイ」
ミラの声は震えていた。
「あなたが危険な人だって言うなら……私たちにも、知る権利がある」
その言葉は正しかった。
仲間でいるなら。
だが――
◇
「俺は、追われている」
カイは、ようやく口を開いた。
「それ以上は言えない」
部屋の空気が、凍りつく。
「それだけか?」
レオンの目が細くなる。
「俺たちが巻き込まれる理由は?」
「……すまない」
それが、今のカイに言える限界だった。
◇
沈黙。
ミラは唇を噛みしめ、視線を逸らす。
レオンは、しばらくカイを見つめていたが、やがて立ち上がった。
「分かった」
意外にも、声は冷静だった。
「今は、それでいい」
◇
だが、その夜。
カイは、階下から微かな話し声を聞いた。
壁越しに、途切れ途切れの会話が届く。
「……危険すぎる」
「でも、あの力は……」
レオンの声。
そして――ミラではない、第三者の気配。
◇
カイは、そっと剣に手を伸ばした。
扉の向こうで、何かが動く。
左眼が、強く疼いた。
(……来るか?)
だが、足音は遠ざかっていく。
◇
翌朝。
三人は、何事もなかったかのように街を出た。
目的地は、次の町。
だが――
道中、レオンがふと振り返る。
その視線は、仲間を見るものではなかった。
◇
カイは悟る。
この旅は、もう元には戻らない。
信頼は、音もなく崩れ始めている。
それでも、前に進むしかなかった。
仮面の組織。
魔眼。
そして――
裏切りの影。
それらすべてが、
静かに、しかし確実に、
彼らの背後に迫っていた。




