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# 第五話:仮面の噂


朝の空気は、どこか重かった。


宿の一階。


簡素な朝食を前に、三人は言葉少なに座っていた。


昨夜の出来事を、誰も口にしない。


だが――確実に、空気は変わっていた。



「次の依頼を探そう」


最初に口を開いたのはレオンだった。


いつも通りの軽い口調。


だが、どこか演技めいている。


ギルドへ向かう道すがら、町の掲示板の前で人だかりができていた。


「また出たらしいぞ」


「仮面の連中だ」


その言葉に、カイの足が一瞬止まる。


仮面。


聞き捨てならない単語だった。



掲示板に貼られていた依頼書は、一枚だけ赤く縁取られていた。


――《夜間警備依頼》


内容は単純だが、不穏だった。


夜になると、郊外の倉庫街で人が消える。


犯人は不明。


ただし、生存者は皆、同じ証言をしている。


「仮面を被った者たちを見た」



「気味が悪いわね……」


ミラが小さく呟く。


「報酬は悪くない」


レオンは依頼書を指で弾いた。


「それに、噂の正体を確かめるいい機会だ」


カイは黙って頷いた。


理由は違えど、断る選択肢はなかった。



夜。


倉庫街は、月明かりすら届かないほど暗かった。


木箱と石壁の影が、複雑に重なり合う。


「静かすぎる……」


ミラが魔力を抑えながら囁く。


その時。


――カラン。


金属音が、遠くで鳴った。


三人は同時に身構える。



闇の中から、現れたのは三人の人影。


全員が、白い仮面をつけていた。


表情のない仮面。


感情のない視線。


「……見つけた」


くぐもった声が、闇に溶ける。


次の瞬間、魔法陣が展開された。


「下がって!」


ミラが叫び、防御魔法を張る。


爆風。


倉庫の壁が砕け、粉塵が舞い上がった。



カイは、剣を抜いた。


左眼が、はっきりと疼く。


(まずい……こいつらは)


相手は、ただの盗賊ではない。


動きに、明確な訓練の跡があった。


レオンが斬りかかるが、仮面の男は軽く受け流す。


「強い……!」


その瞬間。


仮面の一人が、カイを見た。


そして――


仮面の奥で、笑った。


「やはり、魔眼はここにいたか」


時間が、止まったように感じられた。


レオンとミラが、同時にカイを見る。


沈黙。


仮面の男は、ゆっくりと後退する。


「今は退く。だが――」


「いずれ、迎えに来る」


白い仮面が、闇に溶けて消えた。



残されたのは、壊れた倉庫と、重い沈黙だけだった。


「……今の、どういう意味?」


ミラの声は、震えていた。


カイは、答えなかった。


答えられなかった。


レオンは、何も言わず、仮面たちが消えた闇を見つめている。


その背中が、ひどく遠く感じられた。


こうして――


仮面の組織は、


確かに、三人の前に姿を現したのだった。


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