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# 第四話:町の夜と違和感


夕暮れの光が、街を橙色に染めていた。


鉱山道の依頼を終えた三人は、久しぶりに人の多い場所へ戻ってきていた。


石造りの建物が並ぶ小さな町。


露店の呼び声、酒場から漏れる笑い声。


そのすべてが、カイには少し眩しく感じられた。



「今日は奢りだ!」


レオンがそう言って、酒場の扉を勢いよく開けた。


中は騒がしく、冒険者や鉱夫たちで溢れている。


ミラは控えめに微笑み、空いた席に腰を下ろした。


「……こういうの、久しぶり」


「生きて帰れた証拠だろ?」


レオンは笑いながら、酒を注文する。


カイは、少し離れた席に座り、周囲を観察していた。


――視線が、多い。


敵意ではない。


だが、好奇心と警戒が入り混じった、不快な視線。



酒が進むにつれ、レオンの口数は増えていった。


「なあ、カイ」


「……何だ」


「あの時の動き。普通じゃなかった」


カイはグラスに視線を落としたまま答える。


「たまたまだ」


「本当に?」


その問いに、空気がわずかに張り詰める。


ミラが慌てて割って入った。


「レオン、深追いしすぎよ。命拾いしたんだから」


「悪い悪い」


レオンは笑ったが、その目は、どこか計るようだった。



夜。


三人は安宿の二階に、それぞれ部屋を取った。


カイはベッドに腰掛け、剣を膝に置いたまま目を閉じる。


眠れるはずがなかった。


左眼の奥が、微かに疼く。


そして――


廊下の向こうで、足音が止まった。


静かすぎる。


カイは息を殺し、気配を探る。


二人分。


レオンと、もう一人。


(……ミラ?)


小声で、会話が聞こえた。


「……本当に、あいつなの?」


「分からない。でも、噂と一致しすぎてる」


「もし魔眼だったら……」


そこで声が途切れた。


足音が遠ざかる。



カイは、天井を見上げたまま動かなかった。


胸の奥が、冷たくなる。


疑われている。


それだけの話だ。


それなのに――


なぜか、胸が少し痛んだ。


(……当然だ)


力を隠している以上、いつかはこうなる。


それでも。


三人で剣を交え、笑い合った時間が、確かにあった。


カイは、そっと左眼を押さえた。


この旅は、


仲間を得るためのものではない。


そう言い聞かせるように、心の中で繰り返す。


だが――


町の夜は静かに更けていき、


疑念という名の影が、


確実に、三人の間に落ち始めていた。


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