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# 第四話:町の夜と違和感
夕暮れの光が、街を橙色に染めていた。
鉱山道の依頼を終えた三人は、久しぶりに人の多い場所へ戻ってきていた。
石造りの建物が並ぶ小さな町。
露店の呼び声、酒場から漏れる笑い声。
そのすべてが、カイには少し眩しく感じられた。
◇
「今日は奢りだ!」
レオンがそう言って、酒場の扉を勢いよく開けた。
中は騒がしく、冒険者や鉱夫たちで溢れている。
ミラは控えめに微笑み、空いた席に腰を下ろした。
「……こういうの、久しぶり」
「生きて帰れた証拠だろ?」
レオンは笑いながら、酒を注文する。
カイは、少し離れた席に座り、周囲を観察していた。
――視線が、多い。
敵意ではない。
だが、好奇心と警戒が入り混じった、不快な視線。
◇
酒が進むにつれ、レオンの口数は増えていった。
「なあ、カイ」
「……何だ」
「あの時の動き。普通じゃなかった」
カイはグラスに視線を落としたまま答える。
「たまたまだ」
「本当に?」
その問いに、空気がわずかに張り詰める。
ミラが慌てて割って入った。
「レオン、深追いしすぎよ。命拾いしたんだから」
「悪い悪い」
レオンは笑ったが、その目は、どこか計るようだった。
◇
夜。
三人は安宿の二階に、それぞれ部屋を取った。
カイはベッドに腰掛け、剣を膝に置いたまま目を閉じる。
眠れるはずがなかった。
左眼の奥が、微かに疼く。
そして――
廊下の向こうで、足音が止まった。
静かすぎる。
カイは息を殺し、気配を探る。
二人分。
レオンと、もう一人。
(……ミラ?)
小声で、会話が聞こえた。
「……本当に、あいつなの?」
「分からない。でも、噂と一致しすぎてる」
「もし魔眼だったら……」
そこで声が途切れた。
足音が遠ざかる。
◇
カイは、天井を見上げたまま動かなかった。
胸の奥が、冷たくなる。
疑われている。
それだけの話だ。
それなのに――
なぜか、胸が少し痛んだ。
(……当然だ)
力を隠している以上、いつかはこうなる。
それでも。
三人で剣を交え、笑い合った時間が、確かにあった。
カイは、そっと左眼を押さえた。
この旅は、
仲間を得るためのものではない。
そう言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
だが――
町の夜は静かに更けていき、
疑念という名の影が、
確実に、三人の間に落ち始めていた。




