036
# 第三十六話:眼ではない
血が、
落ちていた。
◇
石畳の上。
◇
それは、
カイの血だった。
◇
ミラは、
歯を食いしばる。
◇
「もう……
◇
やめて」
◇
カイは、
答えない。
◇
視界が、
歪む。
◇
血の瞳が、
◇
開いたまま、
◇
震えている。
◇
《ブラッド・アイ》
◇
それは、
未来を見る力。
◇
選択の結果を、
◇
強制的に見せる力。
◇
だが――
◇
今回は、
◇
何も見えなかった。
◇
闇。
◇
無音。
◇
「……見えない?」
◇
カイは、
笑った。
◇
「違う」
◇
「もう、
◇
見る必要がない」
◇
ミラは、
◇
息を止める。
◇
「それって……」
◇
カイは、
◇
自分の胸を叩いた。
◇
ドクン。
◇
心臓の音。
◇
「選択は、
◇
ここでする」
◇
「眼じゃない」
◇
「意志だ」
◇
血の光が、
◇
ゆっくりと、
◇
消えていく。
◇
代わりに。
◇
胸の奥から、
◇
黒い熱が、
◇
立ち上る。
◇
空間が、
◇
軋んだ。
◇
魔法陣も、
◇
術式も、
◇
存在しない。
◇
ただ、
◇
立っているだけで。
◇
周囲が、
◇
跪いた。
◇
ミラの膝も、
◇
震える。
◇
「カイ……
◇
今のあなたは……」
◇
カイは、
◇
彼女を見た。
◇
優しく。
◇
だが、
◇
恐ろしく。
◇
「王じゃない」
◇
「怪物でもない」
◇
「ただ――
◇
選び続ける人間だ」
◇
遠くで。
◇
仮面の通信が、
◇
割り込む。
◇
《確認》
◇
《ブラッド・アイ消失》
◇
《第二段階、
◇
完了》
◇
ミラは、
◇
唇を噛む。
◇
「……戻れないね」
◇
カイは、
◇
前を向いた。
◇
「ああ」
◇
「最初から、
◇
戻る道なんてなかった」
◇
世界が、
◇
静かに、
◇
王を認識した。




