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003

# 第三話:最初の依頼


朝霧が、街道を覆っていた。


カイ、レオン、ミラの三人は、街の外れにある小さな冒険者ギルドの前に立っていた。


木造の建物は古く、看板の文字も半分ほど剥げ落ちている。


「ここが……ギルド?」


ミラが少し不安そうに呟いた。


「安心しろよ。田舎はだいたいこんなもんだ」


レオンは気楽そうに笑い、扉を押し開けた。


中は思った以上に静かだった。


数人の冒険者が酒を飲み、壁には依頼書が雑多に貼られている。


視線が、一斉に三人へ向けられた。


特に――カイへ。


理由は分からない。


だが、左眼の奥が微かに疼いた。


「……落ち着け」


カイは心の中で、自分に言い聞かせる。



受付にいた中年の男が、面倒そうに顔を上げた。


「新入りか?」


「護衛の依頼を探してる」


レオンが答えると、男は鼻で笑った。


「三人でか。まあいい。死んでも文句は言うなよ」


そう言って、彼は一枚の依頼書を差し出した。


――《鉱山道の魔獣討伐》


内容は単純だった。


街と鉱山を結ぶ道に現れた魔獣を討伐する。


報酬は安い。


だが、初心者向けと書かれている。


「最初には悪くない」


レオンが即決した。


ミラは少し迷ったあと、カイを見る。


「……大丈夫?」


「問題ない」


短く答え、カイは依頼書を受け取った。



鉱山道は、思ったよりも険しかった。


岩肌がむき出しになり、視界も悪い。


「ここ、嫌な感じがする……」


ミラが小声で言った、その瞬間。


風が止んだ。


空気が、重く沈む。


カイは足を止めた。


「来る」


次の瞬間、岩陰から飛び出したのは――巨大な魔獣だった。


猪に似た体躯。


皮膚は岩のように硬く、牙には魔力が渦巻いている。


「散開しろ!」


レオンが叫び、前に出る。


剣がぶつかり合い、火花が散った。


だが、刃は通らない。


「硬すぎる……!」


ミラが魔法陣を展開し、風の魔法を放つ。


しかし、それでも魔獣は止まらなかった。


――まずい。


カイの左眼が、疼く。


開けば、すぐに終わる。


だが――


(まだだ)


彼は歯を食いしばり、剣を構え直した。


距離。


動き。


ほんの一瞬の隙。


「レオン、三歩下がれ」


「え?」


次の瞬間。


魔獣が突進し、その動きが、わずかに乱れた。


そこだ。


カイは滑り込むように踏み込み、関節の隙間へ刃を叩き込んだ。


断末魔。


巨体が崩れ落ち、地面が揺れた。


静寂が戻る。


レオンは目を見開いた。


「……今の、どうやった?」


「偶然だ」


カイはそう言って、視線を逸らした。


ミラも、何か言いたげに彼を見ている。



依頼は成功した。


だが、ギルドへ戻る道すがら――


カイは、背中に刺さる視線を感じていた。


疑念。


驚き。


そして、かすかな恐怖。


(……もう、始まっている)


仲間と呼べる距離。


だが、完全な信頼には、まだ遠い。


この旅は、


まだ始まったばかりなのだから。


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