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# 第二十五話:名もなき選択
夜明け前。
地下都市は、
息を殺していた。
◇
旧評議塔。
◇
高く、
冷たい塔。
◇
ラグナは、
円形広間の中央に立つ。
◇
鎖に繋がれた、
ミラ。
◇
「来ると思っていた」
◇
仮面将は、
ゆっくりと告げる。
◇
「血の眼は、
感情に弱い」
◇
その言葉に、
返事はない。
◇
天井。
◇
静かに、
ひびが走る。
◇
一歩。
◇
影から、
カイが現れた。
◇
左眼は、
深い赤。
◇
だが――
◇
揺れていない。
◇
「取引だ」
◇
ラグナが言う。
◇
「彼女と引き換えに、
地下から去れ」
◇
「二度と、
我々に刃を向けるな」
◇
沈黙。
◇
ミラが、
首を振る。
◇
「ダメ……」
◇
「それは――」
◇
カイは、
一歩、前に出た。
◇
「選択は、
二つじゃない」
◇
血の眼が、
世界を映す。
◇
――彼女を救う未来。
◇
――街が滅ぶ未来。
◇
――そして。
◇
――どちらにも属さない、
◇
歪んだ一本の道。
◇
「……馬鹿な」
◇
ラグナが、
仮面の奥で息を呑む。
◇
「それは、
選択じゃない」
◇
「未来を――」
◇
「名付けない」
◇
カイは、
自分の左眼に、
刃を向けた。
◇
ミラが、
叫ぶ。
◇
「やめて!」
◇
次の瞬間。
◇
血の眼が、
◇
“閉じた”。
◇
世界から、
分岐が消える。
◇
未来が、
見えなくなる。
◇
代償。
◇
視界が、
白く染まる。
◇
痛み。
◇
だが――
◇
恐怖は、
なかった。
◇
鎖が、
崩れ落ちる。
◇
ラグナの結界が、
不完全になる。
◇
理解不能。
◇
予測不能。
◇
それが――
◇
仮面の支配を、
◇
壊した。
◇
爆音。
◇
塔が、
傾く。
◇
ミラは、
解放された。
◇
カイは、
膝をつく。
◇
左眼から、
血が溢れる。
◇
「なぜだ……」
◇
ラグナの声が、
震える。
◇
「未来を、
捨ててまで」
◇
カイは、
顔を上げた。
◇
「違う」
◇
「奪われる前に、
捨てた」
◇
「俺は――」
◇
「名前で、
縛られない」
◇
崩壊。
◇
評議塔が、
夜に沈む。
◇
地下都市は、
静まり返った。
◇
その日から。
◇
人々は、
彼をこう呼ぶ。
◇
――名もなき王。




