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# 第十九話:最初の狩り
地下都市。
血の眼が目覚めた夜。
◇
噂は、速かった。
「仮面が一人、消えるらしい」
◇
カイは、闇市の屋根で風を読む。
怒りはない。
ただ、選択だけがある。
◇
(切り捨てる未来を――選ぶ)
◇
標的は一人。
《白仮面・第七位》
名を与える役目を担う、
記録係。
◇
場所。
旧水路の交差点。
警護は薄い。
だが、罠は多い。
◇
地下水の反響。
足音が、二重に聞こえる。
◇
(分身……いや、反響魔法)
◇
左眼が、赤く脈打つ。
◇
世界が、分岐する。
◇
――進めば、仲間が死ぬ。
――退けば、街が燃える。
◇
カイは、進んだ。
◇
刃は、影を裂く。
偽の足音が消える。
◇
結界。
符。
呪糸。
◇
一つずつ、最短で断つ。
◇
中央室。
◇
白い仮面が、帳簿を閉じた。
◇
「来たか。血の眼」
◇
声に、恐怖はない。
好奇心だけだ。
◇
「名を返せ」
◇
「返す? 名は道具だ」
◇
「人は、名で救われもする」
◇
「だから――」
◇
刃が、喉元で止まる。
◇
「だから、切る」
◇
血の眼が、
未来を一つ、消した。
◇
次の瞬間。
◇
仮面の帳簿が、灰になる。
◇
白い仮面は、
床に崩れ落ちた。
◇
死ではない。
◇
“名を与える力”だけが、
奪われた。
◇
「……美しい」
◇
仮面は、
最後にそう呟いた。
◇
撤退。
◇
水路が、騒然とする。
◇
追手。
◇
だが――
◇
追いつけない。
◇
屋根に出た瞬間、
胸が、少しだけ冷えた。
◇
(今、何を……失った?)
◇
答えは、出ない。
◇
夜明け。
◇
地下都市に、
新しい噂が走る。
◇
「仮面は、
殺されるより怖い目に遭った」
◇
そして――
◇
戦争は、
◇
戻れない地点を、
越えた。




