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# 第十八話:血の眼
地下都市の最奥。
人の気配が、途切れる場所。
◇
崩れた図書塔があった。
石と鉄で組まれた、
かつての研究施設。
◇
カイは、そこに立っていた。
◇
(呼ばれている……)
◇
扉は、最初から開いていた。
◇
内部。
◇
埃に埋もれた書架。
割れた水晶。
壁一面の、
古い魔法陣。
◇
中央の台座に、
一冊の黒い書が置かれている。
◇
《血眼継承録》
◇
手を伸ばした瞬間。
◇
左眼が、
灼けるように痛んだ。
◇
視界が、赤く染まる。
◇
――映像。
◇
燃える都市。
◇
逃げ惑う人々。
◇
空に浮かぶ、
無数の“眼”。
◇
その中心に、
一人の男が立っている。
◇
同じ眼。
同じ顔。
◇
(……先祖?)
◇
声が、直接脳に響く。
◇
「見るな。――代わりに、選べ」
◇
「この眼は、
“真実”を見るためのものではない」
◇
「“切り捨てる未来”を、
選ぶための力だ」
◇
映像が変わる。
◇
仮面の軍勢。
◇
王都の崩壊。
◇
ミラが、
血に染まって倒れている。
◇
心臓が、跳ねた。
◇
「代償は、
命ではない」
◇
「お前の――」
◇
「感情だ」
◇
怒り。
悲しみ。
迷い。
◇
見るたびに、
一つずつ、失われる。
◇
「それでも、使うか?」
◇
問い。
◇
カイは、
拳を握った。
◇
「……使う」
◇
「失ってでも、
守るものがある」
◇
書が、
静かに崩れ落ちる。
◇
左眼から、
赤い光が漏れた。
◇
痛みは、ない。
◇
代わりに――
◇
胸の奥が、
少しだけ、冷えた。
◇
外。
◇
地下都市が、騒がしい。
◇
警鐘。
◇
「仮面が動いたぞ!」
◇
カイは、空を見上げる。
◇
いや――
◇
“まだ見ていない未来”を、
◇
見据えていた。
◇
その左眼は、
◇
血の色に、
静かに、輝いていた。




