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# 第十七話:仮面の理


地下都市ノクス


夜と昼の区別はなく、


代わりに“静”と“騒”が、


はっきりと分かれていた。



騒がしい通りを外れた先。


石壁に囲まれた円形の広間。


そこが、


仮面たちの“講壇”だった。



白い仮面が三つ。


黒い仮面が二つ。



「王都は、壊れかけている」


低い声が、反響する。



「正義は数で決まり、


真実は常に遅れる」



「だから我々は、


“名”を与える」



白い仮面が、


手にした札を掲げた。



《怪物》

《英雄》

《罪人》



「人は、名に従って動く」



「恐怖も、憎しみも、


すべて制御できる」



黒い仮面が、


静かに言った。



「そして今――」



「“抗う者”が生まれた」



空気が、わずかに揺れる。



「排除するか?」



白い仮面の一つが、首を振る。



「いや」



「選ばせる」



「我々の理に従うか、


世界に潰されるか」



その時。



天井の影が、


音もなく崩れた。



カイが、降り立つ。



剣は、抜かれていない。



「面白い話だ」



仮面たちが、一斉に振り向く。



「だが――」



「他人に名を決められるのは、


昔から嫌いでな」



沈黙。



次の瞬間。



黒い仮面が、


結界を展開する。



「ここで死ねば、


“怪物”のままだ」



「生き残れば、


名は変わる」



(試験か)



左眼が、静かに開く。



――完全ではない。


だが、迷いはない。



世界が、細分化される。


魔力の流れ。


結界の継ぎ目。



カイは、踏み込んだ。



斬撃は、


“意志”だけを断つ。



仮面の一つが、


膝をつく。



「なるほど……」



白い仮面が、


ゆっくりと拍手した。



「君は、壊す側だ」



「ならば提案しよう」



「世界を、


君のやり方で歪めてみないか?」



カイは、剣先を下ろす。



「断る」



「歪める気はない」



「ただ――」



「奪われた名を、


取り戻すだけだ」



結界が、砕け散る。



仮面たちは、


退いた。



「いいだろう」



「なら、次は戦場で会おう」



その言葉を残し、


影は消えた。



一人残された広間。



カイは、


自分の左眼を、


そっと押さえる。



(この力……)



“見る”ほどに、


何かが、削れていく。



それでも――



前へ進む理由は、


もう、十分だった。



地下都市ノクスの奥で、



戦争の歯車が、


静かに回り始めた。


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