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# 第十七話:仮面の理
地下都市。
夜と昼の区別はなく、
代わりに“静”と“騒”が、
はっきりと分かれていた。
◇
騒がしい通りを外れた先。
石壁に囲まれた円形の広間。
そこが、
仮面たちの“講壇”だった。
◇
白い仮面が三つ。
黒い仮面が二つ。
◇
「王都は、壊れかけている」
低い声が、反響する。
◇
「正義は数で決まり、
真実は常に遅れる」
◇
「だから我々は、
“名”を与える」
◇
白い仮面が、
手にした札を掲げた。
◇
《怪物》
《英雄》
《罪人》
◇
「人は、名に従って動く」
◇
「恐怖も、憎しみも、
すべて制御できる」
◇
黒い仮面が、
静かに言った。
◇
「そして今――」
◇
「“抗う者”が生まれた」
◇
空気が、わずかに揺れる。
◇
「排除するか?」
◇
白い仮面の一つが、首を振る。
◇
「いや」
◇
「選ばせる」
◇
「我々の理に従うか、
世界に潰されるか」
◇
その時。
◇
天井の影が、
音もなく崩れた。
◇
カイが、降り立つ。
◇
剣は、抜かれていない。
◇
「面白い話だ」
◇
仮面たちが、一斉に振り向く。
◇
「だが――」
◇
「他人に名を決められるのは、
昔から嫌いでな」
◇
沈黙。
◇
次の瞬間。
◇
黒い仮面が、
結界を展開する。
◇
「ここで死ねば、
“怪物”のままだ」
◇
「生き残れば、
名は変わる」
◇
(試験か)
◇
左眼が、静かに開く。
◇
――完全ではない。
だが、迷いはない。
◇
世界が、細分化される。
魔力の流れ。
結界の継ぎ目。
◇
カイは、踏み込んだ。
◇
斬撃は、
“意志”だけを断つ。
◇
仮面の一つが、
膝をつく。
◇
「なるほど……」
◇
白い仮面が、
ゆっくりと拍手した。
◇
「君は、壊す側だ」
◇
「ならば提案しよう」
◇
「世界を、
君のやり方で歪めてみないか?」
◇
カイは、剣先を下ろす。
◇
「断る」
◇
「歪める気はない」
◇
「ただ――」
◇
「奪われた名を、
取り戻すだけだ」
◇
結界が、砕け散る。
◇
仮面たちは、
退いた。
◇
「いいだろう」
◇
「なら、次は戦場で会おう」
◇
その言葉を残し、
影は消えた。
◇
一人残された広間。
◇
カイは、
自分の左眼を、
そっと押さえる。
◇
(この力……)
◇
“見る”ほどに、
何かが、削れていく。
◇
それでも――
◇
前へ進む理由は、
もう、十分だった。
◇
地下都市の奥で、
◇
戦争の歯車が、
静かに回り始めた。




