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# 第十六話:地下都市
石段は、終わりが見えなかった。
湿った空気。
苔の匂い。
王都の喧騒は、遥か上だ。
◇
地下へ降りるほど、
世界は別の顔を見せる。
◇
松明の光が連なり、
巨大な空洞が姿を現した。
◇
――地下都市。
◇
違法な魔道具。
偽の身分証。
賞金首を売る掲示板。
◇
「ここが……」
カイは、息を吐いた。
◇
人々の視線が、刺さる。
恐怖でも、敵意でもない。
◇
値踏みだ。
◇
「新顔か?」
背中に刺青を入れた男が声をかける。
◇
「用件だけ言え」
◇
男は笑う。
「いい目をしてる」
◇
路地裏。
◇
闇市の酒場。
◇
そこにいたのは、
仮面ではないが、
似た匂いの連中だった。
◇
「王都の怪物が来たぞ」
囁き。
◇
「特級指名手配……本物か?」
◇
カイは、否定しなかった。
◇
「情報を買いたい」
◇
酒場が、静まる。
◇
「誰のだ?」
◇
「白い仮面」
◇
一瞬。
空気が、凍る。
◇
「その名は、禁句だ」
◇
「命が、安いなら別だがな」
◇
(当たりだ)
◇
突然、
天井が揺れた。
◇
爆音。
◇
魔法弾が、酒場を貫く。
◇
「伏せろ!」
◇
混乱。
悲鳴。
◇
煙の中。
◇
黒装束の集団。
顔は、布で隠れている。
◇
「賞金首だ」
◇
「生死は問わない」
◇
(もう来たか)
◇
カイは、剣を抜く。
◇
左眼が、開く。
◇
地下都市の灯りが、歪む。
◇
敵の配置。
逃走路。
◇
――十分。
◇
一瞬で、距離を詰める。
◇
刃は、殺さない。
◇
腕。
脚。
魔法の核。
◇
次々と、無力化されていく。
◇
最後の一人が、震えながら後退する。
◇
「誰の差し金だ」
◇
「……仮面」
◇
「どの仮面だ」
◇
男は、笑った。
◇
「全部だ」
◇
次の瞬間。
◇
男の首元に、
黒い針が突き刺さる。
◇
即死。
◇
屋根の上。
◇
白い仮面。
◇
「歓迎しよう」
◇
「地下へ来た以上、
ルールは我々が決める」
◇
カイは、仮面を見上げた。
◇
「探してたのは、
お前たちだ」
◇
仮面は、首を傾ける。
◇
「なら――」
◇
「試してみるか」
◇
地下都市に、
◇
静かな、
しかし確かな戦火が、
◇
灯った。




