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# 第十五話:罪の名


夜。


雨は止み、代わりに霧が降りた。



王都の中央広場。


松明の火が、無数に揺れている。



新しい布告が掲げられた。


赤い封蝋。


金の紋章。



《特級指名手配》


罪状:王都治安隊員殺害


危険度:極高



群衆が、ざわめく。



「やっぱり怪物だった」


「正義を装った殺人者だ」



霧の中。


屋根の影で、カイは布告を見ていた。



(……来たか)



胸の奥が、冷える。


怒りではない。


諦めでもない。



ただ、理解した。



――名前を与えられたのだ。


罪人という、名前を。



「動かないで」


背後から、声。



振り向くと、


フードを被った女が立っていた。



雨に濡れた銀髪。



「……久しぶり」



ミラだった。



一瞬、時間が止まる。



「来るなと言ったはずだ」



「だから来たの」



ミラの目は、強かった。



「あなたがやってないことくらい、分かる」



周囲の気配が、増える。



治安隊。


そして――



別の視線。


白い仮面。



「時間がない」


ミラが囁く。



彼女は、小さな巻物を差し出した。



「逃走経路。……私が書いた」



「代償は?」



ミラは、微笑んだ。



「もう、戻れないだけ」



角笛が鳴る。


包囲が、始まる。



「行って」



「次に会う時は――」



言葉は、続かなかった。



カイは、巻物を受け取り、



霧の中へ、消えた。



その瞬間。



白い仮面が、ミラの前に現れる。



「選んだな」



ミラは、仮面を睨む。



「ええ」



「彼の側を」



仮面は、笑った。



「ならば――


君にも、名を与えよう」



夜明け。



王都の外れで、


カイは立ち止まった。



巻物には、


王都地下へ続く道が描かれている。



(地上は、もう無理か)



左眼が、静かに疼く。



「なら――」



「闇から、始めよう」



こうして――



物語は、



“追われる者”から、


“抗う者”へと、



形を変えた。


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