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# 第十五話:罪の名
夜。
雨は止み、代わりに霧が降りた。
◇
王都の中央広場。
松明の火が、無数に揺れている。
◇
新しい布告が掲げられた。
赤い封蝋。
金の紋章。
◇
《特級指名手配》
罪状:王都治安隊員殺害
危険度:極高
◇
群衆が、ざわめく。
◇
「やっぱり怪物だった」
「正義を装った殺人者だ」
◇
霧の中。
屋根の影で、カイは布告を見ていた。
◇
(……来たか)
◇
胸の奥が、冷える。
怒りではない。
諦めでもない。
◇
ただ、理解した。
◇
――名前を与えられたのだ。
罪人という、名前を。
◇
「動かないで」
背後から、声。
◇
振り向くと、
フードを被った女が立っていた。
◇
雨に濡れた銀髪。
◇
「……久しぶり」
◇
ミラだった。
◇
一瞬、時間が止まる。
◇
「来るなと言ったはずだ」
◇
「だから来たの」
◇
ミラの目は、強かった。
◇
「あなたがやってないことくらい、分かる」
◇
周囲の気配が、増える。
◇
治安隊。
そして――
◇
別の視線。
白い仮面。
◇
「時間がない」
ミラが囁く。
◇
彼女は、小さな巻物を差し出した。
◇
「逃走経路。……私が書いた」
◇
「代償は?」
◇
ミラは、微笑んだ。
◇
「もう、戻れないだけ」
◇
角笛が鳴る。
包囲が、始まる。
◇
「行って」
◇
「次に会う時は――」
◇
言葉は、続かなかった。
◇
カイは、巻物を受け取り、
◇
霧の中へ、消えた。
◇
その瞬間。
◇
白い仮面が、ミラの前に現れる。
◇
「選んだな」
◇
ミラは、仮面を睨む。
◇
「ええ」
◇
「彼の側を」
◇
仮面は、笑った。
◇
「ならば――
君にも、名を与えよう」
◇
夜明け。
◇
王都の外れで、
カイは立ち止まった。
◇
巻物には、
王都地下へ続く道が描かれている。
◇
(地上は、もう無理か)
◇
左眼が、静かに疼く。
◇
「なら――」
◇
「闇から、始めよう」
◇
こうして――
◇
物語は、
◇
“追われる者”から、
“抗う者”へと、
◇
形を変えた。




