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# 第十四話:正義の刃
雨が降っていた。
細く、冷たい雨。
追われる者に、休みはない。
◇
山道。
足元はぬかるみ、逃げ場は少ない。
カイは、立ち止まっていた。
◇
(ここで、終わらせる)
逃げ続ければ、街に被害が出る。
それだけは、避けたかった。
◇
背後から、魔力の波動。
◇
「やっと追いついた」
現れたのは、三人。
王都治安隊の精鋭。
◇
先頭に立つのは、
白銀の杖を持つ女魔導士。
橋の上で会った、あの目。
◇
「これ以上、逃がさない」
◇
「……分かってる」
カイは、剣を抜いた。
初めて、
自分から。
◇
「抵抗すれば、処刑対象よ」
◇
「それでも」
◇
雨が、強くなる。
◇
魔法陣が、三重に展開する。
雷。
風。
拘束。
◇
(正面からは、無理)
◇
左眼が、静かに開く。
――半開ではない。
◇
世界が、裂けた。
◇
魔法の構造。
詠唱の核心。
一瞬の“隙”。
◇
カイは、踏み込む。
◇
一太刀。
雷が、霧散する。
◇
二太刀。
風が、止まる。
◇
三太刀目――
◇
躊躇。
◇
「やめろ!」
女魔導士の声。
◇
剣先が、喉元で止まる。
◇
雨音だけが、残った。
◇
「……殺せないのね」
彼女は、震えながら言った。
◇
「正義だから」
カイは答える。
◇
「違う」
◇
「俺が、選んだだけだ」
◇
左眼を閉じる。
視界が、元に戻る。
◇
その瞬間。
◇
別方向から、
黒い刃が飛んだ。
◇
治安隊の一人が、倒れる。
◇
「なっ……!?」
◇
木々の間から、
白い仮面が現れる。
◇
「美しい判断だ」
低い声。
◇
「だが――甘い」
◇
仮面の影が、消える。
◇
残されたのは、
混乱と、血。
◇
女魔導士は、カイを見る。
◇
「あなたじゃ……ない」
◇
「知ってる」
◇
遠くで、雷鳴。
◇
この夜を境に、
噂は、変わる。
◇
――怪物ではない。
◇
だが、
◇
「正義すら、敵に回す男」
◇
そう呼ばれるようになった。




