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# 第十三話:追われる者
正午。
街の鐘が鳴る。
その音は、祈りではなく――警告だった。
◇
「旧礼拝堂事件の犯人を発見次第、拘束せよ」
掲示板に貼られた新しい布告。
似顔絵は粗い。
だが、左眼の傷だけは、はっきりと描かれていた。
◇
(早いな)
カイは、群衆の中で帽子を深くかぶる。
救った男の顔が、脳裏をよぎった。
◇
「怪物だってさ」
「禁呪を使ったらしい」
「目を見たら、魂を抜かれる」
◇
噂は、いつも都合よく歪む。
◇
路地裏。
背後から、気配が三つ。
◇
「止まれ。王都治安隊だ」
銀の外套。
正規の魔導士。
◇
「抵抗するな」
若い女魔導士が、前に出る。
迷いのない目。
◇
(……敵じゃない)
カイは、そう判断した。
だから――
逃げた。
◇
魔法が、路地を焼く。
石畳が砕ける。
◇
(本気か)
カイは壁を蹴り、屋根へ跳ぶ。
◇
空中で、左眼が疼く。
――半開。
◇
魔法の軌道。
包囲の完成形。
逃げ道は、一本だけ。
◇
着地。
市場。
人混み。
◇
(巻き込めない)
カイは、剣を抜かなかった。
◇
代わりに、投げた。
鞘だ。
◇
魔導士の詠唱が、途切れる。
◇
「なっ……!?」
◇
その隙に、カイは駆ける。
◇
橋の上。
追手は、まだ来る。
◇
「待って!」
女魔導士の声。
◇
足を止める。
◇
「あなたが、本当に犯人なの?」
◇
カイは、振り返らなかった。
◇
「……俺は、殺してない」
それだけ言った。
◇
沈黙。
◇
次の瞬間、
橋の欄干が、魔法で吹き飛ぶ。
◇
(答えは、これか)
◇
カイは、川へ飛び込んだ。
◇
冷水が、全身を包む。
◇
水中で、視界が歪む。
◇
白い影。
仮面。
◇
(……見ている)
◇
岸に上がった時、
追手の姿はなかった。
◇
代わりに、
橋の上に残ったのは――
◇
治安隊の布告が、
風に裂ける音だけだった。
◇
その夜。
◇
闇市の酒場で、
新しい噂が流れ始める。
◇
「礼拝堂の怪物は――
人を助けたらしい」
◇
真実は、
いつも遅れて、
静かに広がる。
◇
そして――
◇
白い仮面の一人が、言った。
◇
「次は、逃がすな」
◇
狩りは、
本格的に、始まった。




