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# 第十二話:名を持たぬ依頼


昼下がり。


街道沿いの掲示板には、風に揺れる依頼書が数枚だけ残っていた。


どれも、名前のない依頼だ。


報酬は安く、期限も曖昧。


――危険だが、誰も手を出さない。



カイは、その中の一枚を剥がした。


《行方不明者の捜索》


場所:旧礼拝堂周辺


備考:夜間に限り異音あり



「……十分だ」


独り言は、風に消える。


仲間はいない。


説明も、必要ない。



旧礼拝堂は、森の奥にひっそりと佇んでいた。


崩れかけた石壁。


割れたステンドグラス。


祈りの場だった面影は、ほとんど残っていない。



中に足を踏み入れた瞬間、


空気が、はっきりと変わった。


冷たい。


湿った、魔力の気配。



(魔獣……いや)


カイは、剣の柄に手をかける。


足元に、引きずられた跡。


血の匂いは、薄い。


――生きている。



夜。


月明かりが、礼拝堂の床に影を落とす。


その影が、


動いた。



黒い人影が、柱の裏から現れる。


人の形をしているが、


目が、ない。


代わりに、空洞から魔力が漏れている。



「……亡霊か」


声は、震えなかった。



亡霊が、音もなく迫る。


刃は、すり抜けた。


手応えがない。



(物理じゃない)


カイは、一歩下がる。


左眼が、疼く。



――半開。


世界が、静止する。


霊体の核。


礼拝堂の地下へと、線が伸びている。



カイは、床を蹴った。


地下への階段を、躊躇なく降りる。



祭壇の下。


隠し部屋。


そこには、鎖に繋がれた人影があった。


生きている。


だが、正気ではない。



「……助けて」


かすれた声。


同時に、魔法陣が光る。



亡霊の本体。


人を核にした、禁呪。



「またか」


怒りは、湧かなかった。


ただ、冷えた。



カイは、左眼を完全には開かない。


必要な分だけ。


最短の一太刀。



鎖が、断ち切られる。


魔法陣が、崩壊する。


亡霊は、悲鳴も上げずに消えた。



人影は、力なく崩れ落ちる。


呼吸は、ある。



夜明け。


礼拝堂の外で、


助け出された男が、何度も頭を下げていた。



「名は、聞かない」


カイは、背を向ける。



男は、震える声で言った。


「……あなたは?」



カイは、少しだけ考えた。


そして――



「通りすがりだ」



街道を歩きながら、


カイは感じていた。


この力は、


守るためにも、


壊すためにも使える。



選ぶのは、


いつも、自分だ。



だが、遠くの屋根の上。


白い仮面が、静かに拍手をしていた。



「いい使い方だ」



その声は、


称賛とも、


嘲笑ともつかなかった。


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