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# 第十二話:名を持たぬ依頼
昼下がり。
街道沿いの掲示板には、風に揺れる依頼書が数枚だけ残っていた。
どれも、名前のない依頼だ。
報酬は安く、期限も曖昧。
――危険だが、誰も手を出さない。
◇
カイは、その中の一枚を剥がした。
《行方不明者の捜索》
場所:旧礼拝堂周辺
備考:夜間に限り異音あり
◇
「……十分だ」
独り言は、風に消える。
仲間はいない。
説明も、必要ない。
◇
旧礼拝堂は、森の奥にひっそりと佇んでいた。
崩れかけた石壁。
割れたステンドグラス。
祈りの場だった面影は、ほとんど残っていない。
◇
中に足を踏み入れた瞬間、
空気が、はっきりと変わった。
冷たい。
湿った、魔力の気配。
◇
(魔獣……いや)
カイは、剣の柄に手をかける。
足元に、引きずられた跡。
血の匂いは、薄い。
――生きている。
◇
夜。
月明かりが、礼拝堂の床に影を落とす。
その影が、
動いた。
◇
黒い人影が、柱の裏から現れる。
人の形をしているが、
目が、ない。
代わりに、空洞から魔力が漏れている。
◇
「……亡霊か」
声は、震えなかった。
◇
亡霊が、音もなく迫る。
刃は、すり抜けた。
手応えがない。
◇
(物理じゃない)
カイは、一歩下がる。
左眼が、疼く。
◇
――半開。
世界が、静止する。
霊体の核。
礼拝堂の地下へと、線が伸びている。
◇
カイは、床を蹴った。
地下への階段を、躊躇なく降りる。
◇
祭壇の下。
隠し部屋。
そこには、鎖に繋がれた人影があった。
生きている。
だが、正気ではない。
◇
「……助けて」
かすれた声。
同時に、魔法陣が光る。
◇
亡霊の本体。
人を核にした、禁呪。
◇
「またか」
怒りは、湧かなかった。
ただ、冷えた。
◇
カイは、左眼を完全には開かない。
必要な分だけ。
最短の一太刀。
◇
鎖が、断ち切られる。
魔法陣が、崩壊する。
亡霊は、悲鳴も上げずに消えた。
◇
人影は、力なく崩れ落ちる。
呼吸は、ある。
◇
夜明け。
礼拝堂の外で、
助け出された男が、何度も頭を下げていた。
◇
「名は、聞かない」
カイは、背を向ける。
◇
男は、震える声で言った。
「……あなたは?」
◇
カイは、少しだけ考えた。
そして――
◇
「通りすがりだ」
◇
街道を歩きながら、
カイは感じていた。
この力は、
守るためにも、
壊すためにも使える。
◇
選ぶのは、
いつも、自分だ。
◇
だが、遠くの屋根の上。
白い仮面が、静かに拍手をしていた。
◇
「いい使い方だ」
◇
その声は、
称賛とも、
嘲笑ともつかなかった。




