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# 第十一話:別れの朝
朝の光は、残酷なほど澄んでいた。
森の端。
簡素な野営地で、カイとミラは向かい合って立っている。
昨夜の出来事が、言葉を奪っていた。
◇
「……ここまでね」
ミラが、先に口を開いた。
声は落ち着いている。
無理に作った、強さだった。
◇
「一緒には、行けない?」
そう言ってから、ミラは目を伏せた。
答えは、最初から分かっている。
◇
カイは、ゆっくりと首を横に振った。
「俺といる限り、危険は続く」
「……もう、巻き込みたくない」
◇
ミラは、笑った。
泣きそうな笑顔だった。
「優しいのね。そういうところが」
◇
しばらく、沈黙。
風が、草を揺らす音だけが続く。
◇
「これ」
ミラは、小さな護符を差し出した。
淡く光る魔力が、込められている。
「回復じゃない。……帰るための魔法」
◇
「帰る場所は、もうない」
カイはそう言った。
だが、護符は受け取った。
拒めなかった。
◇
「生きて」
ミラは、真っ直ぐに言った。
「怪物になってもいい。……生きて」
◇
その言葉が、胸に刺さる。
怪物。
誰かが、初めて口にした言葉。
◇
「ありがとう」
それだけ言って、カイは背を向けた。
◇
数歩、歩いてから――
足を止める。
◇
「ミラ」
振り返らずに、言った。
「昨日までの時間は……嘘じゃなかった」
◇
返事はなかった。
だが、
嗚咽を堪える気配が、確かにあった。
◇
カイは、歩き出す。
一人で。
◇
街道に出ると、朝日が眩しかった。
剣の重みが、以前よりも現実的に感じられる。
◇
(これでいい)
守るために、離れる。
信じるために、疑われる。
◇
遠くの丘の上で、
白い仮面の影が、こちらを見ていた。
◇
「彼は、選んだ」
低い声が、風に溶ける。
◇
カイは、その視線に気づかない。
ただ前を見て、
次の戦場へと、歩みを進めていた。
◇
こうして――
孤独な旅が、
正式に、始まったのだった。




