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# 第十話:裏切りの代価
夜明け。
血の匂いが、まだ森に残っていた。
カイは目を覚ます。
全身が重く、左眼の奥が鈍く痛む。
代償は、確かに刻まれていた。
◇
「……目、覚めた?」
ミラが、包帯を手に近づいてくる。
その腕にも、昨夜の傷が残っていた。
「無理しないで。あれは……普通じゃなかった」
カイは、短く頷いた。
言葉が、見つからない。
◇
レオンは、少し離れた場所で剣を磨いていた。
視線を合わせようとしない。
沈黙が、耐えがたいほど重い。
◇
「……昨夜の襲撃」
ミラが、意を決したように言う。
「完全に、私たちの動きが読まれてた」
「偶然じゃない」
カイは、静かに答えた。
その瞬間、レオンの手が止まった。
◇
「誰かが、流した」
ミラの声が、震える。
「……それも、かなり前から」
沈黙。
鳥の羽音だけが、空に消えた。
◇
レオンは、ゆっくりと立ち上がった。
「俺だ」
短い言葉だった。
だが、十分すぎた。
◇
「最初は、保険のつもりだった」
レオンは、カイを見ない。
「噂を流しただけだ。居場所までは――」
「嘘」
カイの声は、低い。
「昨夜の罠は、偶然じゃない」
◇
レオンは、歯を食いしばった。
「仕方なかった!」
声が、荒れる。
「お前は危険すぎる! 魔眼なんてものが、近くにいたら――」
「生き残るには、選ぶしかなかった!」
◇
ミラが、一歩後ずさる。
「……私たちを、売ったの?」
レオンは、答えなかった。
それが、答えだった。
◇
カイは、立ち上がる。
剣は、抜かなかった。
「いくらだ」
その問いに、レオンは目を見開いた。
◇
「情報の代価だ」
カイは、淡々と続ける。
「俺の命か。仲間の命か」
◇
レオンの拳が、震える。
「……生きたかっただけだ」
◇
カイは、ゆっくりと近づいた。
一歩。
また一歩。
「それが、選択なら」
「俺も、選ぶ」
◇
一瞬。
レオンが、剣に手をかける。
だが――遅い。
◇
鈍い音。
レオンの体が、地面に崩れた。
致命傷ではない。
だが、戦える状態でもない。
◇
「行け」
カイは、背を向けた。
「二度と、俺の前に現れるな」
◇
レオンは、何か言おうとして、
結局、言葉を失った。
◇
ミラは、涙をこらえながらカイを見る。
「……これで、終わり?」
◇
「始まりだ」
カイは答えた。
◇
こうして――
三人の旅は、終わった。
信頼は、血と沈黙の中で断たれ、
それぞれが、別の道を選ぶ。
◇
そして、遠く離れた場所で。
白い仮面の男が、報告を受けていた。
「魔眼は、覚醒を始めました」
◇
仮面の奥で、
男は、静かに笑った。
「……ようこそ、こちら側へ」




