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# 第十話:裏切りの代価


夜明け。


血の匂いが、まだ森に残っていた。


カイは目を覚ます。


全身が重く、左眼の奥が鈍く痛む。


代償は、確かに刻まれていた。



「……目、覚めた?」


ミラが、包帯を手に近づいてくる。


その腕にも、昨夜の傷が残っていた。


「無理しないで。あれは……普通じゃなかった」


カイは、短く頷いた。


言葉が、見つからない。



レオンは、少し離れた場所で剣を磨いていた。


視線を合わせようとしない。


沈黙が、耐えがたいほど重い。



「……昨夜の襲撃」


ミラが、意を決したように言う。


「完全に、私たちの動きが読まれてた」


「偶然じゃない」


カイは、静かに答えた。


その瞬間、レオンの手が止まった。



「誰かが、流した」


ミラの声が、震える。


「……それも、かなり前から」


沈黙。


鳥の羽音だけが、空に消えた。



レオンは、ゆっくりと立ち上がった。


「俺だ」


短い言葉だった。


だが、十分すぎた。



「最初は、保険のつもりだった」


レオンは、カイを見ない。


「噂を流しただけだ。居場所までは――」


「嘘」


カイの声は、低い。


「昨夜の罠は、偶然じゃない」



レオンは、歯を食いしばった。


「仕方なかった!」


声が、荒れる。


「お前は危険すぎる! 魔眼なんてものが、近くにいたら――」


「生き残るには、選ぶしかなかった!」



ミラが、一歩後ずさる。


「……私たちを、売ったの?」


レオンは、答えなかった。


それが、答えだった。



カイは、立ち上がる。


剣は、抜かなかった。


「いくらだ」


その問いに、レオンは目を見開いた。



「情報の代価だ」


カイは、淡々と続ける。


「俺の命か。仲間の命か」



レオンの拳が、震える。


「……生きたかっただけだ」



カイは、ゆっくりと近づいた。


一歩。


また一歩。


「それが、選択なら」


「俺も、選ぶ」



一瞬。


レオンが、剣に手をかける。


だが――遅い。



鈍い音。


レオンの体が、地面に崩れた。


致命傷ではない。


だが、戦える状態でもない。



「行け」


カイは、背を向けた。


「二度と、俺の前に現れるな」



レオンは、何か言おうとして、


結局、言葉を失った。



ミラは、涙をこらえながらカイを見る。


「……これで、終わり?」



「始まりだ」


カイは答えた。



こうして――


三人の旅は、終わった。


信頼は、血と沈黙の中で断たれ、


それぞれが、別の道を選ぶ。



そして、遠く離れた場所で。


白い仮面の男が、報告を受けていた。


「魔眼は、覚醒を始めました」



仮面の奥で、


男は、静かに笑った。


「……ようこそ、こちら側へ」


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