一串目 後編
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『店主代理』
私が案内したお忍びのお客様と祖父が話し込んでいる。聞き耳を立てると、どうやら、あのお嬢さんも『別界』の記憶持ちだったようだ。うちの祖父も記憶持ちだが、あんな風に楽しんで話す事は、ここ最近少なかったから、良かったなと見ていた。
そして、焼き場からジュウジュウに焼けた串焼きが出来たと伝えられたので、私はいそいそと、カウンター席に山盛りの串焼きを持っていった。
「お待たせしました。焼きたての串焼きです。熱くなってるので、気をつけて食べてください」
お客さんの前に、山盛りの串焼き皿を置くと
お嬢さんとお付きのお兄さんは、感嘆の声をあげた。
「ふあああっ何て良い感じに、こんがり焼けた串焼き達!いただきまーす。」
「いただきます。」
お忍びのお二人さんは、仲良く一緒に、うちの串焼きを食べはじめた。
「私はやっぱり!最初は、塩のみの焼き鳥のササミとむね肉から行くわ!熱々ね。では、あーん、あむ、あむ、肉汁がジュワ〜っハフハフハフハフ。もぐもぐ…ごっくん。うう、うまぁ、美味しすぎる。何これ、ササミがフワフワんでジューシーなのよ。反対にむね肉は噛みごたえがあっておいしいわ。あっティーチも早く食べないと、冷めたら美味しさが半減よ!う〜ん。ネギまも最高!」
「頂いていますよ。確かに美味いですね。お嬢様の事だから、デカい肉を刺した串焼き料理を求めていると思ってました。」
「えっティーチ、それなら、このお店に来るまでの屋台で買って齧り付いてるわよ!私が今日食べたかったのは、前世で食べていたような串焼きよ!!」
「そうだったんですね。失礼しました。うん。この野菜が入った薄焼き肉を巻いた串焼き、とっても美味しいですね…」
「あ、レタスの豚バラ巻き、美味しいよね。私も野菜の肉巻き食べようっと、あっミニトマトの肉巻きにするわ!巻いたお肉と中のトマトがまた火が通って旨味成分のマリアージュがヤバイ止まらないわ」
お嬢さんは、焼いた串焼きを堪能していた。
そして、うちの店には、昼間にお食事するお客様にはお通しのサラダと
「はい、こちらは店からのサービスとなります。サイダーです。」
お嬢さんとお兄さんの前に栓抜きとサイダー瓶、コップを1つずつ置いていく。
「サイダー!?えっ良いんですか?」
「はい、どうぞ、これはうちで作って販売してるサイダーです。炭酸強めとなっているので、今なら微炭酸のレモネードと交換いたしますよ」
私が説明すると、お嬢さんは、笑顔で
「私は大丈夫です!むしろ、ビールが飲み……あっ……ひっ」
「お嬢様?ビールって仰いましたか?」
「冗談よ。冗談です。だから、睨まないで、成人してから飲むから!」
「…………」
「無言が怖いわよ!ティーチ、ほら、サイダー飲みましょっ!あっ私が入れようか?」
じ〜っとお嬢さんをジト目に見ながら、お兄さんは、素早い動きで、栓抜きを持ちポンポンとサイダー瓶を開けて、コップにサイダーを注ぎ、お嬢さんの手元に置いていく。
「あ、ありがと、ティーチ、うん。久しぶりの炭酸、おいしーっこれなら、来年まで我慢できそう!」
「そうか、わはははっ来年成人なのか、お嬢さん。じゃあわ、うちの店に来たらご馳走するよ!今は、そのサイダーで我慢してくれ」
また、何かを持ってきた祖父がお嬢さんにそう言ったあと
「ほら、そして、お嬢さん文明開化つうことで、俺が焼いた『焼きとん』もどうだい?」
姿が見えないと思ったら、どうやら久しぶりに、串を焼いてたらしい。
「焼きとん!?豚肉ね、あっ豚のレバー!?それもタレと塩、両方ある」
キラキラした顔で、焼きとんのレバーを取り、お嬢さんは一口。
「………信じられない」
そして、祖父に向かい。
「こ、こんな、素晴らしい焼きレバー初めて食べたわ……ティーチ、私が成人したら、このお店で宴会するわ」
「何、仰るんですか、そんなの無理ですから、お嬢様の成人祝いは、うちと奥様の祖国ですると前から決まっております」
お嬢さんの頼みは、お付きのお兄さんにバッサリ切られていたー。
お兄さんは、ふうと小さいため息をつきー
「まあ、そちらでのお祝いが終わりましたら、旦那様に許可が貰えたら、皆でここに来て、お祝いしますよ」
「ティーチ、本当に絶対よ!約束破ったら承知しないわよ!」
「はい、必ず守ります。ミジュイルお嬢様」
そして、お嬢さんは、こちらに向き
「あっ店員さんとお爺さん、そんな理由で、お店を貸し切りとかできますか?」
私と祖父は、顔を見合わせ、この二人の関係者なら大丈夫だろうと
「はい、大丈夫ですよ。ご来店するお客様の人数と日にちが決まりしだい、こちらにお伝えください」
◇
そして、来年
やんごとなき一族が私達のお店を貸し切り、
その後も、『串焼き』を気に入った皆様がお忍びで来るようになると、この時の私は、知る由もなかった。




