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魔王の娘  作者: 星空りん
24/40

23 スライムの次は、ゴブリンでした 2

 日が傾き始める頃には、籠は必要数より少し多めの薬草でいっぱいになっていた。


 「今日も、けっこう採れたね〜」


 りんは籠を持ち上げて笑う。


 「初めてとは思えない手際です。この分なら、薬草採取だけならすぐに“慣れた新人”と見なされるでしょう」


 「ふふん。“薬草Fランクのプロ”に近づいてきた」


 「まだFランクです」


 ネネの冷静なツッコミに、りんは頬をぷくっと膨らませた。


 「そろそろ戻りましょう。日が暮れる前に、丘を降りておきたいですからね」


 「うん!」


◇ ◇ ◇


 夕方のギルドは、昼間よりもさらに賑わっていた。


 依頼を終えた冒険者たちが、カウンターに列を作り、報告をし、報酬を受け取っている。酒場スペースからは笑い声と食事の香りが漂ってきた。


 「ただいま戻りました。薬草の納品をお願いいたします」


 ネネが籠を差し出すと、受付嬢が中を覗き込んで目を丸くした。


 「まぁ……今日も、とても状態が良いですね。葉に傷みがほとんどありませんし、香りも強い……」


 「元気に育つように、ちょっとだけ、えいってしました」


 りんが胸を張ると、ネネが小さくため息をつく。


 「お嬢の“えい”の結果です」


 受付嬢はくすりと笑いながら、手際よく数を数えていく。


 「必要数もきちんと揃っていますね。これなら依頼主の方もお喜びになります」


 しばらくして、小さな袋が一つ、カウンターの上に置かれた。


 「こちらが、本日の報酬になります」


 「わぁ……!」


 りんは両手でそっと袋を持ち上げた。中で、金属同士が控えめに触れ合う音がする。


 「ちゃんと“お仕事”して、お金もらえた……昨日に続いて、二回目だ」


 胸の奥が、ふわりとあたたかくなった。


 「お嬢の魔力量を考えると、まだまだ控えめな報酬ですが……楽しめたなら何よりです」


 「いいの。今は“冒険者貯金”だから」


 りんが笑うと、受付嬢も嬉しそうに微笑んだ。


 「これからも、安全な依頼から少しずつ慣れていってくださいね」


◇ ◇ ◇


 そのときだった。


 ギルドの扉が、勢いよく開く。


 重い木の音とともに、夕陽を背負った影が四つ、入口に現れた。


 「おい、《暁の空》が戻ってきたぞ」


 「一週間ぶりか? ゴブリンの調査って話だったよな」


 周囲の冒険者たちがざわつく。


 入り口に立っているのは、四人の冒険者たちだった。


 先頭に立つのは、黒髪の青年。背は高く、無駄のない動きをする剣士。背中の剣は使い込まれていても、丁寧に手入れされているのが分かる。


 その後ろには、弓を背負った女性。軽やかな装備で、鋭い目つきが印象的だ。


 ごつい盾を背負った大柄の男が、その隣に歩き、その横には、杖を抱えた小柄な青年──魔術師がついていた。


 「戻りました。《暁の空》、ゴブリンの件の調査報告です」


 黒髪の剣士が、カウンター奥の職員に向かって声をかける。


 ギルドの空気が、少しだけ引き締まった。


 (……あの人たちが、Aランクのパーティ)


 りんは、報酬袋を握りしめたまま、ぽかんとその姿を眺めた。


 「お嬢、口が開いています」


 「はっ」


 慌てて口を閉じ、りんはそっと横に寄る。カウンターの前からは離れたが、《暁の空》が通り過ぎるには十分近い距離だった。



 そのとき。


 杖を抱えた魔術師──フィオが、ぴたりと足を止めた。


 視線が、りんの方へ向く。


 (……なに、この魔力の濃さ)


 空気の一部だけが、妙に重く感じる。

 普通の新人冒険者からは、まず感じない種類の圧だ。


 (人間で、こんなの……あり得る? まさか、魔族……?)


 無意識に、フィオの手が杖の柄へと伸びかける。


 その動きに、ネネの耳がぴんと立った。


 「……」


 ネネはすっとりんの前に出て、一歩踏み込んだ。


 りんの視界から、《暁の空》の姿が一瞬だけ遮られる。


 「え、ネネ?」


 何が起きたのか分からないまま、りんは目を瞬いた。


 フィオの肩を、後ろから大きな手が掴む。


 「待て、フィオ。ここはギルドの中だ」


 黒髪の剣士──蓮が、低い声で言った。


 フィオは一瞬だけ睨むようにりんの方を見たが、すぐに目を伏せる。


 「……分かってる。ただ、あの魔力は」


 「後でいい」


 蓮は短くそう言い、フィオの肩から手を離した。


 周囲の冒険者たちも、なんとなく空気が張り詰めたのを感じてひそひそ声を交わす。


 「おいおい、Aランク同士の揉め事か?」


 「いや、相手、ただの新人に見えるけど……」


 カウンターの中から、受付嬢が慌てて声を上げた。


 「れ、レン様、フィオ様。ギルド内では、抜剣や攻撃魔法の準備はお控えいただけますか……?」


 蓮は受付嬢の方を見て、軽く顎を引く。


 「悪かった。少し、行き違いがあっただけだ」


 それから、ネネとりんの方へ視線を向ける。


 「驚かせてすまない。こっちの魔術師が、少し神経質でな」


 「え、あ、ううん……」


 りんは慌てて首を振った。


 ネネはまだ完全には警戒を解かず、じっとフィオを見つめている。


 フィオは視線を外し、黙って奥のカウンターへ歩いて行った。


◇ ◇ ◇

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