星を拾う少女
テーマは「小さな優しさが、誰かを救う」。
夜の中に希望を見つける少女の姿を通して、
作者が信じる“人の心の光”を描きました。
夜の街は、静かに息を潜めていた。
街灯の光がアスファルトを淡く照らし、どこか遠くで風鈴の音が鳴っている。
その道の端に、ひとりの少女がしゃがみ込んでいた。
白い指先に掬われているのは、淡く光るひと粒の星。
「……また、見つけた。」
少女はその星を胸に抱いた。
小さな光が彼女の胸の奥で、かすかに震えている。
少女の名は――セラ。
夜になると、星を拾いに出かける。
それは空から落ちてきた“心の欠片”。
悲しみや絶望が溢れすぎて、地上へ落ちた人の想いだ。
セラはそれを拾い、もう一度空へ返していく。
それが、自分の役目だと信じていた。
⸻
ある夜、セラは泣いている少年と出会った。
街の公園のベンチに座り、手の中で光を握りつぶすように。
「ねぇ……その光、どうしたの?」
「いらないんだ。もう見たくない。」
少年の掌の中で、小さな星が震えていた。
その光は弱く、今にも消えそうだった。
「それを壊したら、あなたの心も壊れちゃうよ。」
「……そんなの、もうとっくに壊れてる。」
セラは静かに目を伏せた。
彼の光は、誰かを失った痛みで黒ずんでいた。
触れると、冷たくて、胸の奥がチクリと痛む。
それでも、彼女はその星を手で包んだ。
「この星はね、あなたの涙でできてるの。」
「涙……?」
「うん。泣くことは、弱いことじゃない。
ちゃんと心がある証拠だよ。」
少年の瞳が揺れた。
その瞬間、光が少しだけ明るくなった。
セラはその光を空に掲げ、囁いた。
「さぁ、帰ろう。空の上に——みんなの想いが待ってる。」
風が吹き、夜空の雲が開く。
一筋の光が、星へと溶けていった。
少年の頬に残った涙が、今度は優しい光に変わって流れ落ちた。
⸻
夜が明ける頃、セラはひとりで坂道を登っていた。
掌には、まだ一つだけ残っている星。
それは、ずっと前に拾って、まだ返せずにいる光。
彼女自身の涙がつくった星だった。
誰にも言えなかった孤独の光。
空を見上げ、セラはそっと微笑む。
「……もう、大丈夫だよね。」
星を手から離すと、淡い光がゆっくりと昇っていった。
空は薄明るく、朝が来ようとしている。
セラの頬を、優しい風が撫でた。
「ありがとう。」
その声とともに、最後の星が夜明けの空に溶けた。
街の片隅で、光がまた一つ生まれる。
誰かの涙が、誰かの希望に変わる。
そして少女は、今日もまた星を拾いに行く。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
『星を拾う少女』は、夜の中にある“希望の光”を描いた物語です。
どんなに小さな優しさでも、きっと誰かを救える。
そんな想いを言葉に込めました。
あなたの心にも、小さな星が届きますように




