ある交換日記の結末
これが最後のご挨拶となるでしょう。
名も知らぬあなた。一年半もの間、わたくしとの交換日記におつきあいいただき、ありがとうございました。
はじめは、このノートをわたくしがここ、図書室に忘れたことでしたね。当時の心情を走り書きしたページの下に、あなたはご自分の手で一言、書き残してくださいました。それがわたくしにはうれしかった。
当時、わたくしの立場はあやうくて、溝ができつつあった婚約者との関係はおろか、肉親からも婚約者を繋ぎ止められないことを責められ、友と呼んでいたはずの令嬢たちの間でも孤立しはじめておりましたから。
互いに正体を明かさないままの交流でしたが、あなたの筆致は穏やかにわたくしの弱音を包み込んでくださった。失礼かもしれませんが、かつての優しかった婚約者の影を勝手に重ねておりました。
勘違いはいたしませんよ。あなたは同時に、できたばかりのかわいらしい恋人ののろけも聞かせてくださいましたから。ふふ、微笑ましいことです。
でも、それも今日でおしまい。わたくしは明日の卒業パーティーで、婚約者の前、家族、友人であった方たちの前から永遠に姿を消すことになるでしょう。あなたがこれを読み、そのことを知るのはパーティーの後でしょうか。
婚約者様がわたくしを卒業パーティーで断罪し、婚約破棄される予定だと耳にしたときは、さすがに衝撃を受けました。でもすぐに、さもありなんと思い直しましたよ。
他ならぬわたくしこそが、婚約者様がどれだけ恋人の男爵令嬢と愛し合っておられるか、おそらくこの学園でも一番よく知っているのでしょうから。
さて、とりとめもなく書き連ねてまいりましたが、このあたりで筆をおきたいと存じます。
最後になりますが、お身体にお気をつけて。
ご多幸をお祈りしております。
男爵令嬢さまにもよろしくお伝えくださいませ。
──── 今日まであなたの婚約者だった侯爵家の娘より