ジョロがしゃべった朝(前編)
ある朝、目を覚ましたら──
そこにいたのは、トイプードルのジョロ……ではなく、
耳と尻尾がついた見知らぬ子供だった!?
“うちの子”が突然、人の姿になってしゃべり出す!
50代夫婦の“非日常”が始まります。
それは、いつもと同じ日常のはずだった。そう、目が覚めるまでは。
「きゃあ!」
ガッシャーン!
台所の方からの悲鳴。
慌てて飛び起きた、この家の世帯主、永井ミサオ。
トラックドライバーを生業としているこの男、夜勤がメインなのだが、今日は休日。惰眠をむさぼろうとしたが、どうも異常事態だと、慌てて台所に走る。
台所に飛び込むと……
「あっ、パピ、おはよう!今日は起きるの早いね!」
……?
目の前には、素っ裸の男の子。でも見た目には違和感。
……?
「えっと……君はどこの子かな?迷子なのかな?」
すると、泣きそうな顔する男の子。見た目、5〜6歳くらいだろうか。
「パピ、ジョロの事わからない?」
その時、男の子の足元に──
破れた、我が家の愛犬、息子のジョロの昨日着ていた服が落ちていた。
改めて男の子を見るミサオ。
違和感の正体。
頭の上にピコピコ動く、茶色い耳のようなもの。カチューシャでもつけているのかと思ったが、どうも違う。そしてなにより、男の子の後ろで、時折ピコピコ動いていたもの。
……シッポだ。
「おま、おまえ……ジョロ……なのか?」
「わふっ!……じゃなかった、おはようパピィ〜!」
少年は、満面の笑みで答えた。
いつもの日常……のはずだった。
この日の朝は、近所迷惑な挨拶によって始まった。
ミサオは混乱するクミコを落ち着かせ、ジョロにバスタオルを巻かせて、ひとまず家を飛び出す。
24時間営業のディスカウントストアに飛び込み、下着、Tシャツ、ズボン、靴下、靴などをカゴに放り込む。
なぜか黄色いパンダTシャツが目に留まり、それを選んでしまった。
「……まあ、ジョロっぽいか……」
帰宅すると、クミコの声。
「いや、そこは、ジョロのおしっこシートの……いや、あなたはジョロだけど、おトイレ、そこじゃなくて、こっちでやって、あ〜っ!」
──間に合わなかったようだ。
ミサオがため息をつく横で、クミコはぶつぶつと独り言。
「いやでも、ジョロだし……でも子供だし……もぉ〜〜!」
ズボンにしっぽの穴を開けてもらい、服を着せたジョロを見てクミコが笑う。
「あらぁ、ジョロ、似合うじゃない!流石、私達の息子ねぇ!」
「えへへ、ありがとマミィ〜!」
クミコはすでに、完全に“受け入れた”ようだった。
しゃべっただけでもびっくりなのに、姿まで変わっちゃった!?
でも、ジョロはジョロ。愛は変わりません。
次回は、食事、散歩、そして戸籍……?
“社会の壁”が永井家に迫ります。