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オレつづ  作者: 木荃好葉
妖事~ようじ~編
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第九話 偽りの地獄

おれたちはギルドを後にした。


「賢くん行ったっきりなんだね……不安だなあ」


「あいつも、恐らく勇者なだけのニンゲンだからな。おれたちよりは弱くて当然」


木荃がムッとした。やはり気に触ったか。

しばらくそのまま黙って王都内を歩き続け、北に向かう。


「……ねぇ、もし賢くんがやられてたら、平気?」


ようやく木荃の口が開かれた。恐る恐る、こちらをうかがいながらそう尋ねている。

そうだな……。


「正直なところ、平気だな。おれとしては立場的にも見飽きた光景だ。お前は蘇生させることも出来るしな」


「そっか。やっぱりこんな力、存在しちゃいけないんだ」


そこからおれたちは、また会話を交わすことなく黙って歩き、北の門に到着した。そこにも門番が二人いたが、木荃の指示の通りに


「ギルドから来ました、木荃好葉です!」


「同じく、屍形魁斗」


というと、門番は険しそうな顔から一転、明るい表情になり、


「あぁ、聞いております。どうぞ、お気をつけて」


と返した。

おれたちは二人の門番に見送られて火山に向かったが、門を出たすぐ後に後ろから聞こえた


「勇者の友達……って事は伝説の勇者パーティのメンバーってことか!?」


「そうなる……か?でもでも、なんか個性的って感じだったよな!」


「あぁ!俺あーゆーボーイッシュな娘結構好きだったりすんだよ!あ、ここだけの秘密な」


「はいはい。隣の子供なんだけどさ、実は彼氏で、その〜コノハちゃん?は、ちょいワルな年下好きとか……もしだけどな!」


「い、いや、そんな訳ないって……!……多分」


という会話がずっと耳に残っている。誰が子供だ愚か者共。そして誰がコイツの彼氏だ。おれがコイツに恋愛感情を抱くことはないし、コイツもおれに恋愛感情を持つことはない。ただの友人……だ。


「ねぇ魁斗くんってば、聞いてる?」


「ん、悪い呼んでたか?少し考え事をしていてな」


「まったく……そのままだとぉ……」


ん……?うわっ!


どっしーん♪

ドッカーン!


「あーあ、せっかくボクが岩にぶつかるよーって言おうと思ってたのに。ってかなに今の爆発音〜」


「はぁ、聞いていなかったおれも悪いが、引っ張るなりなんなりしてくれ……まぁ痛くは無いが……」


「カッコ悪いよね☆」


「うるさい」


そんな平和な会話をしておけるのも、今だけであった。


二人で笑いあって火山のふもとまで行った時、遠くに小さな人影が見えた。


それはひどい火傷をしたり、一部が壊死したりとかなりボロボロな体で地面に倒れた、歪んだ鎧をつけた英蔓賢だった。



英蔓賢が龍族長レンド討伐直後。木荃好葉・屍形魁斗が湿地帯から草原へと移動開始時。


「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた……。レンド……お前の事は、俺が忘れないからな」


あれってか俺、王様に貰った装備つけ忘れてね?危な、これで死んでたらダサすぎるだろ……。


「せっかく貰ったんだし、つけて帰るか。途中で噴火するかもしれないしな。確か、火に強くなる魔法がかかってるんだっけ」


そう言って俺はエストの魔法で今度は装備を取り出した。これは簡単に言えばカバンとか宝箱みたいなやつで、数に制限はあるものの、色んなものを出し入れできる便利な魔法だ。チェストと語感が似ているのは、たまたまではないんだろうな。


「よいしょっと。う〜ん、俺は独り言の癖をなんとかしないといけなそうだなーなんてな」


その時、大きな地震が起こり、周囲の地面が崩れ落ちていった。


「うわっ!なんだ?まさかほんとに噴火!?ってやばい落ち……!」


俺のちょうど真下が崩れ落ち、俺は、地下の広く長い空洞に投げ出されることとなった。


「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


やばい落下死する……!


「くっそ、こんなところで死んでたまるか!『聖風雷突(せいふうらいとつ)』!」


素早く突風を乗せた突き技を放つこのスキル……!俺はギリギリ落下の速度を落として着地するのに成功した。

そこは高い炎に囲われた広い円形の平坦な空間で、炎の明るさがあるはずなのにとても暗い。また、なぜか落ちてきた所が塞がっている。もしかしたら、火が円形に囲っているだけでその奥があるのかもしれないが、それも分からない。


「ケガは……ないな。どうしようか……とにかく、どこか出られそうなところを探してみるか」


その時だった。後ろから声が聞こえた。


「そうはさせぬぞ……!」


地の底……地獄から響く獄卒の声かと思うほどに低く、恐ろしく、その瞬間に死を感じてしまうような声だった。


「ひとつ問おう……貴様がレンドを討伐したものか……?」


俺は震える体を抑え、ゆっくりと後ろを振り返った。

俺から少し離れたところ、円形の炎の縁。だいたい四十メートルほどだろうか、そこには十メートルほどの高さの、巨大な人の上半身と顔だけがあった。しかしそれは炎でできており、顔に至っては血のように赤い一本の角の生えた鬼を簡略化したようなお面で隠されていた。


震える声で俺は聞いた。


「お前は……何者だ?」


声が空洞内に響く。


「ふむ、罪人が何をほざく……!我が名を知りたければまずは貴様から名乗れ……そして先程の質問にも答えろ……!」


俺は一度、いや、二度、深呼吸をして言った。


「俺は……英蔓賢……!そうだ、俺がレンドを倒した!」


「やはりな……ん?珍しい名だな。まぁ良い、我はオールーガ……。獄の忌族長だ……」


やっぱり……まさか連続で忌族長と戦うことになるとは。獄……地獄!なるほど……そこは鬼の忌族長じゃないんだ。


「貴様の罪は重い……。ここで我が断罪してやろう……そうすれば、貴様は死後天国に行けるだろう……?」


こいつはなにを言っているんだ?

そう思ってポカンとしていると、また話し出した。


「分からぬのか?今お前は地獄行きだ……だがここで罪を認め、悔い改めて死ねば、きっと天国に行けよう……」


きっと分かりやすくしてくれたんだろう……でも分からない……。


「……愚かな。もう良い。貴様の罪は殺生!それは全ての地獄の可能性を持つ……せいぜいここで後悔しろ……!」


間違いでは無い。だが、俺の中でなにかがプチンと良い音を立てて切れてしまった。


「それはお前もだ……オールーガ!どのような理由、思想、思考があろうと、お前のしたことも殺生だろ!一体お前は、何人の人を殺してきたんだ!」


俺は、恐怖では無い、怒りによって震える手でもう一度聖剣を握り直し、目の前に構えた。


「……罪人を救うには、汚れ仕事をしなければいけないのだよ。その人の罪を……自分が受けるのだからな……。もう良いな、喰らえ……!『等活斬殺(とうかつざんさつ)乱れ爪(みだれづめ)』!」


来た、オールーガのスキル!どこから来る……!

その時、見えないなにかが宙を切り裂いた。ほとんど感覚だけで避けたが、本当に危なかった。


「なんだ?今の!」


「敵に技を解説するものがどこにいる……足りない脳で考えろ……」


「くそ……!うわっ!」


またなにかがビュン!と音を立てて近くを通った。

乱れ爪……これが相手を狙ったスキルではなく、乱れ切りに近いものだとしたら、俺は下手に動き回らない方がいい。ただ感覚だけを頼りに、自分に当たりそうなものを切ればいい。そして音が聞こえなくなったら攻める!


「この速度での順応……才能ある罪人か……悔やまれる」


空気の切れるビュン!という音が完全に消えた。


「……今だ!覚悟しろ、オールーガ!」


その時、オールーガが大きく両手を上にあげ、そして振り下ろした。風と共に広がる衝撃。

俺は勢いよく吹き飛ばされてしまった。


「まずい……火にあたる……避けきれない!」


「人など軽いもの……。身をもって感じろ……」


俺の視界は、真っ赤に染った。


「熱っ!……くない?」


そうか、戦いに集中していて忘れていたが、この装備を着ていれば火への耐性がつく!

この岩のようなゴツゴツとした感触……そうか、この火のすぐ後ろが壁なんだ……!

そういえば、オールーガの体は薄く光っていた。それでうっすらと壁も見えていた。黒い壁なので分からなかった。


「耐えたか……。その装備が怪しいが、火に耐えたところで死なぬとは限らぬ。大人しく切り裂かれよ!『等活斬殺・乱れ爪』!」


またこのスキル!だがここは端だ。後ろだけでも壁に守られているため、俺はより集中して身を守れる!


「ちっ……ならば!『黒縄ノ斧裂(こくじょうのふれつ)』!!」


すると円の中心から無数の黒い縄が生き物のように出てきた。その縄は炎をまとっており、暗闇の中で目立った。

そしてそれは間違いなく俺を目指して蠢いていた。


「最悪だ、移動せざるを得えないか?って、なに!?」


縄はうねり、地面や壁に当たっていた。するとそこに巨大な斧が現れ、切り裂き、砕かれていたのだ。


「つまり、もし俺が縄を弾くとその弾いたところにあの巨大な斧が出現して、俺は切られてしまうかもしれないという事か……!」


「大人しく己の罪を認めろ。そうすれば道は開かれる」


「く……なにを訳の分からないことを……!お前も俺となんら変わらないことを、何度言えば分かる!」


「ならば貴様は、死刑執行人にそう言うのか?」


え……。


「罪人を殺す……我と貴様らニンゲンのしていることは……なにも違わない。そうだろう?」


思わず俺は……動きを止めて黙ってしまった。

オールーガは構わず続ける。


「脳が少しでもあれば分かること。もし貴様がリーナのように脳が無かったり、アウグのように知性を持たなかったり、ゾルトのように聞く耳を持たないのであれば別だが」


誰だ……?レンドが言っていたのはリーナ、アウグ、ゼアル、そしてラソだったはず。それに並ぶゾルト……ソイツも忌族長!?


「……おい、砂漠で何が起こっている?西の砂漠だ」


「砂漠?知らないぞ……?」


「ラソの謎の消失……そしてソラの死……。これはただの死では無い、消えたはずのラソの魔法によるもの……」


一瞬、オールーガの視線が俺から外れた。

その瞬間、俺の足は動き出していた。


「まったく……訳の分からん……ん?『参ノ凍(さんのとう)頞哳吒(あたた)』」


その瞬間、急に周りが寒くなった。


「っ……!イタタタたたたたたたたたたた!!!」


な、なんだ、これ!体がぁぁぁ!!


「あまりの寒さに悲鳴をあげる……。我も油断してしまっていたか。なぁ、罪人。壱ノ凍からゆっくりと威力を上げていくべきだったか?それとも捌ノ凍でさっさと殺すべきだったか?」


くそ、まだ慣れない……!あまりの痛さに、涙さえ出てきた……。


「さあ……まだまだこれから……。熱も……寒も……技は余っているぞ……?」


うっ……なにか……なにかスキルで寒さを緩和するんだ……!最悪、新しく火属性でスキルを作るんだ……!


「……『球熱剣舞(きゅうねつけんぶ)』!」


聖剣に火属性の魔力を込め、球体を意識して踊り狂う!少しでも体温を上げて、次のスキルが来る前に仕留める!


「これは……ふむ、やはりさっさと終わらせてしまうべきだな。なにをされるかわかったものでは無い」


まずい、まだ体温は上がりきっていない。今のが三……それが今度は八で来るのか!?

もっと火力を上げて……!急げ!


「……おそらく逆だ。『阿鼻叫喚(あびきょうかん)無限炎柱(むけんえんちゅう)』」


俺の真下にオールーガの魔力が集中する。やばい、火属性のスキルだ!

地面から魔力出できた炎の太い柱が現れ、俺はそれに飲み込まれてしまった。

なんだ、これ、柱の表面が硬い膜のようになっていて出られない!聖剣も渦巻く炎の流れのせいで上手く振れない。


「う……暑さ自体は、今は大丈夫だが……まさか!」


遠くからオールーガの声が聞こえた。炎のゴウゴウという激しい音を無視し、耳に直接響いているような感じだ。


「そう……ニンゲンの作る装備は無限では無い……。いつか終わりを迎える。対するこの無限炎柱は、魔力が尽きるか我が自ら解除するまで発動する……。つまりは実質永久……!だが……」


この装備が壊れる前に早くこの膜を破って外に出ないと!


「それでも時間はかかる。我にとって初めてのこととなるが、良かろう。『捌ノ凍(はちのとう)摩訶鉢特摩(まかはどま)』!本来は、体があまりの寒さに折れ、裂け、激しく流血するはずだが……」


俺は……体の一部が壊死していくのを感じながらも、ニヤリと笑った。それは、ほんの一瞬の炎の隙間から、オールーガの視界に映った。


「なんだその顔は……?」


「二属性の同時使用……俺が使ったのを見て行けると思ったか?残念だったな。これは俺にのみ許された特権なんだよ。お前もできる訳じゃない」


「どういうことだ……?我は同時使用など……」


「お前の負けだ、オールーガ。違う属性が同じ場所に重なった。それは、ありえてはいけないことなんだよ。普通はな」



ーーー南の草原と王都の間の森ーーー


「ハックション!」


「どうした?木荃。まだ魔力の痕跡は続いているぞ……ちっ、草が邪魔だな。おまけに暑くなってきた。もう昼時か?」



ーーー西の砂漠ーーー


「は、は、ハックション!!」


「おわっ!驚かすなよ……さっき出発したとこだぞ……」



ーーー北の火山地帯ーーー


「……まさか!」


「ただの魔物であるお前が、そんな事を最強クラスのスキルでやったら……どうなるんだろうな」


分かってる。間違いなく……タダじゃすまない。


「な、体が……我が炎が!……まさか、魔力が失われているのか!?」


オールーガの体が縮む。どうやら自分の魔力で炎に形を与え、それを体としていたようだ。つまり物理は元々効かない。本体は……頭部の中心に今一瞬見えた赤いウニみたいなトゲトゲのやつか!普通に戦っていたら負けていたな。

魔法は暴走すれば、その影響はまず使用者に、次に近くの存在に……となれば、俺は一刻も早くここから逃げないといけない。大丈夫、オールーガの体は確実に消滅する……。


「貴様……謀ったな!許さん……!必ず断罪してやる……!」


「先に堕ちてろ……どうせ俺も……そこに行く……」


「……待っていてやろう。先に送った獄の仲間達と共に……」


ゴト……


そう言ってオールーガは、お面を残して消え去った。

先に送った……?まさかこいつ……!


「自分の仲間を……自分で殺したのか……!?」


ただ、今はこの魔法から離れることが最優先だ。

この魔法を発動させたオールーガは消えた。そしてそれによって効果、威力ともに大幅に落ちている……今なら聖剣も多少は上手く振れる!


「よし……っ!足が……!」


ダメだ、壊死してしまって使い物にならない!上手く踏ん張れない……それでいけるか?


「腕が動くならいける……。いける!膜を破るだけなんだ!はぁぁぁぁ!!『円斬風雷』!!」


この剣は突きに向かない……。そう、横に切った方が良い……!少し弾力がある膜だが、そこに雷の速さと鋭い風の刃の追撃で無理やり押し切る!


「よし!切れた!後はここから……!」


間に合わなかった。

強力な炎と強力な氷の二つの魔法は暴走し、大爆発をした。そこから抜け出せていなかった俺は勢い良く上に吹き飛ばされ、地上に到達した。

俺が最後に見たのは、暗くなってきている、オレンジ色の空だった。


そこで俺の意識は途絶えた。

どうも〜!木荃好葉(このうえこのは)です!

(((o(*-*)o)))イエーイ♪


えっとぉ、オールーガさん?バカなことしないでいただけます?

あなたスキル十八個くらいありますよね!?

尺が……まだこれ妖事編だけだと七話目……予定は十五話……まじか!

えっと残りの敵は、

ゾルト(水皇の配下の忌族長。何族かは不明)

炎皇(四天王。名前不明)

地皇(四天王。ガイアグラス)

水皇(四天王。名前不明)

無皇(四天王。名前不明)

魔王(名前不明)

となっているのですが…まぁ一体に二話使えば全然いけますね☆


読んでいただきありがとうございました!


最後になりましたが、コメント等いただけると……!

嬉しいです、助かります!意見感想待ってます♪


それではまた!( ・ω・)/バイバーイ

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