第八話 再会、そして再開
やはり戦闘に関しては木荃の方が何枚も上手だな。おれが多少ナメていたとはいえ瞬殺できなかった相手を、こうも簡単に倒してしまうのだからな。
そんな事を思っていると、木荃はハッとしたように顔を上げた。
「……って、それよりもみんな大丈夫かな!?やっばごめん、忘れてた……」
「みんな?もしかしてここのニンゲンと接触したのか?」
「うん。戦闘からはだいぶ離れてもらってたんだけど、アイツ相手だと不安だよ……」
そうだった、こいつは強いだけではなく優しいんだっだ。
昔からの話だ。こいつの周りはいつも賑やかだった。周りのみんなも、木荃自身も、いつも笑っていた。
いつも一人でまっ黒い崖の上から魔法で作り出した窓を使い、ニンゲンを観察するだけの毎日を送っていたようなおれにも気さくに話しかけてくれた。木荃は、ただ面白そうなやつだったから、と言っていたが、それがどれほどおれの未来を変えたことか……。
だからこそ、なんだろうな。木荃が、今もその顔の下でもがき、苦しんでいるのは。
「それなら、一度外に出てそいつらに合流するぞ」
おれは良く木荃にツンデレと言われる。その時おれは毎回違うと言うし、その後にまたまた〜と返されるのがお決まりだが、本当に恥ずかしくてこんな口調や態度になっているんじゃない。ただ、それ以外をできないだけなんだ。ずっとそうやって生きてきたから。
木荃は魔法……魂術?で、相手の心を読める。だから、一度おれの心を読んでみればいいと言ったのだが、何故か却下されてしまった。
「うん!じゃあ手、繋ご?」
英蔓が木荃に、一瞬でも惹かれたのが分かる。おれも初対面ではどうなるか分かったものじゃないな。ただ、おれに恋愛感情というものがあればの話だが。
あぁ、ニンゲンの手は温かいな。柔らかくて、心地よい。
「分かった。いくぞ、『テーポルート』」
おれたちはちょうど真上に瞬間移動した。木荃がどこに行きたいのか、おれには分からないから、とりあえず。どうやらおれ達がいた空洞は湿地帯の地下だったようで、たまたま陸地に出ることができたようだ。少しズレていたら足首まで濡れていたぞ、これ。
「ん?あれが木荃が落ちた穴か?」
「え?あ、そうそう!」
少し離れたところに、確かに木荃が入りそうな穴がぽっかりと空いている。周囲に亀裂が走っている穴だ。泥のせいで少し塞がっていっているようにも見える。
「お前はこっちに向かって落ちてきた、ということはあっちだな?おい何ぼーっとしてる、早く行くぞ」
「うん、そうだね!ってか、やっぱり魁斗くん、実は優しいんじゃん!まったくぅ、ツンデレだなぁ〜♪」
だから違うんだよ……。まぁ良いか。どうせこいつはおれのことを深く知ろうとしない。おれもこいつは探らない。
「はぁ……違うと何度言った」
「え〜?分かんないけど……そろそろ認めなって〜」
おれは再び短くため息をすると、木荃を睨んだ、が。
「そんなのしても無駄だよー?昔と比べて今の魁斗くん可愛いからねぇ。まさかそんな小さな少年に扮するとはね」
昔……。頭の中に一つ目の、右に歪んだツノが一本だけ生えている黒いナニカがフラッシュバックする。
木荃、お前はいつか殺す。おれが呪いで苦しませてやる。覚悟しとけよ……なんてな。
テーポルートは魔法なので少量だが魔力を使う。なので、おれたちはいつ戦闘になっても良いように魔力を温存するため、移動は足にする事にした。
その道中は至る所から太い、細かくトゲのついた根が生えており、おそらくはガイアグラスという四天王の仕業なのだろう。
ガイアとは、地形やそれに関する神を産んだギリシャの女神の名。そしてグラスとは英語で草という意味。もしそいつの名がそこから取られているのだとすれば、皮肉に感じる。と、言うのも……。
「逆に不自然だな。まるであちこちの土が掘り返されているような……自然の象徴のような名を冠する者が、自然破壊とはな」
「う〜ん、まあ、確かにね……。あ〜、そうだ〜♪今度会ったら、それでイジめてあげようかな?お前そんな名前なくせして自然破壊してるとかやっば〜って!あっはは♪楽しみー!」
……なぜあんなに人気があったんだ?こんなサイコパスが。
少し歩くと、明らかに木荃が戦ったであろう草原に出た。深くえぐれた地面、散らばった針、焦げた草……ん?
「おい、この地面の放射状の跡……木荃か?」
「え、あーそうそう。手っ取り早く倒そうと思ってさ。必殺!天津ノ月!まぁ、ゼアルっていう虫はありえんぐらいに硬くて耐えちゃったんだけど……」
「そうか。お、魔力の跡……あっちの森に移動したか?」
「おぉ、さすがは魁斗くん!空気中にわずかに残った魔力を感じて移動した方向を見つけるとは……!正解だよ!」
丁寧な説明どうも。まあ褒められるのは気分が良いが。
「なら行くぞ。安心しろ、そんなにつよい魔力は感じない。瞬間移動していない限り、ガイアグラスとやらは大丈夫だろう」
「サラッとあいつらに失礼なこと言ったねぇ……。もしそれなら、ガイアグラスはどこに行ったんだろ?」
一旦そのことは置いておくことにし、そのままおれ達が森に入って数分後……。
「どうした?木荃。まだ魔力の痕跡は続いているぞ。ちっ、草が邪魔だな。おまけに暑くなってきた。もう昼時か?」
「そうだね……あ、魁斗くん!見て、建物!街だよ!ついでになにか食べよ?」
「金がないだろ金が。まぁ魔力も街に向かっているから、この中にいるんだろうな」
すると木荃は安心したように胸を撫で下ろすと、小走りになって街に、いや、国に向かっていった。だが、どこかなにか違和感を感じる……まさか?
「おい、木荃、止まれ。なにかおかしい。集中して感じろ」
「え?すぅ〜、はぁ〜。……なにこれ、壁?」
そう、この国は見えない壁に囲われている。魔力によるバリア……特に問題は無さそうだが。
「ちょっとまってー、『魂術・魂察』……お、右に少し行ったところに壁の近くに人が居る。魁斗くん、魔力はどっちに向かってる?」
「右だ。おそらくそいつが門番のような者だろうな」
おれの読みは正しかった。そこから少し行ったところに重そうな鎧を着た男が二人立っており、軽く尋問のようなものを受けるはめになった。
「お前たち、止まれ!何者だ?」
「うるさい、入らせろ」
「そうはいかん!とにかく名を名乗れ!」
面倒な。しょうがない、力づくで……。
「ちょっと待って、ここはボクに任せて?」
すると木荃がそう言って、門番共に詰め寄った。当然動揺する門番。……なるほど。そういう作戦か。
「ねぇねぇ門番さーん!ちょっといい?」
「な、なんだ……?」
「『魂術・魂眷』っと、ねぇ〜?ボクたちのことさ、見逃してくれない?」
魂眷。相手を自分の味方にするとかいう、もうなんでもありな魂術のうちの一つ。ただ、なんでも言うことを聞かせることはさすがにできないらしい。
ちょっとまて、こいつ、もしかしてこれで友達作ってたのか?そんな事をするようなやつじゃないと思うのだがな。
ところで前に魂術は戦闘用の魔法だと、木荃から聞いたのだが、魂を操る系ならなんでも良さそうだな。
「う、うーむ……まぁ、そうだな……」
「ねぇ、一回くらいはさー?良いんじゃない?どうせバレないって〜。この国の中に会いたい人がいるんだよー」
「そう……だな?では、どうぞ……」
「ありがとう!それじゃぁ魁斗くん、行こー!」
「あぁ、そうだな。邪魔だ、どけ」
おれはこの後、木荃に先程の態度について十分ほど説教される羽目になった。
「まったく、そんなに気にする事はないだろ」
「気にするって!上手く社会に溶け込むためには必要!」
と、こんな感じだ。
話が終わり、再び木荃の知り合いという魔力を追うことにした。そして辿った先が……。
「ギルド……?」
王の城を中心に円形に広がる城下町、ラック(この街の名前らしい。通りかかったやつに聞いた)の北の方にある、小さな建物だった。他の建物と同じように、昔のヨーロッパ?のような建物だ。
「この中であってる?」
「あぁ、間違いない。問題はここに、堂々と入ってもいいのかだな。下手に目立ちたくはない。悪いが、木荃、いけるか?」
「う〜ん、もう既に目立ってそうだけど……まぁ、しょうがないなぁ。まっかせて!『魂術・魂化』」
木荃の姿が絵の具を水に溶かしたようにゆっくりと透明になっていく。魂化とは自分を霊体にする魔術で、壁もすり抜けられるらしい。弱点は着ている服もアクセサリーも全て体から離れてしまうことと、解除以外の魔法も魔術も攻撃もできなくなることらしい。魂術では逆になにができないのか教えて欲しいところだな。
数秒後、木荃がギルドの横の薄暗い路地に裸で現れた。
赤面し、小声で話しかけてくる。
「魁斗くん……あの、お願い、服持ってきてくれない?」
「はぁ、ほんと、最大の弱点だな。ほれ」
「ありがとーって、あんまり見ないでよ、恥ずかしいじゃん」
「悪い……な?」
「なんで疑問符つけた!?」
少しして木荃が出てきた。小さい子供にチラッと見られていたことは、一応秘密にしておこう。
「で、どうだった?」
「えっとね〜、簡単に言ったら依頼を受ける場所みたい。魔物討伐とかね。だからボクらも平気で入れるよ。あ、それとみんなもいたよ!!」
「わかった。なら入ろう」
戸を開けると、中にいた人がこちらを向いた。その中の不安そうにうつむいていた四人が驚いたような表情になり、大きな声を上げる。
「コノハ……!無事だったのか!」
「コノハくん!?」
「コノハ……!」
「……コノハ……?」
巨大な盾の男、杖の女二人、老人一人が順に叫ぶ。この四人が知り合いのようだな。一人忘れてるやついなかったか?
「アートさん!みんな!はい、無事です!あいつらは倒したよー!」
「そうか……ところで、隣にいる小柄な人は……」
ちっ。おれに話が向くのが早いな。おれは、面倒だ、と木荃に目配せする。説明よろしく。
「えっと、こちらは屍形魁斗っていって、ボクの元の世界からの友達!一緒にこの世界に飛ばされちゃって離れ離れになってたんだけど、さっき湿地帯の地下の洞窟で再会したんだよ」
すると四人は「湿地帯?って、まさか東にある、あそこか!?」と、また大きな声を出した。なにかマズイ事だったのか?
「湿地帯が……なにかマズイのか?」
「カイトさん……ですよね?その、湿地帯……ワルベ湿地は、忌族八種のうちの二種類が支配していると言われていて、北の火山地帯や西の砂漠と並んでとても危険な場所だと言われているんです」
と、大人しそうなヒトが言う。
「まさか、そうだとは思っていたものの、草原も支配されていたとは……あそこには小さな村もいくつかあったはずだが……」
と、盾の男……アートが言う。
「忌族?リーナの事か。そいつ一体しか見なかったぞ」
「うん、ボクらで倒したよね」
四人が面白いように体をくねらせて頭を抱え、その後深くため息をついた。同時にだ。苦笑い……あー、忌族ってそういや結構強い敵なんだ……だからか。ところで、こいつら名前なんだった?まぁいいか。
「もう良い、コノハと、その友達もおかしいと言ったら悪いが常識が通用しないことはわかった」
「コノハ……あんたもう八体のうち、三体をもう倒してるのよ!?それがどういうことかわかってる?」
周りの他のニンゲンが騒ぐ。小声で、こいつらが本当の勇者様なんじゃないかだとか、じゃあさっきの子はなんなんだだとか……。
「そんなにピンときてないけど……あ、そうだ、ボクたちさ、実は仲間があと三人居るんだけど、会わなかった?」
そして木荃は英蔓の特徴を話し出した。
「まず英蔓賢くんなんだけど、えっと、黄緑色のシンプルな服で、紺色のズボンで、頭になんかつけてる人で……」
その時、少し離れたところの椅子に包帯を巻かれて座っていた男が怯えながら言った。
「エ、エイヅル……ケン!?お、お前ら、アイツの知り合いなのか!?」
「え、そうだけど」
「それがなにか?知っていることがあるのなら言え」
男は一滴の涙をこぼし、身体を震わせて震えた声で言った。
「この傷はそいつにやられたんだ……火山に向かうとか言ってた……あぁ、そこで焼け死んでくれねぇかなあ……」
木荃の目から光が消えた。笑顔を失い、真顔になる。木荃の魔力が闇に染まっていき、獲物を見るように目を細めた。その緑の眼球に入った橙と紫の線が暗くなる。そして反対に、右目にだけある目の中心の火のような模様が明るさを増した。
まずい、ここで木荃がキレたらこの建物が無くなる……となれば大問題となるだろう。どうする……?
その時だった。
「落ち着けよ、勇者の友人」
また違う男の声が建物の奥から聞こえてくる。
奥から戦い慣れているであろう身のこなしの男が現れた。包帯の男が舌打ちをしてそっぽをむく。
「わりぃのは満場一致でさっきのミイラ野郎だが、お前の魔力で暴れられたらたまったもんじゃねぇからな」
木荃が目を閉じ、深く呼吸をする。こいつがいつも、落ち着くためにする癖だ。どうもこの癖をやめられないらしい。
「そうですねーわかりましたーはーい」
そう言って後ろに下がり包帯と距離を置くが、まだ目に光はなく、強く握った拳は小刻みに震えていた。
「あいつの事は無視しろぉ。それで、忌族長を倒したってのはぁ、本当か?」
「うん、南の草原で獣の忌族長アウグと、蟲の忌族長ゼアルを倒して……」
「東の湿地帯の地下で屍の忌族長リーナを、コイツが、倒した」
するとダルそうな男は「そうか……」と言って下を向く。どうやら考え事をしているようだった。
「お前らに相談なんだが……お前らも火山地帯に行ってくれねぇか?そこにはエイヅルケンも居るのだが、まだ帰ってこなくてな。忌族長か、あるいは四天王と戦っているかもしれん」
「そういう事なら行くしかないでしょ!黒幕先生と、喜雷くんの事は気になるけど……とりあえず一人づつ増やしていこう!」
「……そうだな」
火山地帯は北……もう一つ忌族が住みついているという先程の湿地帯は東だ。帰るついでに寄っても良いだろう。
「よし!それじゃぁ、ボク達もその火山地帯に行ってきますね!」
「ありがとな、門番にはこちらから伝えておこう」
「コノハ……俺たちじゃ足でまといだろうから残るが……気をつけろよ」
「そうそう、あんたも一応、このチームなんだからさ」
「コノハくん……無事に帰ってきてね」
「……コノハ……?」
ニンゲンの友情……愛情?は面白い。人によって違う。
……まだ一人思い出せてない奴いたな?
「ありがと!じゃぁ行ってきまーす!」
「じゃあな」
カランと明るく乾いた音が鳴った。
どうも〜!木荃好葉です!
(((o(*-*)o)))イエーイ♪
さぁ、無事に出会うことができました!今度は英蔓賢のところへ……。
一方、黒幕先生と太谷喜雷は……?
消えたガイアグラスは……?
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それではまた!( ・ω・)/バイバーイ