第四話 熱い戦い
「さて、勇者エイヅルケンよ。お主にはまず、最も被害者が多いと言われている火山地帯に向かって欲しい。あぁ、こちらから装備を渡そう。武器は持っているな?」
「はい、こちらの……」
王宮魔術師さんから聖剣を返してもらう。
良かった、どこか細工をされていないかと少し心配していたが、特に以上はない。まぁ、最悪新しく召喚すれば良い話だが。
「うむ。それでは街の方にこちらから話をしておくぞ。きっとお主の手伝いをしてくれることじゃろう」
城下町、ラック。王様のお城を中心に広がる大きな円形の街で、これから俺が過ごすことになる場所だ。
王様の話はすでに広まっているようで、歓迎してくれる人もいれば何やらコソコソと話している人もいた。
「まぁ、当然だろうな。突然現れて勇者でーす!この国救いますね!って、信じる方が珍しいだろ」
俺はまず、その火山地帯に行くためにこの街の北の方にあるというギルドに向かうことにした。
あまり気にしたらダメかとも思ったが、ここではどうやら日本語が通じるらしい。街の人に聞くと、逆に異世界から来たという俺に通じているのが驚きだと言う。
そこで、俺はそういうものだと無理矢理納得した。
「お、ここかな、ギルド……うん、合ってるな」
それは石でできたシンプルな建物で、茶色い木製のドアの上の吊り看板にギルドと手書きで書いていて、ひとつ窓がある程度だった。その窓の下には花壇があったが、なんかよく分からんけどキレイな花が植えられていた。
俺はとりあえず入ってみることにした。
ドアはカラン、と良い音を立てて開いた。上にお店のように音を出す装置があったが、金属ではなく木だった。
受付だと思われる場所には、誰もいなかった。バーのように並べられた木製の椅子には、何人かが座っていた。
俺は受付に近ずいて言った。
「あの、すみませーん。火山地帯に行くために来ました、英蔓です」
奥からなにか声が聞こえたが、小さかったうえ他の人の話し声でほとんど聞き取れなかった。
「おい、アンタ。今エイヅルっつったか?」
振り返ると、腰に短刀をいくつかぶら下げた屈強な男がたたずんでいた。
すごい筋肉の量……今にも着ている服がはち切れそうだ。
「はい……そうですけど」
そう言うと、その男は腹を抱えて笑った。
「あっははははは!おい、聞いたか?このヒョロいガキが伝説の勇者様だと?おいおい、なにかの間違いじゃねえのか?」
こういう異世界系の物語、ストーリーではよく聞きそうなセリフを言うと、男はまた大きく笑った。
「あっはっはっはっは!はぁはぁ、まぁ王様も藁にもすがりてぇんだろうなー。だからこんなガキに騙されんだよ。あ〜可哀想に」
さすがにそこまで言われたら腹が立つ。モブAって呼んでやろうか?
まぁ、むやみやたらに手を出すのは良くないよな。少なくとも、相手が手を出してこない限りは。
「なぁエイヅル、俺と一戦交えようぜ。それで勝ったら認めてやるよ」
まさかこんなに上手くはないが話が進むとは。
それにしてもコレ、いわゆるフラグと言うやつではないか?きっとこいつも極端に弱くはないだろうし、だから言っているのだろうが、周りの奴らが止めようとしても聞かない。それにお前に認められても……。
あぁ、俺のスキルを見て「なんだこの技はあ!」って言っているのが目に浮かぶ。ただ、相手の実力が分からない以上手は抜かない……。
「分かりました。死なない程度に戦いましょう」
「俺は殺しにいくけどな……!」
惨敗だ……。
相手の。
「な、なんなんだテメェ!なんだこの技はあ!」
あの後すぐにギルドの後ろにある広場に移動した。この場所をドヤ顔で説明されたが、後ろに着いてきた人たちの反応を見るに、知っていて当然の場所なんだろうな……。
俺が聖剣を構えると、あいつは「見た目だけは一丁前じゃねぇか」と言っていきなり高速で斬りかかってきたから俺は、スキルを発動させた。
「『乱雷雲斬』」
たくさんの雲と雷を同時に召喚する乱れ切りなのだが、コレだけで終わり。そう、コレだけで、だ。
「本来は雲で視界を悪くして雷を避けられなくするーみたいな感じなんだけど、勢いがよすぎてまず止まれなかったと……」
それで今に至る。もう一度言う、これだけだ。
「てっめぇ、おい、こんなのズルだ!ありえねぇ!」
「な〜にがズルだよ、お前の負けだ」
後ろで見ていた人がつっこむ。そうしたくなる程にこの戦いは酷いものだった。
「だってよ、はぁはぁ、斬撃と魔法の同時使用、それもあれ程強力で見たこともない魔法の複合なんて、最強の魔法剣士でも無理だろ!まだガキだぞ!?そうか、誰かがちょうどいいタイミングに手伝ったんだろ?」
「言いたいことは分からなくも無いが、だとしたら手伝ったやつもなかなかの強者じゃね?ヤバいぞ」
「そこはーまぁ多分だけど、勇者様の特権ってやつじゃねぇの?」
みんなが口々にそう言う。そして一言なにかを言われる度に、男は涙目になっていく。
「なんだよ!俺が悪いのかよ!」
「いやそうだろ」
最終的にみんなの呆れは軽蔑に変わり、男は短刀を拾ってどこかへ走り去ってしまった。飛び散った水は涙か汗か。
「おぅい、お前ら、ここで勝手に何してんだ〜?」
「あ、ギルドのおっちゃん!居たんすね」
人混みの奥からギルドのおっちゃんと呼ばれたダルそうな男がやって来る。
「まァなー、こんだけ騒がれりゃぁ、気になるもんだ」
一目見て分かった。この人、確実にさっきの男よりも強い!
体はそこまで筋肉だらけでもないし、ダルそうだけど間違いない。そういうオーラがあると言っても過言ではない。
「あぁ、どうせアレだろ?短刀使いの。アイツに早速絡まれたろ」
「あ、はい……」
「やっぱりなぁ、アイツよく新入りのこと虐めるからよ。悪ぃな、大丈夫だったか?」
「あの、それなんすけど、そこの子の圧勝でした……」
誰かがそう言うと、ギルドのおっちゃんは大声で笑いだした。
「ガッハッハッハッハ!そりゃそうだろうなぁ!俺ももう現役は引退した身だが分かるぜ、コイツの強さがよ。圧勝だろ。やっぱりな!俺の言った大丈夫かは心の問題だ。大体のやつはそれでやる気無くしちまうからなぁ」
「あぁ、なるほど……すみません」
「それで、お前がエイヅルケンで間違いねぇな?確か火山地帯に行きたいんだよな?」
「あ、はい。一応王様が防具をくれると聞いているのですが」
「あぁ、預かってるぜ。入ってこい。おいお前ら、用がねぇならさっさと依頼行ってこい!」
俺はギルドのおっちゃん……ダイナさんに連れられてギルドの奥へ足を踏み入れる。ダイナさんによると、そこは個人的なスペースで、基本立ち入り禁止らしい。確かにそこの棚には綺麗なキバや爪が飾られており、おそらく昔ダイナさんが自分で狩ったものだろう。
「さ、これだ。炎耐性の魔法もかけられている上等の物だ。売ったら高いぜぇ?これ」
奥を見ると、薄く、怪しく光る防具が置かれていた。
「かなり軽い素材だし動きやすそうじゃねぇか。ウチの国にこんな技術があったなんてな。まぁ良い、着てみろよ」
着てみると確かに軽く、動きやすいものだった。サイズは少し大きく見えたが、着てみると少し縮んだ。俺に合わせたのか?どこかで聞いたことのあるような……。カッコイイ防具なのだが、俺に似合っているかと言われたら微妙かもな。
「あの、これって収納魔法大丈夫ですかね」
「なんだ、お前なんでも使えるじゃねぇか。そうだな……長期間はダメだろうな。ただ一応いけるはずだ」
良かった。街中をこの明らかに目立つ装備を着て歩く勇気は俺にはなかったから助かった。ハロウィンのコスプレじゃん。
「それじゃぁ、『エスト』」
金属製の装備が俺の目の前に吸い込まれて消えていく。
これで後から好きなときに取り出すことができる。
俺はダイナさんに別れを告げると、早速火山地帯に向かうことにした。
「ここが北……火山地帯はさらにその奥か……。大体三キロくらいかな。案外近い」
火山の近くに主要な街があっても大丈夫なのだろうか。
ダイナさんによるとこの街は常に魔力の壁によって囲われており、人間、魔物、動物はもちろん、火山弾や火山灰も通さないと言う。
そのためこの街から出るためには各方角の門番に開けてもらう必要があるそう。なかなか厳重だ。
そして火山地帯は街の外なので、俺はまず火山に一番近い北の門番に会いに行く必要がある。
歩き始めて少したった頃、奥に誰か見えてきた。
「あれが門番かな」
そして近づくと、二人の鎧を着た男が現れた。そして。
「あなたのお名前は?」
「英蔓賢です」
「勇者様ですね、お待ちしておりました。どうぞ……」
元々透明の壁だったので分からないが、おそらく開けてくれたのだろう。
俺は頭を下げると奥に進んで行った。
「お気をつけて……!」
英蔓賢が見えなくなった頃。
「やっば、あれが勇者様?小さいのにカッコよ……」
「すっげぇ、会話しちゃったよ!緊張した〜」
今日も平和な国のよう。
英蔓賢が火山地帯に足を踏み入れてしばらくたった頃。
「ん?なにかの気配がする……上か!?」
見上げると俺は、完全に囲まれていた。
無数のドラゴン。ギルドに貼ってあった紙によると、ドラゴンは一体でも上級者が苦戦するような魔物。それが何体も……!
「お前、何者だ?」
周囲に声が広がる。すると無数のドラゴンの中から、一際大きく、そして強力な気配を放つ赤いドラゴンが現れた。
「俺は英蔓賢。ここの調査に来たものだ!悪いがお前たちは魔物である以上、俺がここで倒す!」
そう言うとドラゴンたちは笑いだした。そのたった一匹の赤いドラゴンを除く全てのドラゴンが。
「待て、静まれ。お前たちには分からないようだな、この男の強さが。間違いない、光の魔力を感じる。お前、勇者だな?」
もう見抜かれた!?こいつ、強い……!
「……はぁ、あぁ。そうだ。そう言うお前は何者だ?」
赤いドラゴンが周りを見渡し、「帰っていろ」と、他のドラゴン達を巣に帰らせるとこう言った。
「我は龍族の族長、レンド。偉大なる魔王様、そして炎皇様に使えるドラゴンだ」
なるほど、つまりコイツは忌族の一人ということか。炎皇というのが、おそらくは四天王の事だろう。
「俺の目的は魔王を倒すことだ。そうすれば、俺は多少は自由の身になれるだろうからな」
「ふむ、お前は罪人か?罪滅ぼしか?どうもそのようには見えないが。ましては勇者が」
「いや、だが勇者だと国にバレている以上、俺に自由はないようなものだからな。俺の別の目的のために、魔王には消えてもらう」
そこまで言うと、レンドはなにか哀れむような目をすると、
「そうか、人間は皆そうだ。自分の私利私欲のためだけに全てを奪う。昔話をしよう。我らも元は、より広大な森に自然と共に何千年も前から暮らしていたのだが、そこを人間どもが荒らし始めた。当然許せる訳もなく、我らは何十年も、何百年も人間どもと戦い続けたのだ」
と言い放った。
残念ながらその話に間違いはないだろう。地球の歴史もそうなのだから。全ては人間による破壊と支配だ。
「ふむ……?今リーナと宇宙が何者かと戦っているな。おい、お前の仲間は何人いる?」
「何故それをお前に言わなければならない?」
「そうか、お前には少なくとも一人は仲間がいるのか。真っ先に否定しないのだからな」
「……!」
コイツ、なかなか頭が切れる。ただギャーギャー騒いでいるだけのドラゴンとは違う……。強くて頭が切れる敵。
「それではここでお前には死んでもらおうか。そうだ、そしてお前の生首を持って仲間に会いに行ってやろう!勇者の仲間だ、きっと強い。仲間にできれば魔王様も喜ばれるだろうからな」
ダメだ、アイツらは……!
確かにみんな得体が知れない。
屍形はなぜかテーポルートを知っていたし、太谷に関してはアイツは人間じゃない(多分)。
そうだ、木荃だ。アイツは絶対にダメだ……!屍形と知り合いのようだが、今のところ一番の一般人だ。ここで俺がこいつを止めて、早くみんなの所へ……!
「レンド!仲間思いなお前ならわかるはずだ!俺は……みんなのためにここで戦う!」
レンドが大きく目を見開いた。
どうも〜!木荃好葉です!
(((o(*-*)o)))イエーイ♪
英蔓賢もとうとう戦闘を始めました!がんばれー!
後は木荃好葉だけですかね、戦っていないのは。
太谷喜雷と黒幕先生はどうやら宇宙とか言うやつと戦っているそうなので、ってか規模エグ。
果たしてどのような技を使ってくるのか!楽しみ〜♪
次回はその太谷&黒幕vs宇宙のお話です!
読んでいただきありがとうございました!
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嬉しいです、助かります!意見感想待ってます♪
それではまた!( ・ω・)/バイバーイ