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1 来訪者

 ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。


 子供の私でも、歩くたびに茶色い床板がキシキシと音を立てる。


 森と一体化したようなこの家が建てられて、どれだけの年月が経っているのか私は知らない。


 前の持ち主であったお師匠様から、そのまま受け継いだだけだから。


 それで、来訪者の事だ。


 こんな森の中の辺鄙な場所に誰が来たのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。


 そもそも人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られているのだから、誰が来たのかわかりそうなことか。


 カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。


 開けた振動で扉に吊るしていた山吹色の小花のドライフラワーが揺れ、ほんのり甘くて爽やかな香りがしたけど、来訪者はそんな事なんか気にも留めずに切羽詰まった様子だった。


「エカチェリーナ、助けて!」


 室内に飛び込んで来たのはこの国で唯一の聖女と認められている、ヴェロニカさんだった。


 黄金が流れるような金髪を揺らし、宝石も顔負けの青い瞳が瞬いている。


 ちなみに私の容姿は、森に埋もれてしまってもきっと違和感の無い赤色の髪に深緑の瞳だ。


 懐かしい人を思い出せるから好きではある。


 それで、私よりも5歳年上のヴェロニカさんは、国立学院の先輩でもあった。


「ヴェロニカさん」


 学院は貴族の嗜みの一つとして、年頃を迎えた子息令嬢が過ごす場所だ。


 どんな家柄でも貴族なら12歳から入学できる。


 例外として、魔法の才能を秘めた平民が入学する場合もある。


 私もその例外の中に入る。


 ヴェロニカさんもで、彼女は平民として孤児院で過ごしていたけど、元々たくさんの魔力を持ってて、さらに入学時に聖女である事が明らかになって、今は貴族の養女となっている。


 大厄災があった日から行方不明となっていた聖女は、幼い頃の記憶を無くしてこの国の孤児院で過ごしていた。ということらしい。


 それで、助けてとは?


 話に戻る。


 コテンと首を傾げてみせた。


 ヴェロニカさんなら、何でも自分で解決できるはずだ。


 たくさんの知識と魔力を持っているから。


 だから、自分がやりたい事をやりたい通りにこなせるはずだ。


「いつ見ても、私の可愛いエカチェリーナね」


 疑問符を浮かべる私の目の前で、宝石眼と言いたくなる瞳が慈しむように目を細める。


 私の無表情さは幼少期に何処かへ表情筋を置いてきてしまったからであって、ヴェロニカさんは気にしない。


「エカチェリーナに助けて欲しいのは、第二王子なの」


「第二王子」


 また、首をコテンと傾けた。


 ヴェロニカさんと婚約したこの国の王太子には、弟となった六歳年下の王子がいたはずだけど、その子のことかな?


 今は11歳で、私の一つ下のはずだ。


 その第二王子を婚約者のために是が非でも助けたいのかな?


 いや、これはそこまで気負った話でもないか。


 ヴェロニカさんの信用を得る為とかの方が、それっぽいかな?


「彼には私の癒しが効かないの。第二王子は数年の間自室に閉じこもって出てこなくて。それで、ミハイルはとても気にしているの」


 ヴェロニカさんはミハイル王太子の元婚約者の病を癒したばかりで、今度は第二王子様を助けなければならないとは。


 というか、この国の王室は病人を抱えすぎでは?


 元婚約者さんは、理由とその価値があった。


 第二王子も……まぁ、重要な人物ではあるか。


 一般的に長子のスペアとなるのが次子の運命だ。


「これはきっと、エカチェリーナのためにもなるわ。ねっ、私を助けて欲しいの」


 また、誰もを魅了する笑顔を浮かべたヴェロニカさんは、私の両手を握って言った。


 とても面倒だと思っているし、私には何もかもが関係ないことなのだけど、ヴェロニカさんがそこまで言うのなら、頑張ってみましょう。


「ヴェロニカさんがそこまで言うのなら」


 それを伝えてちょっとだけ身支度をする。


 城に行くためのかしこまった服なんか持っていないから、学院の制服を着た。


「じゃあ、行きましょうか。エカチェリーナ」


「はい。ヴェロニカさん」


 箒に跨ると、当たり前のように空を飛んで行ったヴェロニカさんの後を追った。




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