03 歓待
少女の家、居間にいる大勢の面々は、いずれも妙齢の見目麗しい娘さんたち。
お互いの自己紹介の後、口々に少女を救ってくれた礼を述べるが、実はとても居心地が悪い。
武芸を頼りの荒事ならば手慣れたものではあるのだが、いかんせん今の過剰に華やか過ぎる状況は、武芸以外に取り柄のない俺のような武骨者には手に余る。
何がしかの理由を捻り出して、今すぐにでも退散せねば。
あのような胡乱な出来事の後で見ず知らずの怪しい男を家に招き入れるのはいかがなものかと思うと苦言を呈してからここを出ようと立ち上がると、娘さんたちから取り囲まれた。
緊張感のある華やかさとでも言うのであろうか、何とも言えぬアレな空気のせいで気付くのが遅れたが、娘さんたちの内の幾人かはかなりの手練れなようで、この場からの平穏無事な脱出は難しいと悟る。
大人しくテーブルに着くと、落ち着きを取り戻したのであろう少女がお茶を煎れてくれた。
美味い。
馳走になったと礼を述べ、今度こそはと去ろうとするが、少女が側から離れない。
この状況、今の自分の実力では、如何ともしがたし。
「シナギさんは王都に着いたばかりとのこと。 あのような出来事もあったことですし、娘のマクラの安心のためにも、よろしければしばらくは我が家に滞在していただければ、と」
モノカと名乗った可憐な娘さんからの真剣な言葉。
その真っ直ぐな物言いと、明らかに只者では無い物腰。
断れるはずも無く。
「しばし、ご厄介になります」
エルサニア、侮りがたし。
歓待の宴、豪勢な夕食。
マクラという名のあの少女が、腕によりをかけてくれたとのこと。
少しでも怖い思いを忘れてくれればと、堪能した旨、丁寧に礼を述べると、愛らしい笑顔を見せてくれた。
「マクラちゃんを助けていただき、本当にありがとうございました」
この優しそうな御仁は、先ほど駆けつけて来てくれたカミスさん。
モノカさんの婚約者、とのこと。
「あの連中、ただの人さらいの類いではないと見受けられましたが、何か心当たりはありますか」
真剣な表情で考え込んでいたカミスさん、意を決したように語り始めた。
「シナギさんの人となりを見込んで相談したいことがあります。 後ほど、僕たちの話しを聞いてもらえませんか」
おそらくはマクラさんが寝入ってからであろう相談事、しかと了承した。