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第8話 服多家訪問 その3

おわった。おわったよ。やっと家庭訪問編が終わったよ。次回からは学校を舞台にできるかな。

ということは同級生たちの名前を早く決めないと。


ていうかまだ決めてなかったんかいっ! と、セルフで突っ込む。

「今までの話で、好恵さんの女の子らしいところは充分に理解できましたけど、逆に男の子っぽいところとかはないんでしょうか?」


 私が自宅でも女装していて家事も得意ということを理解した不破先生は、今度は別角度から攻めてきちゃった。


 うーん、もしかして校長先生から、こういうふうに聞いてきなさいって言われていたのかな?


「好恵ちゃんの男の子っぽいところですか? ねえ、そんなところ、あったかしら?」


 お母さんは自分で思い付かなかったのかな。お兄ちゃんたちに聞いているけど、お兄ちゃんたちも考え込んでいるみたい。


「うーん、思い付かないなあ」


 と、壱琉お兄ちゃん。


「下手すると普通の女の子よりも女の子らしいからなあ」


 と、これは真弍お兄ちゃん。


「あえて言うなら、主人公を男女で選択できるゲームでは、好恵はだいたいいつも男主人公を選択する位かな」


 と、これは参彦お兄ちゃん。おおっと、私にそんな癖があったとはっ! 気がつかなかったけど、言われてみればその通りかも。


 ええと、どうフォローすればいいのかな? なんて思って内心あせっていたら、壱琉お兄ちゃんが助け船を出してくれた。


「いや、それってけっこう普通だろ。俺もゲームで主人公の性別を選ぶ時はだいたい女主人公を選ぶぞ」


「あの、私はあんまりゲームとかしないんですけど、壱琉お兄さんがゲームで女主人公を選ぶのはどうしてなんですか?」


 不破先生は、壱琉お兄ちゃんが言ったことに興味を持ったらしい。壱琉お兄ちゃん、がんばれっ!


「ああ、簡単ですよ。最近のゲームは絵がものすごくきれいですからね。ゲームの中とはいえ、男の姿ばかりを見ているよりは、かわいい女の子の姿を見ているほうが楽しいですから」


 自信満々に壱琉お兄ちゃんはそう答えたんだけど、そうか。私は逆に答えればいいのか。


「私も、ゲーム画面にいつも映っている主人公は、かっこいい男の子のほうがいいかなっていう理由ですよ」


 さて、不破先生はどう判断するのかな? うまくごまかされてくれるといいけど。実際のところは、ゲームの中でくらいは男の子でいたいという理由なんだけどね。


「なるほど。そういう理由ですか。言ってみれば、男の子が部屋に女性アイドルのポスターを貼るのと同じように、女の子が男性アイドルのポスターを部屋に貼るのと同じ理屈ですね」


 どうやら不破先生は自分なりに納得してくれたらしい。ふう、やれやれ。


「しかしそうなると、好恵さんに関してまったく男の子っぽいところは無いということでいいんでしょうか……」


 と、不破先生はしばらくそのまま考えこんでいたんだけどなにかに気づいたのか、ハッとした顔になったのよ。


「あの、では最後にちょっと微妙なというか、答えにくいというか、少し恥ずかしい質問をしてもよろしいでしょうか。もちろん答えたくなければ答えなくても大丈夫ですから」


 え、不破先生、いったいどんな質問をしてくるのかな。お母さんやお兄ちゃんたちも、お互いに顔を見合わせたりして戸惑っているみたい。なんだろう。不安だよぉ。


「あの、いわゆる思春期以降の男の子っていうのは、エッチな本とかそういうものを持っていて、その、まあ、そういうことに使うっていうのが世間一般の常識ということになっていますけど、そのあたり、好恵さんの場合はどうなんですか?」


 あらあら、まあまあ、こらこら、おいおい。不破先生ってば、いったい何て質問をしてきちゃうんですか。


 こ、答えづらいというか、私がそういう本を持っていないと証明するのは不可能じゃないですか。そう、悪魔の証明ってやつですよね。これって。


 ほら、お兄ちゃんたちも困った様子じゃない。いったいこの雰囲気どうしてくれるのッ!


「……先生、好恵に年齢が一番近い僕が答えたいと思いますけど、いいですか?」


 お、参彦お兄ちゃんが何か言ってくれるみたい。でもどんなことを言ってくれるんだろう。


「え、はい。どうぞ」


「今時の高校生はエッチな本なんか買う人は少ないですよ。だいたいスマホの画像検索で用は足りますから」


 参彦お兄ちゃんがそう指摘をすると、壱琉お兄ちゃんも真弐お兄ちゃんも苦笑いを浮かべながらうなずいている。


「そういえば息子たちの部屋の掃除は、今は好恵ちゃんがしてますけど、まだ数年前までは私がしていたんですよ。でも、そういった本は一切出てこなかったですね。私が気が付かないところに隠しているなら別ですけど」


 と、参彦お兄ちゃんの言葉をフォローするお母さん。


「じゃあ、好恵ちゃん本人にストレートに聞きます。女の人の写真がいっぱい載ってる本を持ってたりしますか?」


 ストレート過ぎでしょ。不破先生。さすがにスカートやかわいい服を着たくて抗議の為に下着姿で登校したことがある過去を持つ女だけのことはありますね。ふふふ、手強いなあ。ここはまあ、私のかわし技を受けてもらいましょう。


「女の人の写真がいっぱい載っている本なら持っていますよ。お母さんからもらったファッションカタログ通販雑誌なら何冊も」


「いや、私が聞きたいのはそういう本のことじゃなくて……。うーん、分かりました。もういいです。校長先生には、『服多好恵さんは学校だけではなく、自宅でも完全に女の子として生活していました。少なくとも私には好恵さんは心の中も女の子だと思いました』って報告しておきます」


 やったね。これで校長先生も納得してさらに上のほうに私のことをよろしく報告してくれるんじゃないかな。良かった良かった。これで安心だね。



ぐーーきゅるるるる



 と、安心したらお腹が鳴っちゃった。


「あはは、そういえばまだお昼ご飯を食べてなかったんだっけ。あはははは」


 私は笑って恥ずかしさをごまかした。だってしょうがないじゃない。本来ならもっと早い時間に家まで帰ってきてるはずなのに、校長先生と面談したり、不破先生に家庭訪問されて時間かかっちゃうし、お腹が空くのはあたりまえだよぉ。もう、恥ずかしい。


くーーきゅるる


 そしたら今度は不破先生のお腹も鳴り出した。……なんだか不破先生のお腹の鳴り具合のほうが、かわいらしい音で悔しいかも。なに、この対抗心ッ!


「お恥ずかしいです」


 不破先生、顔を赤らめているけど、うん、顔も態度もかわいらしいね。悔しいけど。


「そういえば俺も腹が減ったな」


 こう言うのは壱琉お兄ちゃん。壱琉お兄ちゃんは細身だけど何気に鍛えているから筋肉質だし、基礎代謝も高いから、見た目よりもけっこう大食いなんだよね。


「あんたたちは、昼はちゃんと食べたでしょ」


 お母さんはそう言ってたしなめるけど……。


「いや、あれだけじゃ足りないって」


 と、続くのは真弐お兄ちゃん。スポーツマンで体も大きくて、実は兄弟の中で一番身長も高い。私なんて真弐お兄ちゃんの胸の高さまでしかないのに。そして一番よく食べるのよ。


「僕も、もう少し欲しいかな。昼ご飯だけじゃちょっともの足りない」


 最後に参彦お兄ちゃん。参彦お兄ちゃんは特にスポーツが好きというわけじゃなくて、読書が趣味というインナータイプなんだけど、普通に普通の男子高校生だから育ちざかりなわけ。だから壱琉お兄ちゃんと真弐お兄ちゃんに比べたら小食だけど、私と比較したら私の3倍くらいは食べちゃうもん。


 ていうか本当は男の子の私が小食すぎるんだけどね。小学生の頃から女装の為に体格が大きくならないように食事の量を控えてきた私は、男子としてはかなり小柄で食事量も少ないのですよ。同年齢の女子と比較したも、良くて平均。下手すりゃ平均以下?


 もう胃袋自体が小さくなっているみたいで、今更食事量を増やすのはちょっと無理かな。


「もう、あなたたちったら、お客様の目の前で」


 お母さんは怒るけど、その怒りは再度鳴った不破先生の『くーきゅるる』という音に遮られてしまった。


 しかたがない。ここはこの好恵ちゃんがひと肌脱いじゃいますか。


「不破先生、良かったらこれから簡単な食事を作りますから、食べていきませんか」


「そんな、悪いわよ。それに理由なく生徒さんのお宅から何かもらうのは教師としてまずいのよ」


「いえいえ、これも私の女子力の検証ということですよ。私が料理を作るのを見て、味わっていくのも面談の範囲内じゃないですか? それに簡単に作れる料理ですからお待たせする程じゃないですし」


 ふふふ、こう言えば、断ることはできないでしょうね。まあ、今までの面談だけでも私の精神は女の子だと判断してもらえるだろうけど、もう一押ししておくのも悪くないよね。


「そお、じゃあ悪いけど、そうさせてもらおうかしら」


 ふ、落ちたな。


「好恵、俺たちにも作ってくれよ」


「もちろん作ってくれるよな」


「僕も、いいかな」


「もう、あんたたちったら」


「大丈夫、お兄ちゃんたちの分もちゃんと作るから。で、お母さんはどうするの?」


 不破先生とお兄ちゃんたちの分は確実に作るとして、お母さんにも念のために聞いてみた。


「……私もお願いするわ。みんなが食べてるのに、私だけ食べないのも、何か寂しいし」


 うわ、お母さん、そういうところなんだかかわいい。






「好恵ちゃんの、3分クッキングーー。わー、パチパチパチ」


 私は、不破先生と一緒に台所にやってくると、とりあえず場を盛り上げた。やっぱり女子高生と言えばハイテンションがデフォよね。勝手なイメージだけど。


「じゃ、先生はそこの椅子に座って見ていてくださいね。本当にすぐに出来ますから」


 そう言うと、私は先生に説明しながら料理を作るのでした。


 あ、ちなみにお母さんは居間で待機中ね。いつもは一緒に料理するんだけど、今日だけは私の女子力の検証というか面談の範囲内だから私だけが料理するほうがいいってことで、お母さんにはちょっと遠慮してもらったの。


「では本日作るのは、『焼肉ライスバーガー』です。まずは材料を取り出します」


「使うのは玉ねぎとパプリカにサラダ、そして牛肉、事前にラップで包んでから薄い円形に整えた御飯を冷凍したもの。それから焼肉のタレと片栗粉、最後に焼きのりです」


 冷蔵庫や棚から取り出した食材や調味料をテーブルの上に並べていく。そして平皿も。


 食材の準備の際に、レタスは一枚ずつはがして適当な大きさに整え、焼きのりは半分サイズに切っておく。そして片栗粉も水ですぐに溶けるように用意しておく。手際よくね。


「まずは玉ねぎとパプリカを薄切りにします」


「フライパンに油をひき熱したら、牛肉を炒め、焼肉のタレで味を付けます」


「そしてここに先ほど薄切りにした玉ねぎとパプリカを加えてさっと炒めます」


「次に水溶き片栗粉を加えてとろみをつけたらライスバーガーの具材のできあがりです」


「そしてフッ素加工がちゃんと効いているもう一枚のフライパンを出して熱します」


「形を薄い円形に整えて凍らせてあった御飯を凍ったままで両面を焼きます」


「なお、この御飯には事前に好みのふりかけが混ぜてありますから、御飯だけでも味があります」


「焼きあがったら、先ほど炒めた具材とサラダを挟んで、焼きのりで巻きます」


「はい、出来上がり♪ どうぞ召し上がれ」


 不破先生に差し出した平皿の上には、レタスとパプリカの色も鮮やかな出来立てのライスバーガーが載っている。それを見た不破先生は目を丸くしていた。ふふふ、どう? おそれいったかな? 私の女子力に。


「好恵ちゃん。本当に料理ができるのね」


「えー-、私が料理をできるのって嘘だと思ってたんですか? 好恵、かなしい」


 などと、泣きまねをする。実際には涙は流れていないけど、まあ、雰囲気だけね。


「いえ、噓だなんて思ってなかったわよ。でもなんていうか、見た目を気にしない男の料理ってやつをイメージしてたから……」


「もう、まだ不破先生は私のことを男の料理を作るような男の子と見ていたんですか?」


「違うのよ。実は私ってその、あんまり料理って得意じゃなくて、もしかして好恵ちゃんも私と同レベルぐらいかな~~って思っていたから」


 わたわたと言い訳をする不破先生。なるほど、そうなのか。不破先生の料理レベルは見た目を気にしない男の料理レベルなのね。ふふふ、弱みにできる事実をひとつゲットさせてもらいました。


「怒ってませんから、どうぞ冷めないうちに食べてください。私はお兄ちゃんたちやお母さんの分に、自分の分も作っていきますから」


「そう? じゃあ、いただきます」






 さて、『おいしかった』という評価をいただいた私の料理を食べた不破先生は、そのまま学校へと帰って行ったわけ。おそらく校長先生に、『服多好恵さんは、自宅でも女装しているだけではなく、その中身も女子そのものでした。家事も得意で女子力もすごかったです』などと報告してくれるんじゃないかな。


 でもね、不破先生はちょっと見落としたことがあるんだけど、気づいているかなあ。


 ファッションカタログ通販雑誌って、けっこう下着姿の女性の写真が載ってるのよね。季節によっては水着姿の女性の写真も。


 え、だからどうだって? それはね、ひ・み・つ♪

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

最後の好恵ちゃんの独白。意味深ですね。深すぎて私には意味が分かりません。(嘘)


ご感想、誤字脱字のご報告、いつもありがとうございます。


それでは次回は学校が舞台に戻りますよ。ええ、予定ですけどね。それでは、またよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] フッ素処理されたフライパンは丁寧に使っても数年経てば正面処理された膜がおちちゃいますからね。やっぱり買い換えの必要がない鉄鍋がナンバーワン!(丁寧に使えば寿命は数十年なので)
[一言] 最後の独白…私は「深読み」させていただきましたよ…。ふふ。
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