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第7話 服多家訪問 その2

今のペースでの投稿はそろそろ限界かもしれない。でも、もう少しだけ頑張る。

「とにかく着替えますね」


 そう言うと私は、まだ着ていた上半身の制服、ブレザーと白いブラウスを脱ぎ、そして洋服ダンスから出した黄色いブラウスと、薄茶色の毛糸のベスト、そして濃いオレンジと暗褐色に近い赤のチェック模様のパニエ付きのロングスカートを身に着けたのよ。素早くパパパっとね。


「……さすが、着慣れているわね」


 不破先生が感心しているけど、さすがに女装生活8年めともなると、女の子の服を着るのはごく普通のことでしかないので、褒められることじゃないのよね。


「さて、不破先生、洋服ダンスの中を見てください。女物しかないでしょ」


 私の言葉を受けて、タンスの引き出しを開け閉めしつつ中身を確かめていくと、最後に先生はため息をついた。


「本当に全く男物の服がないのね。下着くらいは男物かと思っていたけど、それも女物だったし」


「そうですよ。まああえて言えば、この部屋の中にもひとつだけ男物というか、ふつうは男性が使うものも無くはないんですけど、なんだか分かります?」


 そこで私はヒントとして化粧品が並んで置いてある鏡台をチラリと見てあげた。もちろん不破先生はそれに気が付いたわよ。鏡台の引き出しを開けて中をあらためだしたから、すぐに見つけられるかな。


「……女性用のムダ毛処理シェーバーに混ざって置いてあるこの黒いシェーバーが、男物なのかしら?」


「ええ、そうですよ。女性用のシェーバーも腋毛とか陰部用はともかく、顔用は産毛対応のものですから、剛毛には男性用のシェーバーも置いてあるんです。まあ、まだ髭は生えてないので、置いてあるだけで使ってはいないんですけどね」


「へえ、そうなの。やっぱり好恵ちゃんって体毛全般が薄いのかしらね」


「数年後に突然に剛毛だらけになったら嫌ですけどね」


 私はそう言っておどけてみたけど、お兄ちゃんたちのすね毛の剛毛具合を見ていたら、あながちその冗談も本当になりそうでちょっと嫌かもしれない。数年後に女装をやめたとしても、できたならこのすべすべのお肌を維持したいなあ。


「ははは、好恵ちゃんが剛毛だらけになるなんて、今の姿を見ていたら想像できないわね。それはそうとここにある化粧品って全部使っているのよね?」


「ええそうですよ。今でも限界まで薄いナチュラルメイクで、女装メイクをしていますよ。完全なスッピンだと、さすがに少しは男の子っぽさが出てきてますからね」


 と、対外的には精神は女の子ということで通している私は、ちょっと残念そうというか悲しそうな表情を作って見せる。我ながら女優やなあ。なんちゃってね。


「なるほどね。さすがにそこはメイクしないといけないのね」


「ええ、まあ、さすがに体だけは男の子ですから。ところで不破先生。私の今の感じのメイクって八池山高校の校則的にはセーフですか? アウトですか?」


 いい機会だから、ちょっと気になることを聞いてみた。私としてはスッピンで女装するのは出来たら避けたいんだけどなあ。


 すると不破先生は私の顔を左右から正面から見て確認すると、少し考えてからこう言ったわけ。


「うちの校則としては華美な化粧は控えるようにっていうことになってるけど、好恵ちゃんくらいのメイクならたぶん大丈夫だと思うわよ」


「わあ、良かったです。『明日からスッピンで来なさい』って言われたらどうしようかと思ってました」


「そういうところも女の子なのね」


 と、不破先生は納得していたけど、私としては似合わない女装はしたくないだけなのよ。女装するなら似合うように女装したいっていうこと。似合っている限りは女装を認めるっていうお父さんの言葉もあるしね。


 でもちょっと不安なのは、私のメイク技術とか女装的な着こなし術とかが最近どんどんと上達しているので、もしかして成人しても、下手すると20代後半とか30代前半とかになっても女装が似合っていたらどうしようってことなの。ていうか似合いそうで怖い。


 となると、女装をやめるきっかけとして、なんとしても高校生のうちに女の子の恋人を見つけないと、なんだかまずいことになっちゃいそうかも。


「ふふっ、ありがとうございます。じゃあ、そろそろ下に降りて家族の皆と面談しちゃいますか? それともまだ何か見て確認したいことがありますか?」


「そうねえ、好恵ちゃんが家でも女装しているのは分かったから、あとはどんな具合に過ごしているのか、女の子としての生活をしているのかが分かれば、校長先生も確実に納得してくれるかな。でも、今までの様子を見てみた感じ、ふつうの平均的な女子よりも女子らしいかもしれないわね。……もっこり以外は」


「もう、先生ッ! それは言わないで。そもそもガン見したのは不破先生ですよ」


 ちょっと、顔が火照ってくるでしょ。もう、恥ずかしい。


「だって、好恵ちゃんが見せてくるし」


「あれは不破先生が、『ショーツだとはみ出しちゃったりしない?』なんて聞いてくるからですよ」


 などと最後はグダグダになりながら、不破先生による私の部屋の視察というか確認は終了したのでした。もう、絶対に今度は不破先生に招待してもらって先生の部屋の中から恥ずかしいところを見つけてやるんだからね。もう、リベンジ、リベンジッ!






「はじめまして。好恵さんのクラスの担任をさせてもらっています。不破衣寿々(ふわ いすず)と申します。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、はじめまして。好恵の母の三千子(みちこ)です。こちらは息子たちです。ほら、ご挨拶して」


「長男の壱琉(いちる)です。大学4年生です」


「次男の真弐(しんじ)です。大学1年です」


「三男の参彦(みつひこ)です。好恵がお世話になります。高校3年生です」


 というわけで一階の居間でソファや椅子に座ってぐるりと向かい合うような形で、まずは挨拶から面談が始まったのでした。うーん、私もあらためて挨拶したほうがいいのかしらね。


「四男ですけど長女してます好恵です。高校1年生です」


 そしてペコリと頭を下げる。


「好恵ちゃん。そういえばあなた四男だったわね」


 と、お母さん。


「あはは、こういう時に言っておかないと、私も自分が四男だって忘れちゃいそう」


 などと冗談で返す。……ほんと、冗談だよ。本気で忘れそうになってるわけないじゃないの。えっ、どうしたの。お母さんだけじゃなくて、お兄ちゃんたちも何で、うんうんと納得した顔でうなずいているの?


「ええと、本当にこうして話していると好恵さんは女の子にしか思えないですよね」


 そう話す不破先生の笑顔がどこか苦笑いに見えるのは、きっとさっき見た私の股間のもっこりを思い出しているからかな? もう、不破先生ったら! もうッ!!


「それで本日、伺いたい話の内容なのですが、普段の好恵さんは家でも女の子として過ごされているとのことですが、具体的にはどんなふうに女の子しているのでしょうか? ご家族の目から見たところを教えていただきたいのですが」


 するとお母さんや、お兄ちゃんたちは、お互いに顔を見合わせた後、まずはお母さんが口を開いたの。はてさて、お母さんは私のことをどう言うのかな。私としてもちょっと興味津々(きょうみしんしん)


「好恵ちゃんは服装や髪形といった外見も女の子していますが、その中身や行動も女の子ですよ。女の子の服が着たいと告白を受けたのは好恵が小学3年生の時でしたけど、それからは女の子らしいおもちゃを喜んでましたし、見てるアニメとかも魔法少女ものとかプ〇キュアとか、アイドルものといった女の子向けのものばかりでした」


 いや、それはお母さんやお父さんが買ってきた女の子向けのおもちゃで遊んでいたら後からはまっただけだし、女の子向けのアニメを見ていたのは、クラスの女の子たちと話を合わせるために見始めたというのが正しいし。……まあ、その後でしっかりとはまっちゃったけど。


「その他、いつも一緒に料理してくれるし、時には好恵ちゃんひとりだけで家族分の食事を全部作ってくれたりしてます。それに自分の部屋をきちんと綺麗に掃除して片づけるのはもちろんですが、家の中のほかの部屋までも掃除してくれたりするんですよ。あ、そうそう、洗濯も手伝ったりしてくれますね」


 いや、それはお兄ちゃんたちが、なんちゃって妹の私に色々とプレゼントを買ってきてくれることや、子供部屋を私専用にひとつ分けてくれたということに対して、申し訳ないというか感謝というか、そういった気持ちを形にしてということで料理を作ったり、お兄ちゃんたちの部屋も含めて掃除をしたりしてるだけなんだけどなあ。洗濯を手伝うのもその延長だしね。


「俺の部屋というか、男組は3人でひとつの部屋を使っているんですけど、3人とも片付けが苦手で、もしも好恵が掃除や片付けをしてくれていなかったら、それこそ汚部屋になってしまいますね」


 まずは壱琉お兄ちゃんがお母さんの言葉の裏付けをしてくれた。ありがとう。壱琉お兄ちゃん。それに真弐お兄ちゃんも参彦お兄ちゃんも、私だけひとりで個室を使っててごめんね。


「料理と言えば好恵の料理の腕はすごいですよ。今まで作ったことがない料理でも、料理本を見ながらちゃんとそれなりのものを作ってくれるし、それも男の料理のような単に腹に入ればいいというような料理じゃなくて、見た目もきれいに盛り付けられた料理なんですよ」


 これは真弐お兄ちゃんだ。真弐お兄ちゃんはお兄ちゃんたちの中でもスポーツマンだからか一番よく食べる。ていうか、今も続けて私の料理がいかに美味しいかということを強調して話しているけど、もしかしてお腹がすいているのかな?


「ああ、それから洗濯ものをきちんと仕分けしてたたんでくれるのもいいですね。うちは家族が多いから洗濯も毎日していても追いつかないほど洗濯物が出るので、干すのも大変だろうけど、たたんで仕分けしてしまってくれるのもありがたいですね」


 うんうん、参彦お兄ちゃんは分かってるね。洗濯ものをたたむのって意外と時間がかかるんだよね。ちゃんとたたまないとしわになるし。


「そうよねえ。今時の男の子は結婚前までには一通りのことができるように家事のスキルを高めたほうが良いとは思うんですけど、うちの息子たちはすっかりそういった家事を好恵ちゃんにまかせっきりなんですよね。ほんとにもう、やっぱり女の子じゃないとこういうことはダメですよねえ」


 などと不破先生に愚痴をこぼすお母さん。えーと、私って完全にお母さんの中では女の子枠なのね。


「なるほど。すごいですね。それだけ家事ができるなんて、最近の女の子たちの中ではそうは居ませんよ。まったく、私も好恵ちゃんを嫁に欲しいくらいですよ」


 はははと笑う不破先生。うーん、なんだか冗談に聞こえないような口調だったけど、もしかしてマジ?


「いえいえ、さすがに一回りほども歳が離れた先生には、うちの好恵は嫁にやれませんよ。それにそもそも好恵は体はともかく、心は女の子ですから」


 こらこら壱琉お兄ちゃん。ちょっと失礼なこと言ってる自覚ある? 女の人に歳の話題は最大級の禁句だよ。


「ええと、さすがに一回りも歳は違いませんよ。せいぜい10歳くらいです」


 やっぱりちょっとむっとした表情の不破先生。こ、これはまずい。フォローしなくちゃ。


「不破先生、うちのお兄ちゃんが変なこと言ってすみません。ほら、壱琉お兄ちゃんもあやまって。じゃないと今日の壱琉お兄ちゃんの夕飯は抜きだからね」


 私は必殺技を発動した。お兄ちゃんに最大限のダメージ。お兄ちゃんはあやまった。まる。


「え、好恵、それだけは勘弁してくれ。ああ、ええと、不破先生。ごめんなさい。失礼なことを言ってしまいました。許してください」


「そうだぞ壱琉兄、失礼だぞ」


「壱琉兄さん、もっと誠意をもってあやまらないと」


 ふふふ、真弐お兄ちゃんも参彦お兄ちゃんも、とばっちりが来るのを恐れて壱琉お兄ちゃんを非難している。そうです。家庭内の真の権力者は実は私だったりして。ま、私の上司はお母さんだから、私って副幹部? それとも中間管理職ポジション?


「申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」


 というわけで壱琉お兄ちゃんはソファに座ったままだったけど、頭を下げて不破先生に対してあやまった。うんうん、それくらいしてくれたら不破先生も許してくれるかな?


「いいですよ。そこまであやまっていただかなくても。ですからもう頭を上げてください」


「ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした」


 そう言いつつ頭を上げた壱琉お兄ちゃんに対して、私は右手の親指だけを立ててグッドサインを作ると、壱琉お兄ちゃんに向けて笑顔で差し出した。


 するとホッとした顔になる壱琉お兄ちゃん。横にいる真弐お兄ちゃんも、参彦お兄ちゃんも安堵の表情を浮かべている。ふふふ、それで良いのだよ。お兄ちゃんたち。これからは女の人に歳の話はしちゃダメだからね。


「いえいえ、それにしても好恵ちゃんって、お兄さんたちの胃袋を完全につかんでいるんですね。それだけ料理の腕がすごいということですか。お母さんのご指導の賜物(たまもの)ですね」


「それがね、先生。好恵ちゃんは私が教えたことばかりじゃなくて自分でも色々と調べて、私が教えたことも作ったこともない料理を作ったりしているんですよ。しかも美味しいんです」


 いや、ちゃんとレシピを見て、レシピ通りに作ればだいたい美味しくできるから。お母さんは料理に自信がありすぎて、調味料を目分量で使ったりするから味にばらつきが出来ちゃうんだよ。と、思ってはいても口にはしない私なのでした。


 というわけでまだまだ面談は続く。というか続いちゃいます。

胃袋つかまれたら男は弱いよね。


特に最近は外で食事をするのが困難だから、ますます料理の腕が評価される時代になってるんじゃないかな。

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[一言] 朕も女装男子に胃袋を掴まれたいのである。
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