第6話 服多家訪問 その1
副題を見てお気づきでしょうか。今回だけでは家庭訪問編が終わらないことが確定しました。もう開き直って『その1』とつけちゃいましたよ。
昔、リニューアル以前の最初に書いた『妖精的日常生活』も亀進行でしたけど、この小説も完全に亀進行の罠にはまってしまいました。何とかこの亀時空から早く抜け出さないといけませんね。
一人称で書くと、亀進行になりやすいのかなあ。疑問です。
「ただいまーーっ! お母さーーん、お客様だよーーっ!! 高校の家庭訪問だってーーっ!!」
私は、いつも以上の元気一杯の声で『ただいま』の挨拶をして、ついでにお客さん、つまりは高校の担任教師の不破衣寿々先生が家庭訪問に来たことを知らせたのでした。
この家庭訪問は、普段の私が家でも女装して過ごしているのかどうかを確認する為の抜き打ちの家庭訪問ということになっているので、事前にスマホで連絡することはできなかったのよ。
というわけで帰宅直後にしか家庭訪問のことを言えなかったわけ。決して私が連絡を忘れたんじゃないのよ。ほんとうだからね。
「おかえりなさい。好恵ちゃん。家庭訪問ってどういうこと?」
奥から玄関まで出てきたお母さんが聞いてくる。そりゃ疑問よね。高校生にもなって家庭訪問だなんて。普通はそんなことしないもの。
「いや、実はね、今、家の外で先生が待っているんだけど……」
ということで、私はお母さんに事情を説明したの。まあ本当は男の子の私が公私ともに女装生活をしているのが元々の原因だから、お母さんもすぐに納得してくれたんじゃないかな。
「なるほどねえ。じゃあ普段の好恵ちゃんの生活が分かるところをお見せしたらいいのね」
「そうそう。楽勝でしょ?」
普段からガチで年中無休24時間営業で女装生活をしている私にとって、見られて困るようなものは何もない。
……うーん、あえて言えば、夜は胸を盛る為用のブラジャーは外して寝ているわね。それにメイクも落としているから、完全な女装ではないかな。
でも、寝る直前には落としちゃうけど、入浴後にもちゃんとうっすらとだけどナチュラルな女装メイクもしているし、パジャマはもちろん女物を着ているからセーフということで大目に見てほしいな。
「そうね。私なんか時々、『あれ? 私が産んだ四人目の子供って女の子だったかしら?』って思っちゃうぐらい好恵ちゃんは女の子してるものね」
「あははは、ありがとう。じゃあ、私、表で待っている先生を呼んでくるから。あ、駐車場に先生の車を停めてもいいよね?」
「もちろん大丈夫よ。お父さんが帰ってくるのは夜になってからだから、問題ないわ」
「はじめまして。今度、好恵さんのクラスの担任を務めさせていただくことになりました不破衣寿々と申します。よろしくお願いいたします」
「あらあらこれはご丁寧にまあ。こちらこそよろしくお願いいたします。なにせうちの娘はちょと事情が事情ですから」
おほほほほ、と笑いながら不破先生と玄関先で挨拶をするお母さん。
「はい、存じ上げています。でもほんとうに好恵さんはどこからどう見ても普通の女の子にしか見えなくてびっくりします」
「まあ、ありがとうございます。それで何ですか。普段の好恵の生活の様子を見てみたいということでしたかしら?」
「ええ、好恵さんの普段の暮らしぶりを見学させてもらったり、できたらご家族の皆様からも色々とお話をうかがえたらと思っているんですが、よろしかったでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。さあさあ、どうぞ上がってください」
不破先生は遠慮がちに聞いていたけど、お母さんは特に問題なしということで快諾していた。まあ、私も見てもらいたいし、いいんじゃないかな。部屋だってきちんと整理整頓しているし、見られて困るようなものはどこにもないし。
「じゃあ、先生、どうしますか。まずは、お母さんとお話しますか。 それとも私の部屋に行ってみます?」
家庭訪問と言っても通常の家庭訪問とは違うので、正直言って訪問するほうも訪問されるほうも、何をどうするのが正解なのかまったく分からない。どうしたものかしらね。
「あの、好恵さんのお母さん。今、家にいらっしゃるのは、お母さんだけですか。好恵さんからは、3人のお兄さん方もいらっしゃるとお聞きしたんですけど」
「ええ、3人の息子たちもいますよ。呼んできましょうか?」
本当は息子は3人じゃなくて4人なんだけど、少なくとも対外的には、お母さんの中では4人目の息子の存在は娘として情報が上書きされているのよね。まあ、そうさせたのは私なんですけど。
「あ、お願いします。でもまずは好恵さんの部屋を見学させてください。その間に今、家にいらっしゃる方全員を集めて一度に面談できる場所を用意していただければと思うのですが、可能でしょうか?」
「ええ、わかりました。では子供たちの部屋は二階にありますので、一緒に上がりましょう。息子たちは一階の居間のほうに集めておきますから、先生はあとで好恵と一緒にいらしてください」
そう言うとお母さんは、お兄ちゃんたちと私の部屋がある二階へと不破先生を案内して行く。
もちろん私もその後をついて階段を上がって行くんだけど、どうしよう。ちょっと気になることがあるんだけどなあ。
というのも、もうお昼を過ぎているんだけど、お兄ちゃんたち昼御飯はちゃんと食べたのかな? お腹を空かせていないといいんだけど。私と違って食べる量が違うし。
「へえ、ここが好恵ちゃんのお部屋なのね。確かにカーテンもピンク色で、ベッドや布団のシーツやカバーも女の子っぽい色や柄ね。ぬいぐるみも置いてあるし。あら、鏡台もあるけど、化粧品もそろっているわね。……でも、まあ、普通の男の子でもピンク色やぬいぐるみを好んでいる人もいるし、最近は男の子でも化粧をする子もいるっていうし、これだけでは校長先生に報告する証拠としては弱いのかな」
などと感想を言っている不破先生。そうかあ、不破先生自身はここに来るまでの車中での会話から、私のことを肉体上は男の子だけど精神的には女の子だと判断してるみたいだけど、校長先生を納得させるような証拠が必要なのね。なるほど、なるほど。
「不破先生、とりあえず、私、制服を脱いで普段着に着替えたいんですけどいいですか?」
まあ、まずは普段着も女の子の服を着ているところからお見せしましょう。
「え、じゃあ私は外に出てたほうがいいのかしら?」
「別に裸になるわけじゃないし、脱いでも下着はつけてるんだから見ていてもらっても大丈夫ですよ」
「あら、そう。……じゃないっ! 下着って、好恵ちゃん、いったいどんな下着をつけているの」
「どんなって、もちろん女性ものの下着ですけど」
先生はいったい何を気にしているんだろう。
「うーん、じゃあ、上半身と下半身に分けて、まずは上半身から、どんな下着を身に着けているか説明してちょうだい」
「いいですよ。上半身はブラとキャミソールです。ブラは胸を盛るためのもので、パットを2枚重ねて、さらに適当な大きさのビーズクッションを中に入れてます」
「なるほど。まあ、予想の範囲内というか、納得できるわね。で、下半身はどうなってるの?」
「下半身はもちろんまずはショーツですよね。それから……」
「ストップッ!! 好恵ちゃん。あなたショーツ穿いてるの!?」
「ええ、まあ、下着も含めてすべて女性ものの服を着ていますから、ショーツを穿いてるのは当たり前だと思いますけど、何か問題でもありましたか」
不破先生は本当に何を気にしているのかな。はっ! もしかして……。
「あのね、好恵ちゃん。気を悪くしないで聞いてね。ショーツだとはみ出しちゃったりしない? あの、つまりポロリとか?」
恥ずかしそうに『ポロリ』なんて言う不破先生。なに、やだ。先生は確かもう二十代後半だって聞いていたのに、しかも一緒に度々旅行にいくような彼氏さんが居るっていうのに、なんでこんなに初心っぽいの? ほんと、不破先生ってかわいすぎるんじゃないかな。
「もう、不破先生、話は最後まで聞いてください。私は確かにショーツは穿いていますけど、ショーツの上にはさらにオーバーパンツ、つまり見せパンも穿いているんですよ」
「あ、そうなの?」
「確かにショーツだけなら、その、正直言ってはみ出します」
「そりゃそうよね。どう考えてもはみ出すわよね」
「ええ、だから、はみ出しを隠すために、ガールズオーバーパンツを穿いてます。ほら、こんなふうに」
と言って、私は制服のスカートのホックを外すとスカートを脱いだわけ。ゆっくり脱いでたら、また不破先生から何か言われるかもしれないから、もうそれはスパッと素早く脱いでやったわよ。
すると下に出てきたのはミニスカートサイズのボリュームアップパニエね。男の子体形の骨盤やお尻が小さな私だから、スカートの下にこういったパニエを着ることでスカートをふっくらとさせて、骨盤やお尻を大きく見せることができるのよね。
そのボリュームアップパニエも脱ぐと、出てきたのはガールズオーバーパンツってわけ。見せパンともいうわね。イメージとしてはちょっとおしゃれな色合いの太ももの付け根よりもやや下までしか丈のないスパッツのようなものって言えばイメージできるかしら?
「なるほど。それなら確かにはみ出さないし、ポ、ポロリもあり得ないわね」
「でしょ?」
私は、ふふんと、ちょっと勝ち誇ったような表情を作ったのだけど、なんだか異様な雰囲気を感じて不破先生のほうを見てみたら、私の股間がガン見されていたの。えっ、どういう状況?
「……やっぱり」
そうつぶやいたきり、不破先生は黙ってしまった。なのにガン見は終わらない。本当になんなのこれ?
「やっぱり、何ですか。何か気になることでもありました?」
「あ、いや、やっぱり本当に好恵ちゃんって体のほうは男の子なんだなって思っただけ。ええと、その、もっこりしてるし」
不破先生は、ちょっと顔を赤らめた。
「もう、必要以上に見ないでください。どうせ男の子の私のここはもっこりしてますよー-だ」
と、私は本当は特に何も思っていないんだけど、恥ずかしがったり怒ったりするふりをするのでした。ま、こういった態度のほうが、心は女性っていう設定っぽいし。
「ごめんなさい。好恵ちゃん。好恵ちゃんのことを男の子だなんて言って。あやまるから許して」
「じゃあ、今度、いつでもいいですから不破先生の家に招待してください。なんだか私だけが自分の部屋を見られるのは不公平な気がしてきましたから」
ぷくっとほっぺたをふくらませつつ、そう言い切ると、私は不破先生の反応を待ってみた。
「いや、さすがに女性教師が男子生徒を家に招くのは問題というか、事案というか。はっきり言ってまずいんじゃないのかしら」
「私、男子生徒ですけど、女の子ですよ」
言い切ってやりました。ふふふ、先生、悩んでる。私のことを『男の子だ』と言うのは簡単だけど、そうすると今度は私がどういう反応をするのかわからないから、言うに言えないんだろうなあ。
「うう、分かったわ。とりあえずまだ一学期も始まったばかりだから、お互いに学校のほうが落ち着いたら、うちに招待します。と言っても私、マンションに一人暮らしなんだけど、それで良いのなら。ね」
なんだか不破先生に苦渋の決断をさせたっぽいかも。
「わあ、ありがとうございます。ほんと、絶対に招待してくださいね」
「ふう、もう、好恵ちゃんにはまいっちゃうわね。……それにしても好恵ちゃん、足にすね毛というかムダ毛がいっさいないんだけど、もしかして永久脱毛でもしているの?」
「うーん、永久脱毛なんてしていませんよ。まあムダ毛処理は欠かさずしてますけど、そもそも私って、もともとすね毛っていうほどのムダ毛は生えてこないんですよ。お兄ちゃんたちはかなりすね毛が濃いんですけどね」
私は右足の膝を曲げつつ足を上げて、不破先生にムダ毛の無いつるつるした足を見せつけたわけね。
「きれいな足ねえ。どうしてこんなにつるつるしているの? 本当はその、あの、お、男の子の体なのに、何か思い当たる理由はあるのかしら?」
ふふふ、私のことを『男の子』と言ったことは、『きれいな足』と言ってくれたことで帳消しにしてあげることにしましょう。
「思い当たることって言えば、無くもないんですけど、女の子の服を着始めた小学3年生の頃から、毎日朝晩とマグカップ一杯の豆乳を飲んでいるからかもしれないですね」
「ああ、豆乳には女性ホルモンと成分がよく似たイソフラボンが入ってるっていうから、そのせいなのかしら」
実はお母さんは、私が女の子になりたがっていると理解というか誤解しているので、私の告白のけっこう直後から、私に豆乳を飲むように勧めてきてたのよね。私も最初はどうしてなのかわからなかったけど、その後いろいろと調べて、理由を理解したわけ。そして豆乳による女性化の限界もね。
ネットで調べてみると、確かに豆乳のイソフラボンは大量に飲むと男性の体を女性化させる。具体的には胸がふくらんでくることもあるみたいなんだけど、それは一日に1リットル以上も飲んでる場合なのよね。だから私は一日に合計して400ml、朝に200ml、寝る前に200mlまでを限界として豆乳を飲んでるのよ。
これなら胸が膨らむこともない。と、思う。そしてムダ毛が生えにくくなっているような効果がある気がするの。
と、ここまで会話していると、部屋の外からお母さんの声が聞こえてきたの。
「先生、息子たちはもう居間のほうに移って、面談の準備もできましたから、もういつでもいらっしゃっていいですよ」
「あ、お母さん、まだ待ってて。今ちょうど、先生に色々と見てもらっているところだから」
しかし今、不破先生に見てもらっているのは、上半身は高校の制服で、下半身は下着だけを身に着けている、まぬけな姿の私なのでした。
ううう、早く着替えなくっちゃ。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。本当に全然ストーリーが進行しませんね。実はラストだけはこうしようというアイディアはあるのですが、そこまでに至る道筋、ルートが全く見えてきません。書いてる私も、この先がどうなるかが楽しみというだけで書いてるようなものです。
それはそうと、誤字報告をしてくださってる方、もしくは方々、いつもありがとうございます。とても助かります。ありがとうざいました。