第3話 高校入学のお祝い
高校の担任教師の名前とか同級生の名前とかの設定はまだできてないけど、家庭内の話なら書けるやん♪ と、気が付いたから書いてしまいました。逆に言うならこの次の話は本当にちょっと待っててくださいね。
「好恵ちゃん、入学式の後、先生から服装のことで何か言われなかったの?」
八池山高校の入学式が終わった後、私は両親と一緒に車に乗り込んだんだけど、すぐにお母さんが私に質問してきたわけ。まあ心配なんだろうね。
「ううん、何も無かったわよ。私のことは、きっとこれから先生たちで話し合って決めるんじゃないかな」
家族の前でもかわいらしくという無意識の意識が働き、私は右手の人差し指を右のほっぺたにあてつつ首をかしげながらそう言った。きっとこのしぐさは女の子っぽくてかわいいんじゃないかな。いやいや、きっとかわいいはず。
「どんな結果になるんだろうなあ。好恵が女子の恰好をして学校に通うのを認めるのか、それとも女装はまかりならんっていうことで男子の制服を強要するのか」
車を運転しながらお父さんも会話に加わってきた。
「どっちでもかまわないわよ。学校が私のことを認めてくれたら今まで通り女子の制服で学校に通うだけだし、認めてくれなかったとしても、やっぱり私に一番似合う私らしい恰好の服ということで女子の制服で通うだけだから」
と、私は強気の発言をしたわけだけど、おそらく学校側は私のことを認めるんじゃないのかな。今の時代、セクシャルマイノリティの人権って結構保護されているし。
まあ、私はセクシャルマイノリティでも何でもなく、たんなる女装野郎なんですけどね。はああ、なんだか心の中でため息をつきたくなっちゃう。
「さすが好恵ちゃん。しっかりしてるわね。よおし、今晩は好恵ちゃんの入学祝いということで御馳走にしちゃいましょうね」
「わあ、ありがとう。お母さん。何にするの? 私、手まり寿司がいいなあ。あ、でも手まり寿司だけだと、お兄ちゃんたちには物足りないかな。よく食べるものね。お兄ちゃんたちって」
私は胸の前でポンッと小さく手を合わせるようにして叩き、満面の笑顔でそう言った。
前にも言ったけど、私は自分の体が男性として大きく成長しないように腹八分目よりもさらに少ない腹七分目程度しか食べないようにしている。だから今の小柄な体格となっているんだけど、小食を維持してきたからか、実際のところ胃袋まで小さくなっているようなのよね。
つまりは食べようとしてもあまり多くの量は食べられない体になっちゃったというわけ。ほんとに小食な女子みたいな食欲っていうのかな? だから私は量よりも目で見て楽しめる料理のほうが好きになってるの。見た目が華やかな手まり寿司は、私の大好きな料理のひとつなのよね。
「そうねえ。じゃあ、お兄ちゃんたちも満足するように天ぷらとか唐揚げとかも用意しようかしら。好恵ちゃんはどう思う?」
「天ぷらが良いんじゃないかな。手まり寿司が和食系だからそれに合わせるなら唐揚げよりも天ぷらでしょ?」
「そうね。でも天ぷらだと唐揚げよりも手間がかかるし、ちょっと大変かな」
そしてお母さんは何かをねだるような目で私をチラッと見る。はいはい、分かってますよ。
「任せて。お母さん。もちろん私も作るの手伝うから」
そうなのだ。私は女装するだけではなく、ちゃんと家事もするのだ。だって、なんちゃって女の子な妹なのに、お兄ちゃんたちよりも家庭内で優遇されているんだもん。中学校に上がったころから何だか悪い気がして、お母さんの家事を手伝ったりするようになったわけ。
そしてそのうちに料理もするようになってきて、今では私ひとりでも家族の食卓の料理をすべて作れるまでに腕が上達していたりなんかして。いや、本当にほんとだよ。まさか私も自分がこういう風になるとは思ってなかったけど、なっちゃったものは仕方がないじゃない。
「ありがとう、好恵ちゃん。そう言ってくれると思っていたわ。じゃあ、万寿夫さん、家に帰る途中で食材を買いたいから、スーパーに寄ってくれる?」
「わかった。例のところで良いのか?」
「そうねえ。今日は入学のお祝いなんだから、いつも行くスーパーじゃなくて、少し良いものが売ってるほうのスーパーにしましょうか」
「ほほう、じゃあデリシオーソだな」
お父さんとお母さんのそんな会話を聞きながら、私はニコニコとしていた。やっぱり私が女装したからこそこういった雰囲気で会話ができるんだろうなあ。と、思っていたからだ。もしも私が普通の男の子として成長していたら、きっとこうはならなかったに違いないんじゃないかな。
そういう意味では、おさがりの服を着たくないという理由だけで開始した女装生活も、案外悪くなかったというか、大正解だったのかもしれない。ただ自分の性癖がちょっとだけおかしくなったというだけ。それだけが玉に瑕なのよねえ。
「「「「「「いただきまーす♪」」」」」」
家族六人の声がそろっての「いただきます」の声のあと、お兄ちゃんたちはすごい勢いで食べだした。さすがに成長期と成長期をちょっと過ぎた若い男の子。さすがですね。ああ、そういえば私も男の子でした。いや、男の娘かな?
料理を作る者の特権ということで、手まり寿司は見た目重視の作りとなっている。サーモンやマグロにイカと言ったお刺身に、きゅうりの緑に卵の黄色、いくらの赤やレンコンのクリーム色とか、いろいろな食材の色を組み合わせて、おいしいだけではない見た目もかわいらしい料理を作ったのよね。
もちろん天ぷらもきちんと盛り合わせて、ボリューム感を出しつつも見た目重視にしているのは言うまでもない。だって量が食べられない私からしたら、まず見た目がおいしそうな料理じゃないと楽しくないんだもん。
あ、そうそう。小食な上に食べるスピードも遅いから、わたしが食べる分はいつものようにちゃんと取り分けている。お母さんも割と小食だからそうしてるし、お父さんは晩酌のつまみに料理を食べているようなところがあるから、やっぱり取り分けている。
大皿から奪うように取っては食べ、取っては食べしているのは三人の兄たちだ。それにしてもすごい食欲とスピード。もしも私も女装して女の子のような生活をしていなかったら、お兄ちゃんたちのように成長していたんだろうか?
でも、ああやって料理を奪い合うようにして食べるのって嫌だなあ。いつも私のことを妹としてかわいがってくれているお兄ちゃんたちだけど、そういうとこだけはあまり好きになれないかもね。もっと上品にしろとは言わないけど、もうちょっと何かこう、なんだよねえ。わかるでしょ?
「ふう、食べ食べた。ごちそうさま。それはそうと、好恵、高校入学おめでとう。お祝いに何か買ってあげなくちゃいけないな」
そう話すのは一番上の兄、壱琉お兄ちゃんだ。壱琉お兄ちゃんはもう大学四年生。バイトもしているからそれなりにお金も持っている。というわけで安心しておねだりできるのよね。でも一応は遠慮しないと。それが礼儀というものなのよ。
「壱琉お兄ちゃん、そんなこと気にしなくていいから。お祝いの言葉だけで十分だから」
「いや、かわいい妹の為なんだから、遠慮することないぞ」
「本当、遠慮なんかじゃないから」
「いやいや、俺が買ってあげたいから、好恵は好きなものを言いなさい」
なんて感じの会話が続き、結局は一万円台程度の小型ミシンを買ってもらうことになった。良いのかな? 良いよね。実はミシンって欲しかったのよねえ。
だって私って基本は小柄な男の子体形だから、女性ものの服をそのまま着ても、どうしても着こなしが不自然になるわけ。だからもしかしたらミシンで既製服にちょっと改造を加えることができれば、より似合うようになるんじゃないかなと思ってたの。
そう思うようになったきっかけは、コスプレーヤーさん達が衣装を一から全部作るんじゃなくて、既製服を改造してコスプレ衣装を作っている人もいるっていうことをネットから知ったからなんだよね。
既製服を改造してコスプレ衣装ができるなら、同じく既製服を改造して女装用の衣装もできちゃったりするんじゃないかなと思ったわけ。まあ、まだそういう衣装を改造する腕は無いんだけど、何事も最初の一歩を踏み出さないと始まらないしね。
うーん、高校では、もしもそういう部があったらだけど、裁縫部とかに入ろうかな。あ、ちなみに中学校ではお察しの通り、料理部に入っていたんだよ。納得でしょ?
「よし、じゃあ俺は今回は何か好きな化粧品をプレゼントしよう」
そう言うのは、真弐お兄ちゃんだ。服のおさがりをもらっていた頃は、服をこれでもかと傷める活発過ぎる真弐お兄ちゃんを嫌っていたけど、今となっては私に良くしてくれる優しいお兄ちゃんだ。だって何かにつけて化粧品をはじめとした女性特有のアイテムをプレゼントしてくれるし。誕生日とかクリスマスとか。それに『今日の好恵は特にかわいかったね記念日』なんて勝手に作ってるし。
「ふーん、じゃあ僕は、ミシンを使った裁縫関係の本でもプレゼントしようかな」
と言うのは参彦お兄ちゃんだ。参彦お兄ちゃんは物静かで、気が付くといつもどこかで本を読んでいるんだけど、それもあってか雑学的な知識とか人間関係に関する考察とかがすごい尊敬できるお兄ちゃんだ。
ということで壱琉お兄ちゃんからは小型ミシン、真弐お兄ちゃんからは化粧品、参彦お兄ちゃんからはミシンを使った裁縫関係の本をプレゼントしてもらうことになりました。
ううう、ありがたいです。中身男のなんちゃって妹なのにこんなに良くしてもらって、ばちが当たりそうです。お兄ちゃんたち、今後もまたおいしい料理を作ってあげるから、それで許してね。
なんてことを考えて心の中でお兄ちゃんたちに手を合わせて感謝していると、今度はお父さんが話し出した。
「それはそうと今日の入学式を見ていて思ったんだが、好恵よりも美人というか、かわいい同級生の女の子は居なかったような気がするな。三千子はどう思った?」
ちょっと酔っているのか、お父さんがそんなことを言い出した。え、そうだったけ?
「うーん、どうだったかしら。そこそこ整った顔の子も結構いたような気がするんだけど……」
対してお母さんは、どっちかと言えば私と同じ意見みたい。
「そうよね。同級生の女の子たちって、ほぼみんなスッピンで化粧なんて全くしていなかった感じだったけど、きっとちゃんとメイクすれば私なんかよりもずっと美人でかわいくなる子のほうが多いと思ったなあ」
そうなのだ。私のこの顔は女装メイクの結果なので、スッピン同士で勝負したなら私は同級生女子の平均点までいかないんじゃないかな。そこは潔く負けを認めたい。ていうかそんな勝負に勝ってもうれしくなんかないし。……いや、ちょっとはうれしいけど。うーん、正直かなりうれしいです。すみません。
「いやいや、絶対に好恵のほうが美人でかわいかった」
やっぱり酔っているよね。お父さんって。ていうか男の人って、ふつうはメイクなんかしないから、スッピンの顔が化粧をしたらどこまで美人でかわいい顔になるか想像できない人が多いんだよね。それはお兄ちゃんたちも一緒みたいで、こんなことを言い出した。
「お父さん、じゃあ今日撮影してきた写真とか動画とかを再生してみようよ」
「俺も好恵よりも美人でかわいい娘がいるとは思えないなあ」
「僕は単純に写真や動画が見たいなあ。でもまあ多分好恵が一番かわいいんじゃないかな」
もう、お兄ちゃんたち、そんなんじゃ将来的に女の子たちにメイク技術でだまされても知らないんだからね。
「うーん、ちょっと恥ずかしいけど、私も入学式の様子を見てみたいな。みんなが食べ終わってお皿とか片付け終わったら見てもいい?」
「じゃあ好恵ちゃん、万寿夫さん、早く残りを食べちゃいましょうか?」
「わかったわ。お母さん。ほら、お父さん、もうお酒はなしよ。いくら私の入学祝いだからって、飲みすぎはメっだからね」
と、かわいらしくお父さんに注意する私。こういう時、女装してるのは得よねえ。お父さんも私がこうやって注意すると基本的に逆らえないみたいだし。
「え、もう一杯だけでも……、あ、分かったから怒らないで。うん、これでおしまいにするから」
ふふ、私がちょっとほっぺたをふくらませて怒った顔をしたポーズをしただけでこれなんだもん。ほんと、お父さんってチョロいなあ。それとも男の人ってみんなこうなのかな。少なくとも私だったらこうはならないんだけどなあ。女の子に幻想を抱いていないし。
ああ、どこかに本当に心の底から愛せる性格の良い娘っていないかなあ。
というわけで夕食の片付けも終わった後で、私の入学式の写真とか動画とかが居間のテレビに映し出されることになったんだけど。
もしかしなくても私ってみんなから注目されていたのね。私をチラ見する生徒たちの多いこと多いこと。それから先生や来賓の人や他の生徒の親御さん達も。
うーん、明日からの高校生活が楽しみなようなちょっと怖いような。ま、なるようになるかな。楽しんでいきましょ。
さて、まるで思考までも女の子のように変化している好恵ですが、それでもやっぱり男の子です。男の娘だとしても男の子であることには違いありません。これから先どうなるのでしょう。それは私にもわからないのでした。
それから『有袋人類へと種族転換させられた日本人の男達には袋と乳がついています』も久しぶりに投稿していますので、そちらのほうもよろしくお願いします。