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第18話 とりあえず歓迎会

 登場人物たちを普通に会話させていたら、なんだか自然に女装の話につなげることができた。ということで今回は女装ネタを入れられて良かった良かった。

 まったく驚いたことに、あの不破先生が家庭科部の顧問になったのよ。まあ臨時なんだけどね。それで色々あったけど、とりあえず歓迎会をするってことになったわけ。


「よし、じゃあ今日はもう部活動は終いや。これから不破先生の家庭科部の顧問就任を祝して歓迎会をするんや」


 えせ関西弁を使ってそう宣言するのは3年生の大愛先輩よ。


「わかりました。大愛先輩。お茶会の準備をしないといけませんね。では吉美副部長、好恵ちゃんと朝日ちゃんと一緒にホットケーキを作って、それから紅茶を入れてください」


「はい、安芸部長。じゃ、朝日ちゃんは食器の準備。好恵ちゃんは調理器具を出しておいて。自分は材料のほうを取ってくるから」


 そう言うと、吉見先輩は家庭科教室から出て行ったの。おそらく今までの経験上、教室のロッカーに常備している保存が効く食材を取りに行ったのだと思うわ。ホットケーキの粉だとか粉ミルクだとか、紅茶のティーパック、そして砂糖だとかね。


「不破先生、突然のことでしたので、歓迎会とは言っても凝ったものは作れなくて申し訳ありません。手元には保存の効く材料しかありませんので」


「いいわよ。安芸ちゃん。そうかあ、家庭科部の顧問になったら、部活動で飲み食いしてもOKなのね♪」


 調理道具、フライパンやボール、そしてフライ返しや泡だて器などを調理台の下から取り出しつつ聞き耳を立てていたら、なんだか不破先生が勝手な妄想をしてるんだけど……。もしかして不破先生って食い意地が張ってるのかしら? それとも食べ物で釣られるのに弱いの?


「そうやでえ。うちらが部活で食べ物を作って食べてるのは立派な部活動や。その材料費を稼ぐ為に他の部から衣装づくりを請け負って金を稼いでるのも立派な部活動の一環なんやで」


「まあ、その理屈は分かるけど。ところで大愛ちゃんは地元の出身なのになんで関西弁をしゃべってるの?」


「ああ、それはな。不破先生。うちが関西弁をしゃべってると、衣装づくりの仕事を請け負うときに強めの価格交渉をしても、『ああ、関西というか、大阪の人はお金にガメツイから、この価格でもしょうがないか』って思ってもらえるからや」


「うーん、大愛ちゃんのその理屈、何だか納得できるような、納得できないような理屈なんだけど。ま、いいか」


「不破先生、わたくしも大愛先輩の理屈は納得しかねるんですけど、実際に大愛先輩がえせ関西弁で交渉するとだいたい大愛先輩の提示した価格で決まることが多いので、実効性はあると思ってます」


「あ、ひどうない? うちのこれはえせ関西弁じゃなくて、りっぱなビジネストークっちゅうやつなんやで」


 なんて、不破先生と大愛先輩、そして安芸部長が会話しているのを聞きながら待っていたら、吉美副部長が帰ってきたの。


「お待たせ。好恵ちゃんに朝日ちゃん。とりあえず食材は持ってきたから、朝日ちゃんは人数分の紅茶を入れてね。そして好恵ちゃんはホットケーキを焼いてちょうだい。自分はカッティングと盛り付けをするから」


 ふむ、なんとなく私の役割が一番大変そうだけどしょうがないわね。先輩の命令だし。


 というわけでホットケーキを焼くわよ。まずは粉ミルクを水で溶いて……、本来なら卵を混ぜなくちゃいけないんだけど今は無いから、ここにホットケーキの粉を投入ね。あんまり混ぜすぎないように注意して、そして……。






「ふう、こういうお茶会も良いものね」


「不破先生、家庭科部の顧問になって良かったやろ?」


 大愛先輩が不破先生にダメ押しをしてるけど、不破先生、もうすっかりオチているみたい。落ちてるでもあるし、堕ちてるでもあるわね。


「良かったと思うわよ。でも毎日のお弁当も忘れないでね」


 う、さすがにお茶会程度ではごまかされなかったのね。


「わかりました。そっちのほうは私が何とかしますから。ところで不破先生。先生はお昼にどれくらいの量を食べるんですか? どれくらいの量のお弁当を作ってこればいいのか知りたいんですけど」


 不破先生はまだ若いとはいえ社会人でもあるし、そろそろダイエットとか考えないと体重が増えちゃうお年頃だもん。意外と小食なのかな。それともさらに意外なことにドカベンタイプだったりして。


「ああ、好恵ちゃん。それならコンビニの普通のお弁当の量を参考にしてもらえればいいわよ」


 ん?


「あのぉ、不破先生。もしかしてお昼はいつもコンビニ弁当だったりします?」


「そうですけどなにか?」


 あーー、そうか。そう来たか。不破先生、前に自分は見た目を気にしない男の料理レベルだって言ってたけど。はッ! もしかしてッ!?


「不破先生ッ! ちなみに朝ごはんと晩ごはんはどうされているんですかッ!? まさか朝と晩もコンビニ弁当ってわけじゃないですよね」


「いやねえ、好恵ちゃん。さすがにそんなことは無いわよ」


 けらけらと笑いながら不破先生は、ホットケーキを食べ、そして紅茶を飲むと、おもむろに言ったのよ。


「朝はトーストにコーヒーでしょ。そして夜はビールにつまみでお終いかな。ほら、夜はあんまり炭水化物を摂ったらダメとか言うじゃない。だから健康の為に夜はごはん抜きでビールとおつまみだけなの」


 くったくの無い笑顔の不破先生。……ダメだこいつ。早く何とかしないと。


「好恵さん。不破先生のお弁当の件ですけど、ちゃんと材料費とかは家庭科部から出して差し上げますから、昨晩の残り物で作るのもいいですけど、しっかりと栄養バランスを考えたものにしてあげてください」


「はい、安芸部長。せっかく家庭科部の顧問になってくれたのに、不健康をこじらせて病気になって休職されたらたまりませんからね」


「そうやでえ、好恵ちゃん。好恵ちゃんの料理の腕に、家庭科部の未来がかかっとるんや。がんばりいや」


「自分としては、その材料費を出すのはいいんですが、公式の部費では足りませんから、各方面への売り上げで対処しないといけないかと思いますけど、いいんですか? 金額的に」


 部費の管理等も行っている吉美副部長が懸念を言ったわけなんだけど、そういえば毎日だと結構な金額になるんじゃないかな?


「しゃあないなあ。いよいよ仕事の新規開拓をせなあかんかもしれん」


「というと大愛先輩。例のあれですか?」


 私にはさっぱりだけど、吉美副部長には、大愛先輩が何を言いたいのか分かってるみたい。


「そうや。前から依頼は有ったけど、面倒くさい仕事やったから断っとったあれや」


「わたくしにも直接に依頼は来てますけど、確かにあれは面倒くさい仕事ですね」


 安芸部長も知ってることなのね。うーん、そんなに面倒くさい仕事ってなんだろう?

 

 というわけで私が質問しようとしたほんの数秒前に、いままで特に発言が無かった朝日ちゃんが聞いてきたのよ。


「あの、先輩。その面倒くさい仕事ってなんなんですか?」


「ああ、それはな朝日ちゃん。漫画研究会とか、アニメ同好会とか、そういったところや個人からも時々依頼の打診が来とるんやけど、一言で言ったらコスプレ用の衣装を作って欲しいっていう依頼や」


「あの、コスプレ衣装を作ることの、どこが面倒くさいんですか?」


「二次元の絵しかないものから、型紙を起して立体的な衣服に仕上げるということ自体が面倒くさいし、そもそも漫画やアニメのキャラに似ても似つかない体形のやつらが着ても、それなりにそのキャラっぽく見えるようなコスプレ衣装を作るのはめっちゃ大変なんやで」


「さらに自分が付け加えるなら、依頼主の中には男なのに女キャラの衣装を着たがる人もいるんですよ。まだしも女の子が男キャラの衣装を着るのは何とでもなるんですよ。女の子っぽさが残っていても、それはそれでかわいいし。でも男子の体格ではちょっと……」


 大愛先輩に吉美副部長の話でだいたい理解できたわ。なるほど、そういう面倒くささか。確かに納得できるけど、それ、私はいつもやってることなんだけど。


「そうなのよ。問題なのは、コスプレ用の衣装を作って欲しいという依頼の大半が男子生徒のものっていうことなの。男キャラ、女キャラどちらもね。わたくしが思うに、女子生徒でコスプレをしたいって子は、たいてい自分でコスプレ衣装を作ってしまうから、依頼主は男子ばかりということになるんでしょうね」


「そうなんですか。あの、あたし、今、思ったんですけど、男子の体格でも似合う女キャラの衣装作りって、好恵ちゃんなら得意なんじゃ……」


 ああ、こらこら朝日ちゃん。めっ! そんなことに気が付かないでッ! 私の仕事が増えちゃうでしょ。


「「「ああッ!」」」


 ポンと手を打つ、大愛先輩に安芸部長と吉美副部長。


「そういえば好恵ちゃんって、リアル男の()やったな。うち、好恵ちゃんが男ってこと、ほとんど忘れとったわ。確かに好恵ちゃんなら、男の体形に似合った女キャラ衣装作りも上手いかもしれんな」


「ですわね。大愛先輩。ええ、実は、わたくしも忘れていました。だって好恵ちゃんって、見た目は完璧に女の子ですし、声も女の子の声にしか聞こえないんですもの」


「あの、自分は好恵ちゃんが男ってことは覚えてましたけど、コスプレ衣装作りの仕事に活かせるということは気が付かなかったです」


「あ、こら、吉美ちゃん。そんな言い方したら、好恵ちゃんが男ってことを忘れとったうちらがバカみたいに聞こえるやろ」


「そうですよ。吉美さん。わたくしも好恵ちゃんが男ってことはちゃんと知ってましたよ。ただ、ちょっと、ええ、ほんのちょっと忘れていただけで」


 うーん、大愛先輩に安芸部長、往生際が悪いなあ。


「ねえ、好恵ちゃん。実際に男の子でもちゃんと着れる女キャラのコスプレ衣装って作れそうなの?」


 朝日ちゃんが私に聞いてきたけど、どう答えればいいのかな。ちょっと悩んじゃう。


「男子が着る女装用の普通服なら、なんとでもなるとは思うわよ。でも、コスプレ衣装でしょ? 私、漫画やアニメは見てるけど、コスプレ衣装を作ったことは一回もないから、やってみないことにはできるかどうかわからないわ」


「よしっ! じゃあ試しにいっちょ試作品を作ってみようや。どういうふうにすれば男子にも似合うような女キャラのコスプレ衣装になるかは、好恵ちゃんの意見を聞きながらデザインして、そこからはみんなで手分けしてチャチャッと作り上げたろうやないか」


「そうですわね。いったんコツさえつかめれば、女キャラの衣装を量産して、今以上に稼ぐことは可能だと、わたくしも思いますわよ。じゃあ、吉美さん。受注のほう、頼めるかしら?」


「はい。安芸部長。では自分は、あとで過去にコスプレ衣装作成の依頼の打診があった生徒たちに連絡を取ってみます」


「よっしゃ、まずは吉美副部長。受注のほうを頼んだで。まずはそっからや」


 と、ある意味、私を置き去りにして先輩たちが盛り上がってると、ホットケーキを食べ終わり、紅茶も飲み終わった不破先生が聞いてきたの。


「ねえ、今までの話を聞いていたら、好恵ちゃんのことをすっかり本物の女子と同じようなつもりで接していたようだけど、生徒たちの間では、好恵ちゃんってどんな存在として思われてるの? ちょっと興味本位の質問で悪いんだけど」


「あ、そういった話なら私も興味があるから聞いてみたい。自分がどういうふうにみんなに思われているのか本音の話を聞いてみたいし」


 冗談抜きで、私も興味があるのよね。私の女装って、ほんとのところ学校のみんなにはどう思われてるのかしら?


「うちらは部活動中の好恵ちゃんしか知らないから、とりあえず朝日ちゃん、同学年の目で見て、好恵ちゃんのことをどう思ってるかゆうてみ」


 ということで大愛先輩は、朝日ちゃんに話をするように指名したのよ。


「ええと、そうですねえ。みんな好恵ちゃんのことは、本当は男の子が女装しているだけだっていうことは知ってるんですけど、たいていの女子は、好恵ちゃんのことを無害な男の()として見てますよ。あたしもそのひとりです。」


「無害なっていうのはどういう点が、かしら?」


 不破先生が追加で質問してるけど、それ、私も知りたい。私が無害ってどういうこと?


「もしも好恵ちゃんが自分は本当は男の子だっていうことを隠して女子だと嘘をついて、女子トイレとか更衣室に入ってくるような子だったら、有害っていう意味です。つまり女装はしていても男子トイレに入ったり、着替えも男子と一緒に着替えてる好恵ちゃんは無害ってことです」


「なるほど。有害なパターンを考えたら、確かに今の好恵ちゃんは無害よね」


 うーん、それって喜んでいいのかな。無害って言われるって、恋愛の対象にも見てもらっていないってことじゃ……。


「ははは、なんだか無害って言われると、女子として見てもらえて嬉しいような、男子として恋の対象では無いと言われているような。複雑な気分かも」


 と、私がちょっとだけ本音を話してみたんだけど……。


「え、好恵ちゃんの恋愛対象は男の子でしょ? この間、好恵ちゃんの家に行って女装したっていう1組の男の子、ほら、湧谷拓水くんっていう男の子と、女装姿同士で抱き合っていたって、あたし聞いたんだけど」


「う、それは、まあ事実なんだけど、どこからそんな話を聞いたの?」


「体育の時間に1組の家鳴風音ちゃんからよ。『あのふたりは尊い(てぇてぇ)、あのふたりは尊い(てぇてぇ)』って言いながらみんなに詳しく解説してくれたわよ」


 もう、風音ちゃんったらっ!


「えーーッ! その話、もっと詳しく」


 と、不破先生がものすごくいい笑顔で喰いついてきたの。


「うちも聞きたいなあ。なあ、好恵ちゃん。朝日ちゃんが言ったことってほんまなんか?」


 そして大愛先輩。


「わたくしも、部員のことはきっちりと知っておかないといけませんからね。聞かせていただきましょうかしら」


 安芸部長も。


「あ、じゃあ、自分、紅茶のおかわりを作ってきます。朝日ちゃんは話のほうを続けてていいわよ」


 吉美副部長も聞きたがりか……。


「ええと、実はですねえ。あたしが聞いた話に依ると……」


 というわけで朝日ちゃんが話し始めて、お茶会は第二ラウンドに入りましたとさ。ははは、どうやって誤解を解こうかしら? ていうか私がほんとうは女の子と恋愛したいってこと言っても信じてくれそうにないわね。もう、ほんとにどうしたらいいのッ!?

 今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。


 ちなみに前回の話の中で、家庭科室にミシンが置いてあるという設定にしましたけど、小さな小型ミシンのことですからね。ロッカーとかにもしまっておけるものをイメージしています。

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