第16話 百合@薔薇製 その2
お待たせしました。公私ともに本当に忙しくて、執筆に時間をかけられなかったのもありますが、今回のようなうんちく系の内容は書くのが難しいです。
なお、前回および今回、好恵ちゃんが話している女装の仕方云々は、あくまでも好恵ちゃんがそうだと理解しているという内容なので、本当のところは間違っている内容もあるかもしれませんが、それはフィクションの中の世界のことということで御理解ください。
「じゃ、次は下着の次は何を着たらいいと思う? ちょっと拓水」くんの考えを言ってみて」
「やっぱりまずはスカートじゃないですか?」
「うーん、確かに女装と言えばスカートよね。でもちょっと順番が違うかな。ほら、女装の基本を思い出して。腰の位置を高く見せる。これよ」
私は自分が穿いているスカートのベルトの部分を指さして解説を続けたわけ。さあ、理解できるかな?
「せっかく高い位置にスカートを穿いても、それを上半身の上着で隠しちゃ、あまり意味ないでしょ」
「あ、そうか、ブラウスとかの上着はスカートの中に入れないといけないんだ」
「そうそう。だから先に上を着てからスカートを穿いたほうが楽というか、合理的なのよ。まあ、これは私の女装的な服の着方の考えだから、世の中の女性や他の女装子さんがどうしてるかはそれぞれだと思うけどね」
「なるほどね。でも言われてみれば、ぼくもそのほうが良いような気がしてきました」
「じゃあ、この中から上に着る服を選んでみましょうか」
そして私は衣装ダンスからブラウスを数着だしてみたの。
「デザインはともかく、なんだか淡い色というか色の薄いブラウスが多いですね」
「いいところに気がついたわね。上は薄い色で軽い感じを出して、下は濃い色で存在感を出すと良いと思うのよ。どうしてか分かる?」
「上半身よりも下半身を目立たせる為、ですか?」
私の問いかけに、ちょっと考えてから、拓水くんは答えたんだけど、正解なんだからもっと自信持って答えればいいのにね。
「そうそう、大当たり。男の場合は肩幅の関係上、上半身が発達していて目立つでしょ。逆に女の場合は骨盤が発達しているから下半身が目立つのよね」
まあ、下半身よりも胸のほうが目立つ女の人もいるけど。なんて言葉は心の中に留めておくほうが無難ね。
「でもまあ、これは私が考えてる女装の仕方だから、もちろん世の中には逆のコーディネートをする人もいると思うわよ」
「ようは、自分に似合うかどうかということですね」
「そうそう。だから私の言うことは最初のきっかけ程度にうけとめておいて。拓水くんは拓水くんなりのやり方を見つけていけばいいんだから」
「ぼくに似合うかどうか。色々研究してみます」
やる気になってる拓水くんを見ると、『いいことしたなあ』という気持ちと、『何やってるんだろ私は』という気持ちが同時に沸き上がってくるのはどうして?
と、私が小さく悩んでいると、その間に拓水くんは自分が着たいと思えるブラウスを選んだみたい。
「ぼくは、このクリーム色のブラウスにしたいと思うんですけど、好恵さんはどう思いますか?」
「あら、いいわねえ。場合によってはブラジャーが透けて見えるかもしれないけど、それがまたいいのよね。やるわね。拓水くん」
「え? 透けちゃいますか?」
驚いたのか、拓水くんは手に取ったブラウスの生地越しに向こうが見えるかどうかを確かめているのよ。うーん、冗談だって言ったら怒っちゃうかしら?
「冗談よ」
「もう、ぼくは真剣なんですから、冗談はよしてください」
「普段は透けたりしないから安心して。でも、雨に濡れちゃったりしたら透けるのは間違いないから、その点は注意しましょうね」
「そうか。雨に濡れたらダメなんだ」
「ダメとは言ってないわよ。雨に濡れて透けてもいいように、普段からちゃんとしたブラジャーを着けて女装していれば良いだけのことなんだから」
「結局、透けるの前提なんですね」
「普通の女の人の感覚はともかく、女装してるなら見せてなんぼじゃない? ていうか拓水くんは見られたくないの? きれいでかわいい服を着てるところを」
「そう言われると、なんだか見せたほうがいいような気も……」
ふふ、ちょろいわね。
「でしょ? まあ、それはそれとして、風邪ひくといけないから、いつまでも下着姿のままでいないで、ちゃちゃっと服を着ましょう」
というわけで拓水くんはクリーム色のブラウスを着たわけ。次はスカートね。
「拓水くん、女装が似合うスカートって、どんなものだと思う?」
「……フレアスカート。ですよね」
「ふふふ、まあ、私が持っているスカートを見れば一目瞭然よね」
「やっぱり下半身を目立たせるということですよね」
「そうそう。骨盤が小さな男がタイトスカートなんか穿いたら、全然似合わないわよ。ていうか女装がバレバレ。だから小さな骨盤をカバーできるフワッと広がるフレアスカートがいいのよ」
「じゃあ、レディースのスーツなんてのは女装に向かない衣装なんですね」
「体型がものすごく女装向きなら問題ないけど、普通は無理よね。まあ、ヒップパッドとかで工夫すればなんとかなるかもしれないけど、私は遠慮しとくわ。さすがに自信ないし。まあ、とにかくどのスカートがいい? 気に入ったのを選んでちょうだい」
私はレディースのスーツを着るつもりは無いと言ったけど、というか私はレディースのスーツ着て就職するような年齢まで女装続ける気はないんだもん。
うーん、でもこの脳内まで染まってしまった女言葉をやめることのほうが大変かも?
「じゃあ、これにしてみます。ワイン色のフレアスカート」
「いいんじゃない。けっこう似合うんじゃないかしら。ちゃんと上のほうで穿いてね。ちょと苦しいかもしれないけど。女装する場合、着心地よりも見た目だから」
「ですね。おしゃれは我慢ってやつですよね」
そして拓水くんはスカートを穿き、基本的な女装が完成したのよ。下に着たボリュームアップパニエと、フレアスカートが作る見た目は、完全にお尻が大きく見える女の子体型ね。まあ、見た目だけなんだけど、それが重要なのよ。
「あとはそうねえ。頭のほうもウィッグをかぶってみる必要があるかもね」
「髪の毛、まだ短いでしょうか?」
拓水くんも昔の私と同じで、地毛を伸ばし始めているみたいだけど、まだまだなのよね。普通の男の子と比べたら十分に長いんだけどね。
「短くはないわよ。女の子の中にもそれくらいの長さの髪の毛の子はいくらでもいるもの。でもそういった子たちは、顔が完全に女の顔でしょ?」
「けっこう、ぼくの顔って女顔って言われるんですけど、やっぱり男の顔なんでしょうか?」
「少なくとも、眉毛は剃ってもっと細くしたほうが良いわね。そうしたらさらに女っぽい顔つきになりそう。でも最初は自分で眉を剃るのは難しいから、美容院で整えてもらうのもいいかもね。私が通っているところだと、私の事情を知ったうえでやってくれてるから、なんだったら紹介しましょうか?」
「事情を知っているっていうことは、好恵さんがほんとうは男だと知っているってことですよね」
「そうそう。だから拓水くんも私の友達ってことで、女装が似合うようにしてもらうのもいいんじゃない?」
「いいですね。ありがとうございます。お願いします」
「あとは、ウィッグで女性らしさを出すっていう手もあるわね」
「やっぱりロングのウィッグがいいんですよね」
「うーん、私、ロングのウィッグは持ってるけど、あんまりおすすめはしないわよ。普段とあまりにも違う長さだから、感覚が狂っちゃうし、何よりも重いのよ」
私の地の髪の毛は肩に届くくらいまで伸ばしているから、そもそもウィッグは必要ない。でもたまにはロングにしてみるのもいいかも? って思ってロングのウィッグも持つようにしたんだけど、短時間だけ着けているならともかく、ずっと着けてると重いのよ。
あ、ちなみにロングのウィッグは私が買ったんじゃなくて、お兄ちゃんたちにおねだりして、誕生日プレゼントでもらったの。ありがとうお兄ちゃんたち♪ あんまり使ってなくてごめんなさいッ!
「ああ、やっぱりそうなんですか。言われてみれば重そうで暑そうですね」
「でもまあ私が持ってるのはそのロングのウィッグしかないから、今はこれを着けてみましょう」
そして拓水くんにウィッグを着けてあげたのよ。顔の両側の髪を前に持ってきて顔の両サイドが髪で隠れるようにしてね。そうすると顔の輪郭が少し隠れて男っぽさが消えるのよね。
そして、完成とはいいがたい出来栄えだけど、とりあえず拓水くんの女装ができたわけ。まだまだ改善点が多いからせいぜい60点っていうところかしら?
で、鏡台の前に連れていったわけよ。お約束をしなくちゃね。
「これが、ぼく?」
拓水くん、それなりの出来の女装姿に、いちおう満足してくれたみたい。『えっ?えぇっ?』って言いながら何だかうれしそうにしてるんだもん。
「どう? なにも知らない人なら今の拓水くんを見たら、まず100人中90人くらいは女の子だと判断するんじゃないかな? ま、見た目だけならね。声のほうは姿見鏡平くんと一緒に女声の出し方をトレーニングしてみたらどう?」
「ありがとうございます。これなら声以外は、外に出ても違和感ないですよね。思った以上です。ほんとうにありがとうございますッ!」
「いいのよ。いいのよ。でもね、女の子ならこういうときは『ありがとう』って言いながら抱きついてきちゃうものかもよ」
私は、真実と嘘が入り交じった意見を言ってみたのよ。さて、拓水くんはどうするのかな?
「そうか、女装は単に服装だけではなくて、しぐさや態度も大事なんですよね。わかりました。では……、ありがとう、好恵さんッ!」
おお、マジで抱きついてきましたか。でも私のほうが背が低いから、抱きついてこられたというよりも、抱き締められた感のほうが強いかも。
ていうか、なんかいい。これッ!
いくら私が完璧な女装をしていても、やっぱり体は男だし、心も実は男だから、女の子同士が感激して抱き合ったりするようなことはできないのよ。
お互いに同じ女装男子同士だからできることよね。抱き合ったりするのって。
というわけで、いったん抱き合った状態を解きあった私と拓水くん。……言っとくけどホモじゃないわよ。いわゆる疑似百合ってやつよ。きっとね。
「好恵さんよりも、好恵ちゃんと呼んでくれたほうが、いいかな」
「好恵ちゃん。ですね?」
「そう、次からはそう呼んでね。そのほうが今の女装した恰好には有ってると思うのよね」
「じゃあ、ぼくのことも拓水ちゃんって呼んでもらえますか?」
「あ、いいねえ。拓水ちゃん♪」
「ふふふ、いいですねえ。好恵ちゃん♪」
「拓水ちゃん♪」
「好恵ちゃん♪」
などとお互いの名前をちゃん付けで呼び合うこと十数回。さすがにちょっと疲れたというか、恥ずかしくなったふたりなのでした。ははは、でもやっぱりこういうのっていいわね。
「さて、話は変わるけど、いくら女装していても私たちって体は男なわけでしょ? だから当然だけど更衣室とかは男性用を使わないといけないわけよ」
「好恵ちゃんも、体育の時は男子用の更衣室を使ってますよね」
「そうそう、それでね、そういう場合に気をつけたいのが、なるべく他の普通の男たちの性欲を刺激しない服の脱ぎ方というか、着方というやつなのよ」
「ええと、それはどういうことですか?」
「だからね、学校の男子たちに性的な目で見られるのって嫌じゃない。だからなるべく男の性欲を刺激しないようにしたいわけ。わかる?」
「はあ、なるほどというか、確かにそんな目で見られたくはないですね」
「そこでここはひとつ、萌えというか、エロさで考えて欲しいんだけど、わかるかしら?」
「萌えにエロさですか……」
巧水ちゃんは理解できないどころか、混乱してきてるみたいね。じゃあ詳しく説明してあげようかしらね。
「まずわかりやすく男の場合で考えてみて欲しいんだけど、男がズボンは穿いてるけど上半身は裸の場合と、上半身はピシッと決めてるけど下半身が裸の場合ではどっちがカッコイイと思うかしら?」
私が質問したら、拓水ちゃんはちょっと考えてから言ったのよ。
「圧倒的に上半身が裸のほうがカッコいいですね」
「でしょ? 上半身をピシッとスーツで決めていても、パンツ丸出しとかだとカッコ悪いわよね」
「ええ、どんな服装で考えても、だいたいそうなりますね」
「じゃあ、今度は女の場合で考えてみたらどうなるかしら?」
「上半身裸と、下半身裸では、どっちがカッコイイか? ですか?」
「女の場合、上半身裸と、下半身裸では、どっちがエロいか? と、考えて欲しいのよ」
今度は拓水ちゃん、さっきよりも長い時間をかけて考えているみたい。うんうん唸りながら考えているの。
「あえて言うなら、下半身裸、でしょうか」
なるほど、拓水ちゃんは、おっぱい星人ではないと……。
「そうね。もちろん他の考え方もあるわよ。なんて言っても本物の女の人にはおっぱいがあるからね。でも、考えてみて。下半身裸でダボッとした彼シャツを着てる女の人ってエロくない?」
「……確かにそれはエロいですね」
「だからね、私は思うのよ。女装男子である私たちも含めて、女性ものの服というのは下から脱いだほうがエロいってね。上半身に着た服の裾で隠れて見えそうで見えない股間ってエロ過ぎるでしょ? だからまわりの男たちの性欲を刺激しにくいように、私は服は上から脱ぐっていうようにしているのよ」
「ああ、だから好恵ちゃんは体育の着替えの時に上から脱いでいたんですね」
「そうそう。それなのよ。でもそうやって私が気を使ってもまだ私ってまわりの男の子たちの性欲を刺激しちゃうって罪だと思わない?」
ちょっとおどけてみる私♪
「ふふふ、思いますよ。ぼくも好恵ちゃんレベルの女装目指してがんばります。今日はありがとうございました」
「こらこら、お礼のしかたはそうじゃないでしょ♪」
「あ、そうでしたね。……好恵ちゃん、ありがとう。大好き♪」
そして私を抱きしめる拓水ちゃん。というわけで私も拓水ちゃんを抱きしめ返したのよ。
「拓水ちゃん、私も好き♪」
するとね、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いたのよッ!
「好恵ちゃん、ほら見て。家鳴さん、ものすごくカッコよくなったって思わない? って、あなたたち何してるのッ!?」
なんとお母さんがカッコよく男装した、それでいて女子だとわかるといういわゆる宝塚系の男装をした風音ちゃんを連れてきていたのッ!
「ええと、おかあさん。これはね……」
「はっ! ご、ごめんなさい。おじゃましちゃって。あの、ほら、家鳴さん。戻るわよ」
「……尊い」
なんか風音ちゃん手を合わせて私たちを拝んでるし。
そしてドアがまた閉められた向こうから聞こえてくるお母さんやお兄ちゃんたちの声。
『好恵ちゃんと湧谷君? あのふたり、抱き合ってたッ!』
『え、好恵のやつ、男装女子じゃなくて女装男子のほうが好きだったのかッ!?』
『子供が欲しいとは言っても、好恵はやっぱり男のほうが好きなんだな』
『じゃあ、好恵に家鳴さんをくっつけるという計画は無し? 湧谷くんとくっつける?」
お母さんの言葉を聞いて、勝手なことを言う壱琉お兄ちゃん、真弐お兄ちゃん、そして参彦お兄ちゃん。ていうか何ッ!? 私と風音ちゃんをくっつける計画? 初耳なんですけど。そんなことをうちの家族は考えてたの!? もうヤダッ!
『……尊い』
風音ちゃん、まだ拝んでる。たいがい風音ちゃんも病気ね。
そして、お父さんは……。
『よかった。好恵はまだ嫁にはやらせんぞ』
ああ、もうなんか疲れてきちゃった。ううう、今日はもうお終いッ!
オチが、ちゃんとオチなかったような気がする。でも、これが今の精一杯なんですよ。




