第1話 プロローグ 高校入学前夜
作者、生きてます。体調も戻ってます。思いついた設定を話にしてみました。続きはそのうち書きます。でもまずは真夜中も含めてその他のシリーズの続きを書いてからかな。ええと、警告です。女装ものです。男の娘ものでもあります。それらが嫌いな人は直ちに読むのをやめましょう。好きになりたい方はどうぞいらっしゃいませ。
うちの家族は両親と僕の上に三人の兄がいる六人家族だ。父親の稼ぎは人並みで、けっして貧乏というわけでは無いが子供が4人もいるということもあって裕福というわけでもない。だから節約できるところは節約していこうという雰囲気が強く、僕が着る服は下着も含めてすべて三人の兄たちからのおさがりだ。
説明するまでもないことだけど、まず一番目の兄が着た服が二番目の兄にさげられる。そして二番目の兄が着た服が三番目の兄へ、そして最後に四番目の僕のところにさげられてくるという仕組みだ。
二番目と三番目の兄も一番目の兄のおさがりを着ているのだからお前も我慢しろ。というのが両親の主張なのだが、これはあまりにも不平等が過ぎる。なぜかって? だってそうじゃない。
一番上の兄はまだおとなしくて服を傷めたりしないので、二番目の兄にさげられる服はまだまだ新品に近い状態と言えなくはない。でも三番目の兄のもとに服がさげられた時には相当服も傷みだしている。二番目の兄はどちらかと言えば過剰に活発で、服を汚すだけならまだしも服のあちこちを破いたり、ほつれさせたりしているからね。
だから三番目の兄が着る服には補修の跡がいっぱい残っている。幼稚園の頃ならば補修用のアップリケをいっぱいつけた服をカッコイイと思うことができたのだけど、さすがに小学校に上がると、そんな服を着ているのはクラスでも僕だけになってきた。
さらに言うなら僕たち兄弟は大体それぞれ2年間隔で生まれているから、一番目の兄が中学校を卒業したあとで三番目の兄が中学に入学するから三番目の兄は一番目の兄が着ていた学生服を着ることになる。
そして僕が中学に入学する時には二番目の兄が中学を卒業したあとになるので、僕は二番目の兄が着古した学生服を着ることになってしまう。服を痛めることが得意な二番目の兄の学生服を!
それだけは絶対に嫌だ!!
三番目の兄も内心ではおさがりの服を着るのは嫌がっているようなんだけど、物分かりのいい三番目の兄が両親に文句を言う様子を見たことが無い。本当によくできた兄だと思う。でも、僕は違う。今日、僕は両親にもうおさがりの服を着るのは嫌だって言うんだ。
もちろん単純に「おさがりの服はもう嫌だ。新品の服が欲しい」と言っても聞いてくれないのは目に見えている。だから僕は相当の覚悟を持ってある秘策を考えたんだ。それは……。
「お母さん。お父さん。今まで黙っていたけど、僕、前からずっと女の子の服が着たかったんだ。男の子の服はもう着たくない。ズボンじゃなくてスカートを着たい。赤やピンク色の服や、フリルとかリボンとかがついたもっとかわいい服が着たい。どうかお願いします。女の子の服を買ってください」
こう言ってから僕は両親に対して頭を下げた。下げ続けた。きっと両親の顔の表情は固まっているんじゃないかな。
さて、ここで僕や家族の紹介をしておこう。僕の名前は服多好雄。来月の4月から小学3年生になる男の子だ。
一番目の兄の名前は服多壱琉、二番めの兄の名前は服多真弐、三番目の兄の名前は服多参彦という。それぞれ壱、弐、参とちょっと難しい漢字の数字が入っている。
その流れで行けば僕の名前には、四の字が入ってもおかしくないんだけど、四の字は死を連想して縁起が悪いということで「よん」の頭の音を取って好雄ってことになっている。でも結局名前をひらがなにしたら中に「し」の字が入っているのはどうなんだろうって思っている。
そして両親の名前は服多万寿夫に服多三千子という。よく考えるまでもなく僕以外の家族はみんな名前に数字が入っているのに、僕だけが違う。まあ、それはどうでもいい。
「名前も好雄ではなく、これからは好恵と呼んでください」
頭を下げたままそう言うと、僕は両親の反応を待った。1分経ち、2分経ち、そして5分も経った頃だろうか。まずはお母さんが深くため息をつくと僕に言った。
「好雄、いいえ、好恵と呼んだほうが良いのよね。好恵、頭を上げなさい。あなたが半年くらい前から髪の毛を切るのを嫌がって伸ばしていたのはそういうことだったのね。お母さん、気づいてあげられなくてごめんね」
そうしてお母さんは僕のしっかりと抱きしめてくれた。目もうるんでいたから涙もあふれそうだったのかもしれない。どうやら少なくともお母さんは僕の言うことを信じこんだみたい。実際には僕は女の子の服が着たいというよりも、新しい服が着れるならそれが女の子の服でも良いと思っているだけなんだけどね。
「お父さんとしてはいまひとつ納得できないところはあるが、好雄がそうしたいというなら反対はしない。ただひとつ条件がある。それは……」
苦悩の表情というか渋面というか、とにかくそんな顔をしたお父さんが僕に女の子の服を着るための条件を言おうとしたところでお母さんがツッコミを入れた。
「お父さん、好雄じゃなくて好恵ですよ」
「そ、そうか。じゃあ好恵」
どことなく恥ずかしそうに顔を赤らめるお父さん。
「はい」
「まだ、よ、好恵は小学生だから女の子の恰好をしても似合うだろう。だけどな。中学生にもなると男の子はだんだんと大人の男の体になってくる。そして女の子もだんだんと大人の女の体になってくる。つまり今は良くても数年もすれば、好恵も女の子の恰好が似合わなくなってくるはずだ」
お父さんはさも世の中の隠された真実を話しているという雰囲気だけど、そんなこと僕もちゃんと知っている。
「つまり、女の子の恰好が似合わなくなってきたら、女の子の服を着るのをやめなさいってこと?」
「ああ、そうだ」
「逆に言えば、似合っている間は女の子の恰好をしてもいいってこと?」
「まあ、そういうことになるかな」
お父さんとしては、いづれ僕が男として成長していけばどこかで女の子の恰好が似合わなくなると思っているんだろうね。でもそれは僕も承知している。僕の目的はおさがりじゃない新しい服を着ることであって、女の子の服を着るのは手段に過ぎないのだから。
「ありがとうお父さん」
「よかったわねえ。好恵。じゃあ、さっそく女の子の服を買いに行きましょうか?」
「え、良いの? お母さん」
「もちろんよ。じつはね、お母さん前から女の子が欲しかったのよ。なのに生まれてくるのは男の子ばっかり。でも好恵が女の子になりたいって言ってくれて、お母さんもうれしいな」
うーん、僕は女の子になりたいわけじゃなくて、新しい服が着れるなら女の子の服でもいいやと思っているだけなんだけど、まあいいか。
と、こういうわけで僕はその日から女の子の服を着るように、つまりは女装をするようになったんだけど……。
さすがに僕が女装をし始めたその日、三人の兄たちは驚いていたけど、女装した僕を否定することは無かった。やっぱり学校でも世の中にはLGBTとかそういった人たちがいるってことを習っているからかな。
だから最初は驚いていた兄たちも、一週間経ち、二週間経ち、そして一ヶ月もする頃には自然と僕を末の弟ではなくて、妹として見てくれるようになってきた。そうすると僕もだんだんとその気になってくる。
だって今までは末っ子だけど同じ男ということで兄弟同士のケンカでも容赦なくやられていたんだけど、『 妹 』という立場を得た僕は色々と優遇されるようになってきたからだ。まず、兄たちから僕はケンカの相手の対象外ということになった。むしろ兄たちからしたら僕は可愛がる対象へと変化したらしい。
まあ、なるべくかわいく媚を売ったからかもしれないけど。
それから兄たちは三人でひとつの子供部屋なのに、『 女の子 』ということで僕だけの子供部屋をもらうことができた。今までは一番上の兄と二番目の兄の二人でひとつの子供部屋。三番目の兄と僕でもうひとつの子供部屋を使っていたので、兄たちには悪いことをしたなとは思う。
それから服以外のおさがりが無くなったというのも大きい。例えばランドセルだ。僕が小学校に入学する時、一番上の壱琉兄さんは小学校を卒業していて中学一年生になっている。つまり壱琉兄さんのランドセルが僕におさがりとしてやってきていたのだ。なのに真弐兄さんも参彦兄さんも新しいランドセルを買ってもらっている。僕のランドセルだけがおさがりでずるいと思ってたわけ。
でも女の子用のランドセルが良いよね。ということで、新しいランドセルや筆箱をはじめとした文具も買ってくれたんだ。
それからおもちゃもおさがりばっかりだったのに、女の子向けならおもちゃだって新しいのを買ってくれるようになった。内心、女の子向けのおもちゃなんてと最初は思っていたけど、プ〇キュアのグッズなんかも集めだしたら意外とはまる自分がいてびっくりしちゃった。
とにかく前までは新しい服どころか何も新しいものを買ってくれなかったんだけど、今は僕のほうが、「そんなにお金を使って大丈夫なの?」と心配になってくるぐらいの勢いで色々と買ってくれる。
それはお母さんに限らず、実はお父さんもなんだ。口ではあんなことを言っていたけど、お父さんも実は娘が欲しかったみたい。女装した僕がお父さんに甘えると、お父さんもかなり嬉しそうにしているし。それから兄たちも。なんだろううちの家族たちってちょっと理解が良すぎるのかな。
そうそう、学校での反応もおおむね好評だった。自分で言うのもなんだけど、気合を入れてお母さんが仕上げてくれた僕の女装は、本当に本物の女の子にしか見えない出来だったし、間違っても気持ち悪いとか、似合わないとか言えないレベルだったのも大きいと思う。
いじめられることもなく、僕は三年生から女装を初め、小学校を卒業した後は、女子の制服を着て中学三年間を問題なく過ごした。そして僕は兄たちが行かなかった高校に合格した。
「ふふふ、これで高校では兄たちからおさがりの制服をもらう可能性はなくなったし、女装もそろそろ潮時かな?」
なんて思っていた時期が僕にもありました。
「なんでこうなった……」
自分の部屋の姿見の鏡の中には、4月から通うことになる高校の女子の制服を着た私の姿があった。
小学校三年生から中学三年生までの7年間、私は公私ともに女装で過ごしていた。服だけではなく下着もだ。しかもお母さんの指導で髪や肌のお手入れにも力を入れていたし、今では女装メイクも完璧で、スッピンだとさすがに男の子っぽくなってきたけどメイクすれば女の子にしか見えない。
女子に比べて骨盤が小さいといった男の子体形も、ボリュームアップパニエというものを使うことでスカートを着るとお尻のあたりがふっくらと膨らみ、なんとなく腰のくびれもあるように見えてくる。
もちろんブラジャーにパッドを入れて胸をそれなりに盛ったりもしている。盛りすぎると不自然になるので、あくまでもそれなりだけど。
さらには立ち居振る舞いも女の子に見えるように気を付けている。椅子に座るときに足を開くなんてことは絶対にしないし、手足を動かすときもコンパクトに動かすようにして雑な動きはしない。
そして背が大きく伸びすぎないように食事も腹八分目よりもさらにもう少し減らして腹七分目くらいで抑えていたからか、男子としては背が低いまま、女子の平均よりもやや高い身長にとどまっている。
「もしかして私、やりすぎちゃった?」
そう思ったのは中学3年生の頃だった。試しに家族が留守にしているときにお小遣いでこっそり買ってきた男性用の下着と服を着てみたんだけど、違和感が半端なかった。なにかこう女子が男装している感がすごくて、似合わなかった。
というわけで高校も女子の制服で通うことにしたのでした。
あ、そうそう自分のことを『 僕 』というのはとっくにやめて、今ではナチュラルに『 私 』と言っている。むしろ自分のこと『 僕 』とか『 俺 』というのは恥ずかしくてできない。
「好恵ちゃん、もう制服に着替えたのかしら」
ドアをノックしてから入ってきたのはお母さんだ。
「うん、どうかな似合ってる?」
「もちろんよ。さすが私の娘ね。ばっちり似合ってるわよ。ふふ、男の子たちが黙っていないかもね」
お母さんは私が女の子になりたがっていると誤解したままなので、こういう言い方ですぐに私をからかってくる。
「いやだ、そんなんじゃないんだから」
明るくそう返しながら、私は心の中でまたつぶやいていた。本当、なんでこうなった。ただ私は服のおさがりを拒否していただけなのに。
こうして私の年季が入った女装高校生生活が始まるのでした。
もともとはTS(性転換)ものが好きなんだけど、最近は女装や男の娘ものも好きになってきていたりします。例によっていろいろ他の作品を読んでいるうちに自分でも書きたくなってきたという次第。もちろんノープロットなので、この先どうなるかは私にもわからないのです。だからこそ楽しい。……のかな。
2022年3月10日追記
投稿時の本文に下記のような文章がありました。
》 それから服以外のおさがりも無くなったというのも大きい。三番目の参彦兄さんが使っているランドセルは一番目の壱琉兄さんのもので、僕が使っていたのは二番目の真弐兄さんのものだったんだけど、新しいランドセルや筆箱をはじめとした文具も買ってくれたんだ。
この文章、よく考えたら計算が合いません。というわけで、下記のように訂正しました。
》 それから服以外のおさがりが無くなったというのも大きい。例えばランドセルだ。僕が小学校に入学する時、一番上の壱琉兄さんは小学校を卒業していて中学一年生になっている。つまり壱琉兄さんのランドセルが僕におさがりとしてやってきていたのだ。なのに真弐兄さんも参彦兄さんも新しいランドセルを買ってもらっている。僕のランドセルだけがおさがりでずるいと思ってたわけ。
》 でも女の子用のランドセルが良いよね。ということで、新しいランドセルや筆箱をはじめとした文具も買ってくれたんだ。
やっぱり勢いだけで書くとこういう点でミスしたりしますね。反省。