人対まがい物の戦い
ある日、この世は一変した。
街一つを覆うほど大きな黒い鳥かご。
数年前、突如として表れた、この黒の世界に冠していくつかの言い伝えが世の中を賑わせている。
①絶対に入るな。足を踏み入れれば、帰ってこれない。
②絶対に開けるな。そこには、開けてはいけない黒い箱が存在する。
③絶対に近づくな。黒い箱を開けてしまった者へ近づくな、さもなければ-。
穏やかな春の日が恋しくなるこの季節。
猿東高等学校に通う、津城 鑑と森 大輔は一つの話題で持ちきりであった。
「なあ、かがみ。やっぱり行ってみないか?黒い都市伝説を確かめに」
「行かねえよ。本当に、帰れなくなったらどうするんだよ?」
鑑はいつものように、大輔の冗談交じりの話を軽く受け流す。
鑑にとって、必要以上に他人に干渉しない、させないことは何よりも大事なことであった。
「なんでだよ~。お前ビビってんのか?」
「違えよ。俺はただリスクの高い選択肢を取るのが嫌いなのさ。今の時代、省エネ運転が主流だろ」
「頼むよ!一生のお願いだ」
「だからいやだって」
このやり取りを半刻繰り返した後、最後には鑑が折れる形で隣街へ向かうことにした。
「ここが先週、黒い鳥かごに覆われた街か」
「お、かがみ。なんだかんだやる気じゃんか」
「少し、思うところがあってな」
大輔は鑑の意味ありげな発言に若干の違和感を覚えたが、すぐにどうでも良くなった。
「まあ、とりあえず入ってみようぜ」
百聞は一見に如かず。この言葉を皮切りに、二人は不気味な街を探索し始めた。
町はいたって通常の風景を保っていた。
「なんだ、やっぱり、ただの都市伝説か~」
大輔は落胆し、わざと鑑にも聞こえる大きさの溜息をついた。
「ほら、何もなかっただろ。早く帰ろ」
「ああ、そうだ・・・」
「ぱく」
大輔が最後の言葉を発しようとした瞬間、この世のものとは思えない異形なバケモノに一飲みにされた。
「あああああ」
鑑は急いで街を出ようとするも、別方向から出てきたバケモノに阻まれる。
「なんだよ。ここ」
それは地獄の始まりだった。
これは一人の少年の悲惨な物語。
人間とまがい物との争いの一部始終だ。
①絶対に入るな。足を踏み入れれば、帰ってこれない。