9話 腹を決める
明るくなり始めた夜明けの頃だった。
バードは起きてたようでおはようの一言の後に本当に人前でやるのかなど聞いてきた。俺はバードの聞いたことに逐一答え続けバードもやっと落ち着いてきた。
『ああ、そうだ。あと次に泣き言言ったり言う事聞かなかったらまた眠らすからな』
『うう分かりました…』
こうしてバードの詩人としてのデビューをさせる練習が始まった。
練習と言っても技術的には問題ないくらいにはなっているから人前での心構えや詩を教えるぐらいしかやる事は無い。
『なぁバードお前はどんな詩を詠うつもりだ?』
『それが全く思いつかないんですよね』
バードは少々困っているようだ。まあ仕方ないかここは少し助け船でも出そう。
『詩以前の話なんだがな。お前はどうして俺に詩を教えて貰いたいって思った?いわばお前の原点だ』
『原点ですか?…それは僕とバリードさんが初めて会ったときに見せて貰ったのがそれでとても綺麗だったから、だと思います』
困惑しながらだがしっかり答えを出せたようだ。
『いいか、それが大事なんだ。何かを始めようと思ったきっかけ、それが指針になったりするから常にそれを考えてなくちゃいけない』
『…?つまりはなんなんですか?』
『つまり今お前が出した原点ってのがお前の作風に繋がるんじゃないか?俺の詩は人や紀行を題材としたものなら、お前は人に自分が見たものの美しさや綺麗さを伝えれる詩を作るみたいな事だ。さらに言うとお前は外の人間が望んで止まなかった村での経験がある。それを言葉にするだけでも人は惹きつかられるんじゃないか?』
『自分が見たものを伝える、村での経験…。!何かしっかりきました。少し詩を考えてもいいでしょうか!』
そういうとバードは腕を組み目を瞑り考え始めてしまった。
『って待て待て!こういうのは書いてる途中に思ったこともしっかりメモするんだ。ほらこれ!』
バードにある小包を渡す。
『こ、これは…?』
バードは小包を開けて中のものを手に取る。
『手帳…ですか?』
『あぁ、詩人ならこういうのは一つや二つ持っとかないとな。まぁなんだ?プレゼントだ。しっかり役立てろよ』
『ありがとうございます!大事にしますね!』
こうしてバードの作詩が始まった。バードは一通り書いては旋律を奏でて、首を傾げるを繰り返していた。問題なく進んでいるのだろう。
そうこうしているうちに日が傾き始めた。
『よしバード今日は戻ろうか』
『分かりました』
俺らは支度をし、また門の所まで戻ってきた。宿屋へ向かおうとしていると誰かに声をかけられた。
『おーい!そこの詩人さん!』
そこには門を守っているであろう大楯を持った門兵がいた。
『あ、どうもこんばんは』
やばい…またなんかしでかしちまったか?二日連続で門兵に止められるとか怖すぎるんだが
『昨日の詩聞いたよ!旅の詩人って凄い腕前だねぇ!』
ん?あ、ただ褒めてくれただけだ。よかった。
『楽しんでもらえたようで嬉しいです。また機会があれば聞いて下さいね』
『あ!待って待って今日外でなにしてたの?』
『外ではこの子の詩の練習をさせてましたよ。宿じゃ響いて苦情が来そうなんでね』
『あ、そうなんだ。いやあのねこの辺って、魔獣があんまり出ないとこで安全だったんだけど昨日からね、普段より多く見えるようになったから気をつけてねって言いたかったんだ』
『へぇ魔獣が増えたんですか…ちょっと怖いですね』
『そうだ!明日も外に出るならやこの付近でやったりしないか?何かあっても僕が助けに行けるし、僕が詩を聞けるし。うん、いいねそうしよう。明日僕は朝からいるからね気軽に声かけてよ』
門兵は優しい声とは裏腹にもの凄い剣幕でそう提案するものだから何か悪いことをしてしまったのかと思ってしまう。
『ま、まぁ安全第一ですもんね…』
待ってこれ…昨日から増え始めた魔獣と昨日きた旅人に何か関係があるとか疑われたりするんじゃ…ま、まぁ流石に杞憂だよな。
『あ、名乗り忘れたね。僕の名はジェイス。明日からよろしく頼むよ』
翌日俺らはジェイスの言う通りに門の付近で詩を考えていた。
魔獣が出ると言っても流石にここには来ないだろうな。そう思いつつ詩を考えていた。
そして暫く経った頃、俺らがいる草原の先にある薮から何か物音がした。
『バリードさん今…』
『お前も聞こえたのか、気のせいかと思いたかったんだが…魔獣かも知れない一応準備しとけ』
『は、はい!』
二人して迎撃の用意をする。音は次第にハッキリ聞こえてきた、ガサガサと音は存在感を示す。藪の方に何かあるのは間違いない。いつ来るかと身構えていた最中突如藪の何かは俺たちに飛びかかってきた。
『、、、あれ?どしたの?二人とも』
薮から出てきたのはかの門兵、ジェイスだった。
『あはは、ごめんごめん。付近の見回りをしてたんだ。そしたら二人ともすごく驚いちゃってて、』
腹抱えて笑いやがって…腹立つわー
『それはそうとその子、バード君って君の子なの?』
腹を抱えて笑うそいつは突然とんでもない事を聞いてきた。
『違う。俺らは師弟の関係だ』
『んんん?尚更気になるんだけどバード君の親御さんは旅に出しちゃっても良かったの?明らかに危険だらけな気がするけども』
ジェイスにその質問は深い意味はないのだろう。ただ、気になったから聞く。そんな単純な思考なのだろう。だがよりにもよってバードの前で聞いてくるとは…
『…』
沈黙だった。俺はどう答えたら良いのか。答えない方がいいのか迷っていた。
『死んじゃったんです。両親。僕にも故郷はあったんですけどどうにも周りには嫌われちゃってて引き取り手もいなかったんですよ。そんな僕をバリードさんが助けてくれたんです』
バードは淡々とそう言った。
『あ、その…ごめん!興奮しすぎた。無理に言わせる感じにしてしまって本当に、ごめんなさい』
ジェイスの雰囲気は一気に変わりさっきの様なウザ絡みをする感じではなくなった。
『あ、全然大丈夫ですよ!僕今が楽しいんです!』
バードは必死で繕うがさっきの様な雰囲気は無くなってしまった。
『そうだ。作詞も途中でしたし早く考えましょう』
『…あぁ』
そうして俺らは作詞に戻る。暫くはジェイスもそばにいたのだがそのうち消えそうな声ですまないと言って門へ戻って行ってしまった。
『そのバード?ジェイスも悪g『─分かってます。そんなつもりはなかったって事は。でも自分で話すと少し寂しくなっちゃいますね』
やや食い気味な一言は少し悲しく感じた。
ジェイスさんは前々から出したかったキャラっす。今後に期待してね!