入部届の行方
朝八時。
エリが学校に着くと、速水が廊下にいた。
エリが「おはよー」と言うと、「うん」とだけ返して、一枚のプリントを渡した。
「入部してくれるんだね!」エリは手渡された入部届を見て、目を見開いた。
そんなエリを見て、速水は喉の奥がかゆくなったが、いつもと同じ声で話した。
「俺、入部はしないことにする」
「えっ、そんな……」
エリの顔は暗転する。
「天文部の雰囲気はとてもいいと思ったんだけど、これから塾とか行かないといけなくなるから、やっぱり部活には入らないことにするよ」
「でも、秋人センパイとか、週に一日だけだし、これる日だけでも大丈夫だよ」
エリの眉は八の字になって、瞳は潤んでいる。
「ごめん。先輩にもそう伝えておいてくれるかな」
「うん……」
まだほとんど生徒のいない一年生フロアの廊下は速水に、この世界にエリと速水しか存在しないような感覚にした。だが、それがただの錯覚であるのことを、速水は知っている。
「俺さ、気づいたんだ」
「何に?」
「いや、俺もわからない」
速水はエリに、入部届の処分を頼んで、自分の教室へと帰った。
教室に入るまでずっと、速水は自分の背中にエリのまなざしを感じていた。
『いや、これも錯覚かな』




