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弱小天文部員、星野エリの放課後  作者: プリン田中
22/40

速水、エリ、更科、小林、沢口。眠前のそれぞれ

 速水は自室のカレンダーをぼんやり眺めていた。

 

 明日が天文部の活動日であることは知っていた。エリから、月曜と火曜と木曜が活動日だという話を前に聞いていたからだ。


「明日か」

 十月の下旬に入部する一年生というのも、なかなか珍しいだろうなと速水は自分でも思うのだが、特に気にはしていなかった。

 

 速水はエリのことが好きだ。

 

 ありきたりな話だが、文化祭実行委員で一緒に過ごしているうちに、速水は自分の気持ちに気づいたのだった。エリのぱっと花が咲いたような笑顔に魅かれて、速水は恋の矢に自分から射られにいった。

 

 速水は自分で自分のことを馬鹿だと思うくらい、エリのことばかり考えていて、少しでも長く一緒にいたいと思っている。天文部に入部する理由も、百パーセント、エリの存在である。天文部にはエリのほかにも四人の部員がいるらしいが、いずれも二年生であるため、遅くとも今年度中には引退する。たとえ馬が合わなくとも、あと少し辛抱だ。

 

 我ながらおぞましい考えだな、と速水は思ったが、興奮して目はばっちり冴えている。

 時計を見ると、まだ十時だったので、速水は入学式の日にもらった部活動一覧の冊子を探した。


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 エリは動揺していた。

 雑賀からのメールに、にわかに信じ難いことが書かれていたのだ。


『エリちゃんに今すぐ会いたい! エリちゃん大好き(はあと)』

 

 雑賀はエリのことをちゃん付けで呼ぶが、このメールのような甘ったるい文面は、残念ながら送らない。

 

  エリは、更科が雑賀と同じ予備校に通っていることを思い出すと、とたんに心は静まり返った。このメールはおそらく、いや絶対に、更科が書いたものだとエリは確信した。

 だが、無視するのももったいないので、エリは雑賀が焦ってしまうようなメールと打とうと思い立ったのだった。


 エリはいくつかの方法を思いついた。

一、雑賀からのメールを真に受けたとみせかけて、こちらの好意をほのめかす。

二、雑賀からのメールを偽物と認識している体で、もし本物だったら嬉しかったのに、  

とさりげなく伝える。

三、雑賀からのメールを偽者と認識している体で、送られたメールの本文を転用し、  

名前の部分を「エリちゃん」から「雑賀センパイ」に代える。

 沈思黙考。

 

 エリは選択肢三を選ぶことにした。

『雑賀センパイに今すぐ会いたい! 雑賀センパイ大好き(はあと)』

 送信。

 自分で文を考えたわけではないが、エリは自室のベッドの中で悶えていた。


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 更科は帰宅すると、真っ先にシャワーを浴びた。

 自慢のシックスパックも今は休め時。全身の力を抜いて、今日一日の疲れを癒すのだった。


 更科こだわりのシャンプーを泡立てながら、新入部員のことを考えた。

『この時期にわざわざ魅力ゼロの天文部に入るってことは、まあ、誰か目当てだろうな。』

 泡だったシャンプーで、頭皮から毛先まで丁寧に洗う。

『でも、あと半年で引退する二年生を追いかけてっていうのは、まあ無いだろうから、やぱりエリ目当てか。邪魔な二年もすぐ引退するって算段か』


 泡をシャワーでゆすいで、ついでに頭皮マッサージをする。

『女子かなー、男子かなー。でも正直、男だったらそいつ、かなりヤバい奴だよな。だって、部室でエリと二人っきりっていうのを狙ってるってことでしょ?』

 泡ででてくるボディーソープのボトルをプッシュして全身を洗う。

『雑賀がどうでるか――』

 

 シャワーで全身の泡を流して、湯船に浸かる。

『あいつもそろそろ年貢の納め時だよな。今日はあんなに怒ってたけど、どうせ奴だって俺と同じようなことをしてるんだから』

 浴室内にもわもわと白い湯気が充満していた。


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 小林は、敷布団の中で等身大の抱き枕を脚に挟んで、ニヤニヤしていた。

『明日はエリの恋バナで決定! あの彼氏のこと、根掘り葉掘り聞いちゃうから。彼、かなりイケメンだったよな~。何部なんだろう。水泳っぽいかな。まあ、明日には分かるけど!』

 

 敷布団の近くに置いてある卓上時計を見て、早く明日にならないかと小林はそわそわしていた。

『あ、でも、宙はエリのこと好きっぽかったけど、どうなんだろ。まあ、宙の性格からして、告白とかムリだから、仕方ないか。幼馴染のよしみで少し泣いてあげるよ、ぐすん』


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 沢口はラッピングを終えて、完成したマカロンをしげしげと眺めていた。


『これが明日にはみんなのお腹の中へ入るのね。ふふふ。なんだか変な感じ』

 フランボワーズショコラとレモンの三種類が入った、半透明の袋は、どれも青いリボンで口を結ってある。沢口は天文部らしく、リボンを青にした。

 恐らく、そこに気づいてくれるのは更科くんだけだろうなと思った。更科はたいていのことにおいては、がさつだが、どうでも良いことにはよく気づく人である。


『そうだ! みんなにメッセージカードも書きましょう!』

 沢口は、手のひらサイズのメッセージカードに一言ずつ書いて、リボンにくくりつけた。

『真紀ちゃんには(ありがとう)エリちゃんには(大好き)更科くんには(ほどほどにね)雑賀くんには(ファイト)』


 大きな紙袋に四つの袋をひとまとめに入れて、沢口は自室のベッドに入った。

『雑賀くんがエリちゃんのことを好きなのはもう、周知の事実なのだけれど。私としてはなんとしても、雑賀くんの口から聞きたいのよね。エリちゃんが好きって。それ聞いただけで私、ご飯三杯はいけるわ』


 枕元に置いておいた携帯をふと見ると、メールの着信があった。

『真紀ちゃん?』



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