1話 日常、そして…
「いらっしゃいませ、奥のカウンターへどうぞ」
俺、橘ミナトが働いているBAR「ルータス」は今日もいろんな職種の人で賑わっている
どっかの社長さん〔自称}、サラリーマン、キャバ嬢、フリーターや、同業の人も来たりする。
うちの店は、そういったお客さんたちが一緒にカラオケしたり、ダーツをしたりと、壁を作らずバカ騒ぎ出来るような店だ。
「ミナトくん、今日全然飲んでないな!二日酔いかい?」
キープボトルを抱えながらふらふらした足取りでそう言ったのは、先ほど例で出したどっかの社長さんだ。
「社長がもうベロンベロンだから遠慮してるんですよ」
呆れてため息をつきながらそっとチェイサーを差し出す。
社長はグラスを手に取り、飲もうとするが、ほとんど口からこぼれて服がびしょびしょになってしまっている。
「社長!きったないなもう!今日はもう帰りましょ!他のお客さんに迷惑になるから!」
「うぅ…すまんなぁ…」
「ちょっと社長タクシー乗せてくるから店よろしくね」
「らじゃッス!!」
後輩に店内の事を頼んで、社長に肩を貸し店を出る。
ありがたいことにこの町は夜の繁華街としてかなり有名でタクシーを拾うことに困らない。
唯一困っていることは社長が割と恰幅がよく、肩を貸しているだけでも重くてしんどいことだ。
「よいしょ…っと!」
社長を何とかタクシーに乗せた。
「運転手さんすいませんね、お願いします。ほら社長、住所言えます?」
「んぁぁ…ええっと、○○区…」
タクシーが角を曲がり見えなくなるまで見送る。
「ふぅ…」
なんか、どっと疲れた。社長の脂肪がまだ肩に乗っているんじゃなかろうか
「コーヒーでも飲んで戻るかな…」
お見送りついでに一服しよう。近くの自販機であったか~い缶コーヒーを買い、ガードレールに腰掛けた。
「はぁ…」
白くなる息を見ながら、あれ?俺今日ため息つきすぎじゃね?なんてどうでもいいことを考える。
この店を始めて三年半、今では雇われだが店長にまでなったし、付き合いの長いお客さんも多くて居心地の良い環境だ。
これといった不満もない。
「不満はないんだけどなぁ…」
だけど、満足もしていない。
何かやりたいことがあるわけでもないんだけど、漠然とした使命感というか、俺の本当にしたいことはこれじゃないと思ってしまっている。
…だからって何か行動するわけじゃないんだけどね。
「…そろそろ戻るか」
残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
その瞬間。
足元がいきなり光り出し、そこから白く光る管のようなものが螺旋を描くように立ち昇り俺の体にまとわりついていく。
逃げようにも体は指一本動かず、手に持っている缶コーヒーを離す事さえできない。
何が起きているかわからないまま、俺の意識はあっという間に白光の中に飲まれてしまった。