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そもそも最強の戦艦とは、何なのか


 俺は考えた挙句、とりあえず、マリエアの言う事は保留にした。

 どこまで信じていいのか判断がつかないからだ。

 特にワープドライブの設計図。これが本物かどうかなんて、専門外の俺では判断できるわけがない。


 わからない事があったら、わかる人に聞けばいい。 

 ……ということで、ジャゴンに聞いてみる事にした。

 ジャゴンが乗った輸送船が来るタイミングを待って、メールで簡単に状況を説明し、呼び出す。


「また女の子が増えてる……」


 やってきたジャゴンは、マリエアを見て呆れたように言う。

 また? 一回目だぞ? 誰視点の判断だよ。


「それにしても、大丈夫なんですか? なんか、ここに来るまで通路が随分ゴチャゴチャしてましたけど」

「それは仕方ないんだ」


 大佐に司令部の建設を提案した時は、まさか二つ返事で許可がもらえるとは思わなかった。

 そこから時間内に用意できるスペースに、必要な物を詰め込むしかなかった。

 農場と倉庫は維持しつつ、居住区と食品加工場を作り、大規模な駅を置けるスペースを確保したうえで、司令部を設置する。

 結果、六個のブロックの内訳はこうなった。


・農場・倉庫・駅

 ・  ・  ・

・加工・居住・その他


 この「その他」の部分に、司令部とスパコンと足りなかった倉庫を含む、あれやこれやが放り込まれることになった。

 しかも俺たちがいるフロアの下には、発電機と浄水場と下水処理場まである。

 こういうカオスが生み出されるのを防ぐための建築スキルだったのに……。

 ほかの建築スキル持ちが見たら、どんな顔をするだろう。


 まあ、作ってしまった物は仕方ない。

 どうにかして運用しつつ、引っ越しの時までごまかすだけだ。


 倉庫の片隅に確保した作業部屋。ここにはある程度の居住設備と、マリエア用ストレージを置いてある。

 ここに置いたのは、スパコンとの物理距離が近い方がいいからだ。あんまり配線を伸ばすとバレやすくなるからな。


 ジャゴンは俺が勧めたソファーに座る。


「それで、わざわざリアルで会わないと、見せられない物ってなんですか?」

「大まかには説明しただろ。まあ、これなんだが……」


 俺は、端末を渡す。画面にはマリエアが呼び出した、最新のワープドライブの設計図、だかなんだかが表示されている。

 本物なのかどうなのか頑張って調べたのだが、専門外の俺では、何が何だかわからなかった。


 ジャゴンは、しばらくその設計図を眺めていたが、俺の方をいぶかしげに見る。


「これは……ワープドライブの設計図、のように見えますが……どこで手に入れたんですか?」

「マリエアが、持ってきた。俺にもよくわからないんだが、今はそう言う事にしておいてくれ」

「そうですか……。これ、バージョンはわかります?」

「バージョン? ええと、マリエア?」

「バージョンは、V4.256.14ですー」


 部屋の端の方で、イオーサとボードゲームをしていたマリエアが答える。

 ジャゴンは首をかしげる。


「設計図が公開されているのは、V4.250までです。噂では、V4.255が完成目前と言われていますね」

「待て待て。おかしいだろ。それだと最新版は256じゃなくて、255なんじゃないか?」

「そのはずです」


 意味が解らない。

 現時点では存在するわけがない物ではないか。


「一応、255が完成する前に、256の開発は始まっているはずです」

「そういうものか?」

「……ただし、その設計図があるとしても、研究施設の中だけの極秘資料でしょう。これが本物だとしたら、大変な事ですよ」

「そうか……」


 なんとなくヤバそうな気がしたので、設計図はこの部屋から出さなかったのだが、その判断は正しかったようだ。

 マリエアの事も、もう誰にも相談できなくなった。

 どうすんだこれ。



 その後も、いろいろ話し込んでいたら、ずいぶん時間が過ぎてしまった。

 腹もすいてきたので、ピザを取り寄せ、全員で食べる。


「これ、おいしいですね」

「司令部付きの食堂から直接取り寄せてるんだ。あそこには専用のピザ窯があってな……」


 実に金がかかっている。仕事が追い詰められてくると、食事ぐらいでしかモチベーションを上げる事ができないからな。


「結局、設計図はどうしたらいいと思う?」


 俺が聞くとジャゴンは首を横に振る。


「他人に見せるわけにはいきませんからね。偽物だったならともかく、本物だったらまずいですよ」

「軍の最高機密だからな……」


 俺の所から機密が流出! なんてことになったら笑えない。


「いっそ、実際に組み立てて、テストしてみたらわかるんじゃないですか?」

「無茶言うなよ」

「もし実験するなら、無人で、あと、10億キロ以内に誰もいない場所でやってくださいね」

「やらないよ。そんな予算は俺のポケットマネーから出せない」


 いくらかかると思っているんだ、と言いかけてからふと考える。

 待てよ?

 計画では、いずれはワープドライブの製造施設だって作る事になっている。その時はテスト生産でいくつか作ることになるから、その時に……

 ……いや、ダメだな。得体の知れない設計図でテストしてどうする。

 もしそれで失敗したら? 誰の責任になる? 俺か?

 論外だな。

 やはり、見なかったことにするしかない。


 ピザのチーズを伸ばして食べていたマリエアが、話に割り込んでくる。


「あのー、最強の宇宙戦艦は作らないんですかー」

「最強の宇宙戦艦? 何それ?」


 ジャゴンが食いついた。マリエアは、ニコニコ笑う。


「最強は、最強ですよ。どんなふうにして最強にするのかは、あなた達で考えてくださーい」

「えー。そこが聞きたかったのに……」


 ジャゴンは言ってから、すぐに気づく。


「あ、でも、軍の最新の設計図すら手に入るなら、夢みたいな仕様書から、そのまま設計図が描けますね。そしてこの基地の造船所が完成したら実際に作成すると……」

「いやいや、夢物語にも程があるだろう」


 軍の最新の設計図だから何だと言うのか。


 現在の技術で不可能な物は不可能だ。なんでもできるわけじゃない。

 それに、今はまだ、ごまかせる範囲でやっているが、勝手に宇宙戦艦なんか建造したら、絶対にバレる。

 運用するスタッフだって必要だ。どうやって集める?

 そして、そもそも何に使う?


「まあ、夢は夢でいいでしょう。……そもそも最強って、なんですかね」

「最強ねぇ……」


 最強の宇宙戦艦。

 きっと、今も宇宙のあちこちで、誰かがそんな話をしている。

 そして答えは永遠に出ない。


 俺は艦隊戦シミュレーターを思い浮かべる。

 ワープドライブのような物を使って、陣形を一瞬で変更……いや、全部巨大艦で解決できるか。ダメだな。


「やっぱり火力だな。敵の戦艦を一撃で沈める火力があれば、大体の状況では勝てる」

「なら、俺はシールド押しです。どんな攻撃でも防げるシールドがあれば、攻撃力を上げても意味がないですよ」


 最強の鉾と最強の盾か。

 俺とジャゴンは、ちらりとイオーサの方を見る。イオーサはどちら派なのか。

 イオーサはコーラを飲んでいたが、はぁ、とため息をつく。

 そもそも、このロマンがわからないタイプのようだ。


「シールドは、技術の限界があるんじゃないの?」

「あるな。じゃあ火力の方は、限界がないと思うか?」


 俺が聞いてみると、イオーサは数秒考えた後、言葉を絞り出すように答える。


「え、だって……レーザー砲を、100本集めて同時に撃てば、ダメージは100倍に……ならないかな?」

「なるぞ。しかし、それだと……最強の戦艦は、ブラッドノーチラスの上位互換、という事になるが、いいのか?」

「アレは実際、強かったでしょ。操ってるのがアホだったから逃げきれただけで」

「アホって……まあ、アホではあったが……」


 優秀な人間が運用したら、例えばノーラが艦長だったら違ったか?

 そうだな。何をして来るかわからん奴が乗った船を、船内に格納したりはしないな。


「つまり、巨大艦を運用できる大型のワープドライブこそが、最強の宇宙戦艦の要、という事になりますね」


 ジャゴンがまとめた。

 この議論の、ありがちな結論の一つだ。

 しかし、俺は納得いかない。巨大艦が最強だなんて、面白くもなんともない。


「考えて見ろ? 巨大化だって、限度があると言われているだろう」


 例えば、全長が4倍になれば、体積は64倍。つまり発電機とバッテリーも64倍詰め込める。

 それが64倍の火力に繋がる、ということになっている。

 実際には、発熱も64倍だ。そして表面積は16倍。

 つまり、放熱効率は四分の一。


 巨大化が進めば、宇宙戦艦は、最終的には自身のエネルギーに耐えられなくなって、オーバーヒートする。

 全長4000メートルは、その限界を超えているとも言われていた。

 発電機の小型化が進めば、この限界はさらに小さくなっていく。


 これは巨大艦が弱くなるのではない、小型艦が強くなるのだ。

 巨大艦では、その技術的な成長速度に追いつけない。

 いずれ、1000メートル級の戦艦が、名実ともに最強になる日が来る。


「という事は、最強の鍵は、ラジエーターの強化ですね。どれだけ発電しても熱に耐えきれる船。これが最強です」


 ジャゴンが言う。


「いやいや。表面積の限界は、放熱だけじゃないぞ。武装も旋回用のスラスターも表面に並べる物だ。かと言って、やりすぎると装甲が犠牲になる」

「ああ、よく言われますね。表面積の限界……どうしたらいいんでしょうねぇ」


 俺たちが話し合っていると、イオーサが急に顔を上げた。


「わかった、ドローンだ!」

「え?」「え?」「……」


 俺とジャゴンは困惑。

 マリエアは無言。興味がないようだ。


「武器を本体から切り離せば、表面積も放熱も関係ないじゃん! でしょ? つまり宇宙戦艦並みの攻撃力と防御力があるドローンを作れば、そのドローン空母が最強になる、違う?」


 イオーサは熱弁をふるう。

 いや、何も違わない。

 俺とジャゴンが固まったのは、意味が解らなかったからではない。

 むしろ、よくわかる、というか、だいたいの場合、この議論の最終結論として扱われる、よく聞き知ったアイディア。それがイオーサの口から出てきたから驚いただけだ。


「おまえ、いきなりヤバい方に行くなぁ」

「理屈は合ってるんですけどねぇ……」


 実際、戦艦ランキングの上の方には、そういうのも多いらしい。

 そんなの、もはや戦艦じゃない、ただの装甲空母だ。

 いいのかよ。



ファンネル大量乗せのモビルアーマーが一番強いって、偉い人が言ってた


……偉い人ではなかったか?

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