表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/30

スパコン設置要求


 基地建設が始まってから、一か月が過ぎた。


「ふっふふーん、ふっふふーん」


 俺の目の前では、学生服を来たマリエアが上機嫌でぐるぐる回っている。

 踊っているつもりなのかな。


 ここは倉庫。

 輸送船から降ろしたコンテナが、所狭しと積み上げられている一角に部屋があって、俺たちはそこを仮の拠点としていた。


 とにかく倉庫は作ったので、輸送船のコンテナは全部降ろした。

 そして、マリリノスにある何隻かの輸送船と護衛艦隊がローテーションを組んで、コンテナを運んでいる。


 マリリノスの司令部は、ブラッドノーチラスが出た事を重く受け止めていて厳重な警戒態勢が敷かれている。

 おかげで、今の所、海賊被害は出ていない。


 そして、今日も荷物が届いた。

 倉庫が足りなくなったので、農場に使おうと思っていた部屋の一つを倉庫に変えた。

 それがここだ。


 荷物の中には、注文しておいた生活雑貨もあって、その中に、マリエアの服も含まれていた。

 着替えを持ってないとか言い出したからな。

 っていうか、なんでマリエア担当は俺になってしまったんだろう? 地味に意味が解らない。


 イオーサも新しく届いたセーターを着こんで嬉しそうだった。

 俺の隣に座り、端末を覗き込んでくる。


「それで、次は何をつくるの?」

「それが問題だな」


 そもそも、農場連打タイムが終わっていない。

 作業用ロボットは、外側の箱と内装までは作ってくれる。

 しかし、空気がないと植物も生きられない。

 今は、農場と言う名前の、真空の箱が並んでいるだけだ。


 この問題を解消するまでには、あと一か月はかかるだろう。

 待ちさえすれば、問題は解決するんだが。


「やっぱり農場が完成した時に備えて、作物の倉庫と加工工場かな」

「これは完成品が缶詰で出てくるの?」

「そうだな。ということは、金属は確保できているからいいとしても、空の缶詰を作る必要があるな」


 缶詰工場、一セット。

 たぶん、妥当な判断だ。大佐も文句は言うまい。

 だが、マリエアが首を突っ込んでくる。


「私はスパコンが欲しいです」

「いや、それはちょっと」

「今日届いた貨物の中にあるの、知ってますよ! 早速設置しましょう!」


 何で知ってるんだ?

 いや、横から見てればわかるか? 積み荷のリストなんて、特に隠すような物でもないし……。


「スパコンは後だ。要望があっても、他のにしてくれ」

「なんでですか! 私がいてスパコンがないなんて、宝の持ち腐れですよ」


 そもそも、スパコンで何をする気なのかしらないが、これは軍の備品だ。

 私物化させるわけにはいかない。


「いいか? このスパコンは、艦隊指揮のために使う物だ。数千隻の宇宙戦艦が盤面に出ているような状況だと、ヴィジャボードも高性能の演算装置が必要になるからな」

「知ってます。基地の防衛に必要になるんですよね。今すぐ設置しましょう」

「これを設置するという事は、司令部の位置を確定するに等しい」


 スパコンは、できれば司令部の直下に置きたい。

 別の場所に置く理由がないからだ。片方がやられた時点でもう片方が無用の長物になるので、リスク分散にすらならない。


「じゃあ、司令部の位置を今決めましょう」

「大佐の許可がいる。時期尚早と言うだろう。俺も同じ意見だ」

「そんなぁ……作ってくださいよぉ」


 マリエアは俺の肩を掴んでぐらぐら揺らす。

 力が足りなくて自分の方が揺れていたが。


「……俺を説得しようとするな。大佐を説得できなきゃ意味がない」

「えーと、敵が攻めてきたら、どうするんですか?」

「今は必要ない」

「敵が攻めてこないって言うんですか? どうして?」

「違う。仮に攻めてきても、今は使わない。なぜなら、ここには数千隻の宇宙戦艦がない」


 基地がある程度完成するまでは、駐留部隊も増えない。

 艦隊二つ分だったら、ノーラの旗艦で指示を出せば済む。

 よって現状、スパコンは設置する必要がない。


「でも、作るんですよね? 居住区と缶詰工場の次でいいです。スパコンを……」

「司令部の位置は慎重に決めないといけないんだ」


 スパコンだけおいて、司令部を置かないと言う判断はない。

 司令部を建設して、最後にスパコンを置くことになる。


「司令部は、人の出入りが多くなる。つまり交通の要所だ。この規模の宇宙ステーションだと、車や列車で移動する事になる。つまり、中央駅の設置が必須となる」

「中央駅?」

「そうだ。ステーション全体の形が確定しないと、交通網も作れない」

「もしかして、交通網が作れないと司令部も作れない?」

「そうだ。まだ先の話だな」


 実際には、運用しながら増築していくので、効率よい形に作れるとは限らないのだが……。

 そこをなんとか理想に近づけるのが、建築スキルの見せ場だ。

 イオーサが小声でつぶやく。


「……ステーションの中にステーション」

「言葉の綾だ」


 俺は立ち上がる。


「缶詰工場の設置という事で、大佐にかけあってくる。スパコンは諦めろ」

「あ、あのさ、ロッセル……」


 イオーサが、遠慮がちに言う。


「これって、アレだよね?」


 画面に表示されているのはヴィジャボード。


「ああ。艦隊戦シミュレーター室のための物だな」

「この部屋も、作るの?」

「なんだ、おまえもおねだりか……」

「いや、別に、今すぐじゃなくてもいいんだけど……。作るなら、またやってみたいな、と思って……」

「確かに、あの決闘は楽しかったよな。あ、でもなぁ……」

「何?」


 俺はこれを言ってもいいかどうか、迷う。

 いや、言わないわけにはいかないのだが。


「艦隊戦シミュレーターを動かすためには、スパコンが必要なんだ」


 言ったとたん、マリエアが飛び跳ねる。


「ほらほら、スパコン賛成派が増えましたよ」

「え? 私はまだ何も……」


 イオーサは勝手に話に巻き込まれて困惑している。


「だから、司令部の設置はまだ早いんだが……」

「そんなの、後で引っ越せばいいんですよ!」

「簡単に言ってくれるな。誰がそのつじつま合わせをすると思ってるんだ?」

「あなたを説得するのではなく、大佐を説得できる理由を用意すればよかったんですよね?」


 確かにそう言ったのは俺だが……。


「わかったよ、大佐に打診してみる。どうせ拒否されるだろうけどな」



「艦隊戦シミュレーター室? そう言えば、君は、この前、マリリノスでいろいろやったそうだな」


 工業母艦のCICにいた大佐に連絡を取ると、そんな事を言われた。


「ええ。まあ、ありましたね、いろいろ……」

「私は仕事と遊びは分けて考えるべきだとは思うがね。遊びの延長で学習できるなら、不真面目な奴にも効くだろう」

「そうかもしれませんね」

「居住区と缶詰工場が終わったら、次は司令部。それで構わんよ。やってくれ」


 まさか、提案が通るとは思わなかった。


「あの、司令部の設置が早すぎるという考え方もありますが?」

「なんだ? 君は私に反対されたいのかね? どうせ今作っても、後で作り直すんだろう? 小規模でも、ここより広けりゃ文句は言わんよ」


 そういう事になった。



 そして、さらに一か月後。

 農場はある程度軌道に乗り、缶詰工場は稼働を開始し、居住区と司令部は完成した。

 倉庫は相変わらず、貨物で溢れかえっていた。


 ソファーに寝そべって、俺はモニターの一つを確認する。


 映し出されているのは、艦隊戦シミュレーターの様子だ。

 この部屋は、予定よりも広く作った。マリリノスのあの部屋と同じように。講義室としても使える。

 今は、ノーラが、ハルニアと対戦しているところだった。

 ハンデか何かで、ハルニアには多めに船が与えられているようだが、ノーラが圧倒している。


「問題ないみたいだな」


 俺が知りたかったのは、裏でマリエアが何かしていても、艦隊戦シミュレーターがラグったりしないかどうか。

 後でノーラに聞いて、何の違和感もなかったなら、テストはクリアだ。


 一方、俺の隣では、マリエアが何かをやっていた。

 大容量の通信設備と、大容量のストレージ。

 これは、スパコンと繋がっている。


 ストレージは俺の私費で買った物だ。

 安くはないが、せいぜい数千クレジット。


 俺は、本格的な問題が起こる前に、マエリアを止めたかった。

 だから、マエリアが何をしようとしているのか、ここで見極める。

 少なくとも、ただのゲームとかではないだろう。

 スパコンまで使って、何をする気だ?


「はい、解凍終了です。これは、最新のワープドライブの設計図みたいですね!」

「は? 何を言ってるんだ?」


 俺は端末に表示されたデーターを確認する。

 確かに、ワープドライブの設計図のようだ。

 しかし、最新かどうかまでは、わからない。


「おまえの言っていることが全て本当だとして。どうやってそれを手に入れた?」

「なんか、こう、来るんですよ。……宇宙の果てから?」

「宇宙の果て?」


 解凍とか言ったが、解凍前のデーターをどこから持ち込んだのかすら、俺にはよくわからない。

 マリエアは奇妙な笑顔を浮かべる。

 それが何なのかは、わからない。少なくとも、無害ではない、と俺は感じた。


「欲しくないですか? 最強の宇宙戦艦」


 ただ、すぐに断れない提案だったのも、事実だ。

 どうしたもんかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ