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基地建設の始まり


 ブラッドノーチラスとの戦いから四日が過ぎた。

 ここはセラエノ星系。ようやく目的地に到着した。


 俺は今、工業母艦の展望室で外の風景を眺めていた。

 窓の外には、二つの恒星が輝いている。

 一つは、およそ1億キロの距離に。そしてもう一つは、20億キロぐらいの遠くに。


 そして、ここから1万キロも離れていない所に惑星がある。

 そこには今、巨大な宇宙ステーションの建設の用意が整いつつあった。


「そんなに連星が珍しいかね?」


 俺に嘲るような声をかけてきたのは、肥った男だ。

 アーニック大佐。

 この工業母艦の船長で、これから建設される宇宙ステーションの責任者になる予定の男だ。

 要するに、俺の上司でもある。


「珍しいって程でもないでしょう」


 この恒星系は、二つの恒星がある。連星、というやつだ。

 恒星のうちに、四つに一つは連星らしい。

 ただ、俺が連星に宇宙ステーションを建設するのは初めてだ。


 連星だと、資源の採掘候補が増える。選択肢が増えるのはいいが、考える事も多くなる。

 近いけれど質の悪い資源を使うか、遠くて輸送に手間がかかる良質な資源を使うか。


 まあ、その辺りは、俺が来る前にほぼ決まっていて、採掘と輸送も始まっている。


「なんでもいいがな。さっさと建設を始めてくれ。作業が滞っているからな」

「わかっています。今は、基礎の完成を待っている状況なので」


 窓の外では、鉄骨が溶接され、骨組みが広がっていく。

 この作業はロボットの仕事だ。

 というか、建設のほとんどはロボットの群れによって行われる。


 俺の仕事は、設計図を描く部分だ。それも、だいたいの部分は描きあがっている。

 後は、実際に組み立てて、問題が発生したら補正していく。


「今は、完成するか問題が発生するのを待っている状況ですよ。建設現場を眺めているのも、仕事の内です」


 俺がそう主張するとアーニック大佐はふん、と鼻を鳴らす。


「物は言いようだな」

「作業用ロボットの数を倍にすれば、作業時間は半分になりますよ」

「ロボットの数は決まっている。勝手に増やせない、増やすにしたって、工場を作らないと無理だろう」

「当然ですね」


 作業用ロボットの工場は、作るのに一番時間がかかる施設だ。

 細かい部品をたくさん使うから、それの加工施設がいくつも必要になる。


 そして作業用ロボットを作れるようになると、もう、作れない物は宇宙戦艦のワープエンジンぐらいしか残らない。

 できるだけ後回しにしたい。

 というか、普通にやっていると、後回しになる。


 ただし、作った部品工場は、宇宙戦艦の部品も作れるからな。

 ここは艦隊の拠点になるので、いずれ作らなければならない。


「まあいい。さっさと輸送船の荷物を降ろすんだ。そうしないと、次の荷物が届かないからな」

「では、貨物倉庫の優先順位を上げておきます」

「そうしろ」


 アーニック大佐は、ふんぞり返りながら、去っていった。

 やれやれだ。

 俺は端末を開いて作業の進捗を確認する。


 宇宙ステーションの建築は、鉄骨から始まる。

 とにかく鉄骨を繋げて骨組み、それが土台になる。

 ある程度の大きさの枠を作ったら、シールド発生装置を設置して、とりあえず完成。


 それから鉄板の箱を作って並べていく。

 箱に空気漏れがないか確認してから、内側に必要な施設を置く。

 どんな設備を作るにしても、人間が住む以上、空気が必要だ。

 酸素と窒素を確保しなければいけない。


 最初に作るのは、発電機、アイス解凍装置、そして農場だ。


 凍結した惑星からアイスを採掘して持ってくる。

 このアイスは、場所にもよるが、個体窒素(液体窒素の温度をさらに下げた物)、氷、ドライアイスなどが主成分だ。

 これを溶かせば、窒素と水と二酸化炭素が出てくる。


 この気体を農場に流せば、二酸化炭素は酸素と食料になる。

 理想的な窒素と酸素の割合は4:1、今回は、酸素の方が多くなる。

 増えすぎた酸素は、燃料電池に放り込めばいい。


 空気が増えたら、発電機とアイス解凍装置と農場を増やして……ある程度の量になったら、次は何を作るかな。


 駐留艦隊で働く隊員のための居住施設を作るか。

 いつまでも、船の中で暮らすのも、狭苦しいからな。



 俺が、船内の自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、軍服ワンピースの女が表れた。

 ノーラだ。


「やっと本業が始まったわね」

「ああ。腕の見せ所ってやつだな」

「ところで、あのチロプテラ級輸送船だけど……アルパカ海賊団の物だったみたいよ」

「そうか……」


 海賊の船なら、民間人は乗っていなかったはずだ。

 なら、気が楽になる。


「いや、まてよ? ブラッドノーチラスは、ミルキー海賊団の船だろ? どうなってるんだ?」

「謎が多いわね。生き残った乗組員の証言によると、何かを輸送する途中で、ミルキー海賊団に荷物を奪われたみたいね」

「荷物を奪われた?」

「スモールコンテナ一つ分、らしいけど……何が入っていたのかは、船員も知らなかったみたい」

「あいつらは、なんで船の中に残っていたんだ?」

「ミルキー海賊団は、船員を皆殺しにしようとしてたみたい。けど、必死で抵抗したのね。もう一回攻撃を受けたら、全滅していたかもって……」

「そうか」


 軍に捕まった海賊の末路は、だいたい死刑だ。

 素直にしていれば、減刑されるかも知れないが……俺から言う事は何もない。


「それと、一人、子どもが乗ってた。民間人かも」

「なんだそれは……かも?」


 人質とか奴隷とか、そういう扱いだったのだろうか?


「それが話を聞いてもよくわからないのよね。船員も、VIPとしか聞かされていなかったらしいし、DNAの登録も見つからないし」

「なんだそりゃ? 登録がない?」

「一切なし。今、首都に照会をかけてるけど、望み薄みたいね」


 何かの理由で本人が登録されていなかったとしても、三等親ぐらいは検索範囲内のはずだが。


「今はどうしてる?」

「……害はなさそうだったから、イオーサに相手させてるんだけど」

「イオーサに?」

「まずかったかしら?」

「いや、別にいいんじゃないか。今のところは、何もやる事がないだろうからな」


 俺は答えてから

 ちょっと様子を見に行ってみようかな。



 俺が、イオーサに会いに行くと、イオーサは、悲鳴を上げていた。


「ロッセル、助けてぇ」


 イオーサに、子どもがまとわりついている。女の子だ。

 外見年齢は12歳ぐらいだろうか。

 実年齢の判断が難しい所だった。


 この世界の人間は生まれてから20年ほどで外見年齢が10代半ば (地球換算)まで成長し、200歳ぐらいで外見年齢20歳 (地球換算)になり、あとは、十分の一ぐらいの速さで老いていく。


 で、この子どもは何歳なのだろうか?

 本当に20歳未満なのかもしれないし、単に見た目が子どもっぽいだけで、20歳以上の可能性もある。


 ……どっちでもいいか。


「おい。嫌がってるだろ、やめてやれ」


 俺が子どもに言うと、子どもは俺の方を振り返る。


「この人、いい匂いがするんですよ……。こういう人に会ったのは初めてなので……んー?」


 子どもはイオーサから離れて、俺の方に来る。

 と思ったら、遠慮なく抱き着いてきた。


「あー、あなたもいい匂いがしますね。ご家族ですか?」

「いや? なんでだろうな」

「ふにゃふにゃ、ふえー」

「こら、まとわりついて来るな」


 俺はべたべたと抱き着いて来る子どもを引きはがした。

 人懐っこいのは結構だが、誰にでも抱き着くのはよくないぞ。


「おまえ、名前は?」

「マリエア・ナクアです」



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