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ブラッドノーチラス、4(決着)


 格納庫内は、混とんとした状態になっていた。

 イオーサは縦横無尽に輸送ドローンを走らせ、海賊はその対処に追われている。

 海賊側は3隻の小型船のうち、1隻でイオーサのドローンを追い回し、残り2隻でエアロックの破壊とその防御に当たるようだ。


 海賊の小型船は、武器はついていないようだが、船体に取りついた海賊が、レーザーガンのような物を連射している。

 イオーサは華麗にドローンを操って、格納庫内のいろいろな物を盾にしながら逃げ回る。


「ねえ、エアロックの方に行った方がいいかな?」

「いや。大丈夫だ。そいつだけでも引き付けておいてくれ」


 イオーサは囮だ。

 俺は別の輸送ドローンを操って、輸送船を固定しているアームの根元に「荷物」を運ぶ。

 運ぶのは、爆薬を満載したコンテナだ。遠隔の起爆装置も取り付けてある。


「ジャゴン、終わったか?」

「まだです。あと二カ所……」


 ジャゴンは必死に、輸送船のカタパルトをハッキングしていた。

 自分の船の装備をハッキングするというのもおかしな話だが。


 貨物用のカタパルトは、万が一の事故を防ぐため、十重二十重の安全装置が仕掛けてある。

 画像解析で、見た目が輸送船の受け取りシステムと違ったら、それだけで作動しない。

 ジャゴンには、その安全装置を解除させていた。


「終わりました」

「よし。いくぞ」


 俺は、固定アームの根元に設置した爆薬コンテナを起爆する。

 船がグラグラと揺れた。

 エアロックに取りついていた敵の小型船が、弾き飛ばされる。

 今回は即死するほどの勢いではなかったが、作業はしばらく中断されるだろう。


「固定解除されました……。で、どこを狙いますか?」

「どこでもいいが……敵の小型船、どこから出てきたっけ? 追加もあるんじゃないか?」

「では、そこを破壊します」


 安全装置が外れたカタパルトは、危険だ。

 特に、起爆装置付きの爆薬コンテナを射出した場合は、射程の短い大砲に等しい。


 ジャゴンは、輸送船を操って少し角度を変え、カタパルトを撃つ。

 着弾と同時に爆発。

 爆発音も振動も来なかった。

 格納庫の中は真空で、輸送船とも切断されているからだ。


 だが、小型船が出てきた扉の周辺は滅茶苦茶に破壊されていた。

 これでもう増援は来ない。

 と、ジャゴンが何かに気づく。


「発光信号が来ているようです」

「なんだ?」

「解読できなかったので、よくわかりません。たぶん、こちらに通信を要求しているのでは?」

「無視しよう。受ける意味がない」


 今通信を開いたら、コンピューターウイルスを投げ込まれそうだ。

 そんな簡単に防壁は突破できないと思うが……とにかく奴らは性格が悪そうだからな、グロ画像の一つや二つは送り付けてきてもおかしくない。


 作業班はエアロックを諦め、カタパルトの方に向かっていた。

 もう一度これで攻撃されたら、おしまいだと思っているのだろう。

 だが、それはもう使わない。

 ジャゴンに、何かを狙っているかのように演技しろと命じてから、俺は本命の攻撃を仕掛ける。


 俺の本当の狙いは、この輸送船の隣にあるチロプテラ級輸送船だ。

 この船、ステルス性は高いが、それゆえ弱点もある。

 装甲が薄い。


 特にエネルギージェネレーターの付近は、放熱の都合もあって、外側にむき出しだ。

 そこに、爆薬コンテナを設置する。


「イオーサ、輸送ドローンを安全な位置に避難させろ」


 イオーサは、囮として逃げ回らせていた輸送ドローンを、輸送船の影に隠す。

 爆薬コンテナを起爆。

 チロプテラ級の装甲が剥がれた。

 数秒後、その穴から炎が吹きあがった。


 炎は一瞬で消えた、ように見えた。真空中の透明な炎だ。

 熱エネルギーは噴き出し続け、直線方向にある壁が赤熱し始める。


 エネルギージェネレーターの暴走だ。

 爆発までは、およそ10分。

 封じ込められていたエネルギーが全て解放されれば、ブラッドノーチラスすら、ただでは済まないだろう。


 ブラッドは、ブリッジで悲鳴を上げているに違いない。


「さて、ここからどうなるかな」


 爆薬のコンテナとドローンがいくつかあるが、ゲートを無理やり解放させる程の威力はない。

 チロプラテ級の爆発では、俺たちも死ぬ。

 ちょうどいい火力が用意できなかった。

 つまりブラッドが自分の意志でゲートを開けて俺たちを外に放り出すようにしむけるしかない。


「ゲートが開いていきます。……片側だけ、ですね」

「チロプラテ級だけ外に投げ捨てるつもりか」


 あくまで俺たちは逃がさないつもりのようだ。


「トラクタービームを起動。チロプラテ級を格納庫内に引っ張り戻せ」

「えっ、しかし……」

「やるんだ」


 ジャゴンは渋々、従う。

 俺の指示は、このまま格納庫内で爆発させろ、と言ったに等しい。

 最悪、俺たちも巻き込まれて死ぬ。

 だがチロプテラ級が捨てられた後でゲートが閉じたら、俺たちは今度こそ対抗手段を失う。


 俺は、輸送ドローンをトラクタービームの装置の近くに先回りさせ、イオーサに操作権を渡す。


「海賊の作業船が、ビームを破壊しに来るはずだ。阻止しろ」

「オッケー」


 だが、作業船は来なかった。

 代わりにゲートのもう片方も開く。

 決断が早いな。


「トラクタービームはもういい、脱出するぞ」


 輸送船は、格納庫から宇宙空間に出る。

 ほぼ同時に、チロプテラ級も放り出された。


 俺たちが離れてすぐ、ブラッドノーチラスは短距離ワープでどこかに逃げて行った。

 海賊を取り逃がすことになるが……この状況からなら、善戦した方だろう。


 チロプテラ級はもうすぐ爆発する。

 ノーラもこっちに気づいて助けに来てくれるだろう。

 と、ジャゴンが慌てて報告する。


「チロプテラ級から、脱出ポッドが放出されました」

「なんだと? 向こうにも人がいたのか?」


 てっきり無人だと思っていたから船を爆弾代わりに使ってしまったが……

 もし、チロプテラ級の中に民間人が残っていて死んでしまったら、殺人になる。

 これは海賊から逃げるためのやむを得ない行動だから、法律上の責任は問われないと思うが……。


 ただ、俺の気持ちがそれで納得するわけではない。

 イオーサとジャゴンも、動揺している。


「……俺の責任だ。向こうの船の乗組員も、できる範囲で救助してくれ」


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