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ブラッドノーチラス、1


 決闘の日から一週間ほど経って、俺の休暇も終わった。

 セラエノ星系へ移動する日になる。

 俺とイオーサが乗り込むのは輸送船だ。


 ジャンガリアン級輸送船

 全長500メートルほどの細長い船で、外見的には、特徴と言えるような物はない。

 強いて言うなら、先端部分が、ほお袋に種を詰め込んだハムスターの顔に似ている事ぐらいか。


 何はともあれ、輸送に使うならいい船だ。

 貨物室にはミドルコンテナを1200個も詰め込めるし、宇宙空間に散らばっている貨物を回収するためのトラクタービームと輸送ドローン、離れた船にコンテナを飛ばすカタパルト機能までついている。


 俺たちはシャトルバスで輸送船へと向かう。

 窓から見える輸送船の姿に、イオーサも驚いている。


「凄いなー、ベガスからこっちに来るときに乗った船より大きくない?」

「まあな。基地一個分の建設資材となれば、量もそれなりだ。というか、これでも足りないんだが……」

「足りない分はどうするの?」

「先行している艦隊がいる。向こうには移動式の工場船もある。小惑星を掘って、合金を精錬して、建築資材を作る」

「あれ? それならこの輸送船は、いらなくない?」

「……何でも作れるってわけじゃないぞ」


 鉄骨や鉄板のような簡単な物ならともかく、精密加工機械のような、作るのが面倒だったり作るのに時間がかかる物は、現地でいきなり生産はできない。

 浄水器や、医療用の機械もダメだ。人間の命に直結するような物は、製作もそうだが、検査するのが難しい。

 そういう物は、手っ取り早く輸送で済ませる。


 ゆくゆくは、大規模な艦隊が消費する全資材を自給自足できるようにする計画らしいが。まだ先の話だな。


 そして、基地から出てくる宇宙戦艦の数々。

 すらりとした細長い船体の上部に、ゴチャゴチャと砲塔やアンテナが並んでいる。


 こちらも大きい。

 輸送船の横に並ぶと倍ぐらいの全長がある。


「輸送船も大きいと思ってたけど、戦艦の方が大きいのかな」

「ああ。戦艦は、全長1000メートルを超えるな」

「シミュレーターだとマッチ棒みたいなアイコンだったけど、あんな感じなんだ……」


 イオーサは、整列していく戦艦を感心しながら眺めていた。

 戦艦300隻。ノーラ・スプリット艦隊だ。


「ノーラさんはあっちに乗ってるの?」

「ああ。旗艦は……どれだろうな」


 何かわかりやすい目印がついているわけではないし、先頭で出てくるわけでもない。

 まあ、どこかにいるだろう。


 〇


 シャトルバスは輸送船にたどり着いた。

 俺はまずブリッジに顔を出しておく。


 ブリッジは、船の操縦をするための場所だ。たくさんのモニターと操作盤が並んでいる。

 中央の席で、細身の男がどこかと通信をしていた。

 俺たちに気づくと振り返る。そして、慌てて立ち上がり、敬礼。


「船長。お待ちしておりました。自分は航海主任、ジャゴン・ヘリックです」

「おお。……ふふふ、船長か」


 いいね。

 俺が浸っていると、イオーサに後ろから背中をつつかれる。


「いきなり船長とかになって大丈夫なの?」

「ああ。一応、必要な訓練は受けてるよ。何か仕事はあるか?」


 俺が聞くと、シャゴンは笑顔で答える。


「いえ、大丈夫です。今回は計画通りに飛ぶだけなので。よほどのトラブルでも起こらない限り、自分だけで動かせます。忙しくなるのは、目的地についてからですよ」


 やめろよ。なんでフラグみたいなことを言うの。


 〇


 セラエノ星系までは、およそ120光年の距離がある。

 一度のワープで飛び越せる距離は最大で20光年。

 そして一度ワープすると、ワープドライブを冷却するため、一日ほどの休憩が必要。

 つまり、五日はかかる。


 問題が起こったのは三日目。

 三回目のワープが終わって、その冷却期間ももうすぐ終わるだろうかという頃だった。


 俺はブリッジに呼び出された。

 シャゴンは焦った様子で、どこかと通信していたが、俺に気づくと振り返る。


「船長。何かが飛んできた。らしいです……」

「何か?」

「少なくとも人工物です、ワープドライブを搭載した……」

「……まあ、そうだろうな」

「現在、こちらの艦隊からは、およそ十億キロほどの距離で止まっています」


 射程距離外だ。

 だが、短距離ワープなら一発で飛び込んでこれる距離でもある。


「フライトプランは出ていないそうです。民間船ではないだろう、と」


 そりゃそうだ。こんな所を飛んでる民間船なんて、滅多にないだろうな。

 つまり、いるとしたら海賊か、密輸か。


 そう言えば、この辺りには海賊の本拠地があるらしい。

 それに睨みを利かせるために、軍も大部隊を展開したくて、それで新しく基地を作る……というのが今回の計画だ。

 移動中に海賊に会う可能性は、ゼロではなかった。


 だから、ノーラが艦隊をつけて護衛してくれているわけだが。


「まさか相手も300隻の大艦隊だなんて言わないだろうな?」

「いえ、1隻です。ただ、かなり大きいようですが」

「大きいって、どれぐらい?」

「全長、4000メートルぐらい、だそうです。大丈夫でしょうか?」


 4000メートルは、ちょっとまずいな。

 海賊の中でもかなり本気のタイプだ。


「ノーラなら、これぐらいは何とかできるだろ……」

「それって、そんなに強いの?」


 いつの間にかブリッジに来ていたイオーサが首をかしげている。


「全長が4倍って事は、体積は4×4×4で64倍、せいぜい、戦艦64隻分の性能しかないよね? こっちは300隻だし。勝てるでしょ」

「違う。表面積は4×4で16倍だ。投影面積が16倍なのに、シールド容量は64隻分なんだ」

「え? つまり、どういうこと?」


 耐久力は戦艦64隻分だが、弾の当たりやすさは戦艦64隻と比べると4分の1という事だ。

 ただ1隻で浮いているだけなのに、常に交代防御陣形をとっているに等しい。

 それでいて、火力はちゃんと64隻分ある。


 陣形? なにそれおいしいの? を素で行くチートの塊だ。

 製作費や運用コストは跳ね上がるが、少なくとも戦場においては、大きい方が圧倒的に有利だ。

 海賊は、軍と違って、練度なんて概念はない。

 だからこういう巨大船を好む。


 しかも、この手の巨大船は、攻撃能力よりも防御力に重きを置く場合が多い。

 沈めるのは簡単ではないだろう。


 俺の説明を聞いて、イオーサも不安そうな顔になった。


「そうは言っても、流石に大丈夫、だよね?」

「そのはずだが……」


 相手がどの程度、本気かにもよる。

 戦艦ランキングに乗っているような船だったら、300隻の艦隊では危険かもしれない。


 どこかと連絡していたジャゴンが叫ぶ。


「まずいです! 艦名特定! ミルキー海賊団、ブラッドノーチラス!」

「それは聞き覚えがあるぞ。なんか有名な船だったような……」

「有名なんてもんじゃありませんよ! 戦艦ランキング10位につけている船です」

「10位か……」


 これは、ちょっとまずいな。


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