相方募集
「その動画が一時間で再生回数十万回いってさ……」
窓の外から運動部の無駄に元気なかけ声が届く。
「しかも内容がとんでもなくくだらないもので……」
元気な俺の声が教室に響き渡る。
「それでもやっぱり面白いんだよな。やっぱりトーク力があるんだよ……」
「ねぇ……」
「やっぱりやるんだったらあそこまでのスキルは必要なんだよ……
」
「ちょっと……」
「俺もあんな風に喋れるようになりたいよ。だってさ……」
「そんな話しに来ただけなら帰るわよ」
「ひっ!……すみません……」
先輩の表情が怖い。そんな変なこと言ったつもりないのに。
「あなたと二人っきりだって聞いたから来てあげたのに……てっきりエッチな事するんだと思ってたわ。ねぇ、翔琉くん。」
「ちょっ……違いますよ!!大事な話しに来ただけですって!」
ここで俺の自己紹介。
現在進行形で先輩に弄られてるのは俺。
滝翔琉(たき、かける)。
呉羽高校二年生だ。
「別にエッチな事してもいいのよ、お前は俺の女だ、はぁはぁ……ってね」
そして俺をからかって遊んでる1つ上の先輩。
宝城瑠璃(ほうじょう、るり)。
「用がないなら帰るわよ。さっさと用件を話なさい。」
「わかったから帰らないでください!!。単刀直入にいいますね……。俺のっ!俺のパートナーになってください!」
運動部の声がかき消されるほどの声量で一世一代の告白を瑠璃先輩に告げる。
「え……それって愛の告白!?結婚してくれってこと!?私は構わないけど……。翔琉くんも大胆ね……」
「っ……違いますよ!?ただ俺と一緒に動画を作ってくれってお願いしたんです!!」
「あなたの中身って小学生なの?馬鹿らしいわ……。それだけの為にわざわざ呼び出したってわけ?」
瑠璃先輩の静かで重い口調によって二人の間に緊張が走る。
「馬鹿らしいことなんかじゃありません。みんなが楽しいと思える動画を作るのが俺の夢なんです……。」
「まあ……登録者を増やしたり再生回数を伸ばすなら、私のような美人でスタイルのいい女の子を出すのは良いかも知れないけど……」
自分で自分を誉めるのは瑠璃先輩らしい。たしかに美人だしさ、スタイルも良いし正直目のやり場に困るよね、うん……。
だか瑠璃先輩には出演サイドではなく編集サイドでその能力を発揮してもらいたいのだ。
なにせ、瑠璃先輩は某有名実況者の編集者だから。
彼女の編集した動画は必ずと言っていいほど大ヒットする。
それは彼女の考える演出が素晴らしいことに他ならない。
「翔琉くんからの頼みなんだからやってあげたい気持ちもあるけど私にはデメリットしかないもの……。それともなにか私にメリットがあるのかしら?」
「そ、それは……。」
何も言い返すことがてきずにだんまりを決め込んでしまう。
「なら話は終わり。それじゃあまたね、か・け・る・くん」
「えっ……あっ……」
すぐさま先輩の姿が見えなくなり教室には俺だけ取り残されている。自分の気合いがあっさりと叩き潰され絶望感に道溢れる。
いや、このままでは終われない。なにせ俺、いや……俺たちの冒険はまだ始まったばかりなのだから。