表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

第7話「スーパースター」

 森川に勝つと栗藤さんに約束してから一週間。体育祭当日を迎えた。

「………………」

 第一試合の相手は二年八組。メンバー表を手に、俺は静かに闘志を燃やした。

「槇原」

 葉山が俺の名前を呼ぶ。

「葉山……」

 顔を上げると、葉山はそこに立っていた。

「そろそろ時間だな。試合、見に行くぜ」

 そう言って葉山は小さく笑い、俺もつられて笑った。



 第7話「スーパースター」



 両クラスの出場生徒がダイヤモンドの白線を横切る。審判を務める野球部員の前で向かい合って並び、試合開始の合図を待った。

「それでは、二年三組対二年八組の試合を始めます。礼!」

 声を上げ、頭を下げる。そして程なくしてすぐに全員がほぼ同時に頭を上げた中で、俺は森川の目を正面から見た。

「………………」

 森川もまた、目を逸らそうとはしない。自信と嘲笑の交じり合った表情で俺を見る。

「おい槇原、行くぞ」

「ああ」

 クラスの奴に腕を引かれ俺はベンチへと戻った。森川はその様子を最後まで眺めていて、俺がベンチに戻ったのを見届けるとマウンドの方へと歩き出した。軽く足場を慣らし、四、五球投球練習を行う。

 長い手足を充分に使うそのフォームは端整で、俺は息を呑んだ。

「プレイボール!」

 クラスの一番打者が白線のボックスの中に立つ。二、三回足場を固めた後バットをピッチャーの方へと向け、気合いを入れる。

「森川くーん! 頑張ってー!」

 八組のベンチから飛ぶ黄色い声援。それは八組の女生徒だけのものでは無く、一組から八組まで、全てのクラスから応援は来ていた。

 森川は優しく微笑み、手を振った。それを見てまた女生徒が声を上げる。

 ――正に、美男美女。この森川とあの栗藤さんが付き合っていただなんて、誰がどう見てもお似合いのカップルだ。

 俺はそれを認めたく無いのに、認めざるを得ない。気付けば右手に力が入っていた。

「………………」

 森川が体を屈め、右腕を振りかぶる。長い左足が地面を踏みつけるのとほぼ同時に、その右腕は大きな弧を描いた。

 次の瞬間、あっという間にボールはミットに収まった。バッターはバットを振る事もなく、ボールの収まったミットを見て呆然とした。

「ストライーク!」

 審判の右手が大きく上がる。女生徒の黄色い歓声が飛んでくる。

 ざわめきと歓声とが交錯するマウンドで、森川は不敵に笑った。



「バッターアウト!」

 一回の表、悠然と三者三振にとった森川は気だるそうにマウンドを降りる。

「……あ、あんなの打てねえよ……」

 クラスの応援の前で三振したバッターは、恥ずかしそうに笑いながらベンチに戻ってくる。

 俺はその様子をネクストバッターズサークルから黙って眺めていた。

「おい槇原、こっちの守備だ。行くぞ」

「ああ」

 心地良いくらいの金属音。打球はあっという間に外野の間を抜け、森川は平然と一塁ベースを回る。

「おっしゃ先制点〜! 森川ナイスバッティーン!」

 八組のベンチから、野太い歓声が湧く。

(くそ…………!)

 森川はゆっくりと二塁ベース上で止まった。それを見て、俺は三塁ベースの付近で力強くグラブを叩く。

 カキイン!

 またも鋭い金属音。俺はその打球を必死にグラブの中に収める。

「うわーマジかよ! ついてね〜!」

 バッターは悔しそうに天を仰いだ。三つのアウトを取った事で、俺は一塁側のベンチの方へ戻っていく。

 その途中で、三塁側のベンチへと戻っていく森川と目が合った。

「………………」

 お互い、何も言わずにすれ違った。

 ――厚い雲がかかった、薄暗いグラウンド。俺はバッターボックスの中に立っていた。

「槇原ー! 打ってくれ!」

 三組のベンチから聞こえる声援。森川へのそれとは比ぶべくも無いが、その中には女子のものも混じっている。

 俺はバットを構え、森川の目を見る。

(大丈夫だ……落ち着け。あれぐらいの球なら、打てない事は無い……!)

 森川の長い手足が、投球動作に入る。バットを握る両手には自然と力が入った。

(来い――森川!!)

 俺は微かな動きすら見逃すまいと、森川の動きに神経を集中させていた。しかし次の瞬間、森川の右腕の動きを目で追い切れなくなる。

 それ程に速く、力強く、森川の右腕は一瞬で弧を描いた。

 気が付けば、白球はキャッチャーのミットに収まっていた。

「ス、ストライーク!」

 一拍置いて、審判の右腕が上がる。それより更に遅れ、女生徒達の歓声が湧く。

「な……何今の!? めちゃくちゃ速くなかった!?」

「全然見えなかったー!!」

(………………!)

「バカ野郎! 手加減しろっつーの!」

 キャッチャーは、力を抑えろと促す。それ程に森川の球の衝撃は、彼のミットを貫いていた。

 ボールを受け取った森川は、またすぐに投球動作に入る。俺は慌ててバットを構え、息を呑んだ。

 必死にバットを振る。しかしそれよりも早く、ボールはあっという間にミットを捉えた。

「ス……ストラーイク!」

 バットを振った俺は体勢を崩し、ホームベース上によろめく。その様子を見て、森川は笑った。

(は……、速過ぎる…………!)

 野球と比べて、遥かに近い投手と捕手の距離。90km/h近い森川の球は、野球に換算した場合の体感速度で130km/h近くにまで達する。高校野球の経験の無い俺にとって、それは絶望的な数字だった。

 ――俺が必死にバットを出した時、ボールはもうミットに収まっていた。

 バランスを崩した体を支えきれなくなり、思わず地面に手をつく。

 歯を食い縛って顔を上げると、栗藤さんと目が合った。

たまに、何十とか何百とかという量の評価・感想を貰っている人を見ると、正直羨ましくなってしまう。

もっと頑張ろう。


あと、メッセというものをもらった事がありません。

誰か、試しに送ってみてくれないかなあ(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ