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第九話「美は醜を兼ねる」

「やあ森川君。今日もご機嫌麗しゅう?」

 東京を脱走し、北海道へ。彩乃の表情はとても晴れやかで、まるで友人かの様に大和の肩を抱き寄せた。

「ひ、姫島……。また戻ってきたのか」

 朝一番の大学構内。まだ人が少ない事もあってか、彩乃は今日はサングラスはしていない。

「ああ、やはり北海道は良いものだ。毎日でも帰ってきたくなる」

 そう語る真意は、当然仕事が嫌であるからだが。

「今日、講習は?」

 特に話題も無いので、大和は何となく訪ねた。

「確か、昼頃から一つ入っていた筈だ」

「昼って……。じゃあ何でこんな時間から?」

「いや、札幌の朝があまりにも気持ち良いものでね。とりあえず家を飛び出してきたんだ」

 彩乃は何故か誇らしげにそう話した。

(ひ、姫島彩乃はバカなのか?)

 大和の中にあった敵愾心はどこか薄れてしまっており、ただ彩乃という人間に面食らうだけであった。

「講義までどうすんだよ。俺はもう今これからだけど」

「マジで。講義まで森川君とキャッチボールでもしていようと思っていたのだが……。なら一回家帰ろうかな」

(こいつは……。素で言ってるんならただのバカだ)

 大和は、呆れつつも彩乃の人間性に少しだけホッとしていた。

「いや、しかしまあ折角出てきたのに勿体ないからな。女友達でも作っておこうか」

 瞬間、弛緩していた空気が凍った。無論彩乃にそういった意識は無く、あくまでも大和の主観だが。

「……ナンパでも?」

 言いようの無い不安。釘を刺す為に、大和はそう言ったのだった。

 だが、彩乃は不敵に笑うと再び大和の肩を抱いた。

「フフ、君も君とてそんなカッコイイ顔をしておいて。僕に紹介する女の一人もいないとは言わせんぞ」

「…………!」

 大和の背中を冷や汗が走る。

「しょ、紹介?」

「ああ。まあ可愛い子の写真かなんか見せて貰えれば、後は僕が好きにやるから」

 大和は、何とか引きつった笑顔を作るので精一杯だった。

(芸能人の恋愛基準がどれ程のものかは知らないが……きっと、つむぎは彩乃から見ても美人だ。それは絶対に間違いない。そして、姫島彩乃がもしつむぎに興味を持ったなら……)

 大和は、腐っても栗藤つむぎの元彼氏。つむぎの趣味嗜好、特に、好きなタレント。諸々知らない筈など無かった。

(…………! 姫島彩乃に、つむぎの存在は話せない。少なくとも、俺からは……)

 大和は、想像以上に激しくなった心臓の鼓動を自分で感じていた。

「いや、残念だけど……」

 大和は決心し、鞄から財布を取り出した。

「何だい?」

 財布の内ポケット……大事そうに納められている三枚の写真。その内、大和は一枚だけを取り出した。

「コレ、俺は可愛いと思うけど。どう?」

 大和は写真を彩乃の目の前に差し出した。

「おっ!」

 彩乃は興味津々に写真を奪い取り、写真に映っている女性をじっくりと確認した。

 ……少しして、彩乃は顔を上げる。

「コレ?」

 そう言う彩乃の目は黒く濁り、不味い物でも口にしたかの様にベロリと舌を出している。

「やっぱり、そういう反応だよな。どうも俺って他人と異性の趣味がズレてるらしくて。だから残念、姫島に女は紹介できないよ」

「マ、マジで……。君、どこか心身に異常を抱えているのなら僕が話を聞くが……」

 彩乃は本気気味に大和の身体を心配していた。

「結構。正常ですから」

 大和はそう言って笑い、『可愛くない時』のつむぎの写真を財布にしまった。

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