第七話「うるわしき頂点」
大和は、学生食堂でノートパソコンを起動させた。検索ページへと移動し、検索ワードをタイプする。
『北海道大学 アイドル』
マキシから話を聞こうと思っていた大和だが、最早そういう事態ではなくなってしまった。手段を問わず、早く真相を知りたい。
大和は、検索ボタンをクリックした。
『姫島彩乃、北海道の大学へと進学』
『イケメン王子姫島、北海道へ』
『ジャニーズ姫島活動休止? 北海道大学へ進学』
ズラッと並ぶ検索結果。それを見て大和は驚愕した。
姫島彩乃の名は大和も当然のように知っている。むしろ、大和達の世代で姫島の名を知らない人間がどれほどいると言うのだろうか。
(姫島……彩乃。まさかこんな超有名人が……)
女だと思っていたとか、そういう事はもうどうでも良くなっていた。姫島彩乃が自分と同じ大学に通っている。その衝撃は計り知れない。
無数に並ぶ検索結果の中から、姫島彩乃の紹介ページが目についた。大和は何となくそれをクリックする。
「嬉しいな、僕のファン?」
突然背中側から声がした。大和ははっとして、反射的に後ろを振り返る。
「男の人で僕のファンって結構珍しいんだけど、ありがとう」
全体的に華奢な体、女のように整った顔立ち、肩ほどまでに伸びた茶髪。目元のサングラスを外されなくても、傍にいる大和にはそのオーラが感じ取れた。
(ひ、姫島……彩乃……)
パソコンを覗き込むようにして、大和の肩に手を掛けた彩乃。大和は、瞬間その容姿に見惚れてしまっていた自分に気が付いた。
「こ、こんにちは」
切り出したのは大和。
「まさか、あの姫島彩乃が北大に入学していたなんて……今日になって初めて知りました」
大和が緊張しがちにそう言い終えると、途端に彩乃は腹立たしいといった面立ちに変わり、大和の肩から手を離した。
「事務所の連中に拘束されてたんだ。スケジュールをギチギチに詰められ、こっちに帰ってくる暇など無い程に」
バン! 彩乃は食堂のテーブルを叩きつけた。
「奴らは鬼だ……所属タレントの事など家畜程度にしか考えていない。一円でも多く稼ぐ為に朝から晩まで馬車馬の様に働かされる」
大和は、なんだか肩すかしを喰らったような気分だった。
「クソ。たまたま事務所に入ったってだけで奴らめ、完全にこの俺を我が物の様に扱いやがる。そもそもと言うのも俺がジャニーズ事務所なんかに入ったのは――」
これから話がまだまだ続きそうなところで、彩乃の携帯が鳴り出した。
彩乃は恐る恐る着信先を確認すると、あからさまに落胆した。
「マネージャーだ……。クソ、なんだってんだ。極力電話してくんなと言ってあるのに」
彩乃は憎たらしそうに携帯を睨む。
「じゃあ、そういう事だ。また何かあればよろしく願うよ」
彩乃はそう言って手を振り、食堂を出て行った。
一人残された大和はただ呆然として、ノートパソコンの電源を落とした。